かつて「日本は優秀な官僚で持っている」といわれてきたが…“エリート国家公務員時代”の終焉。若手が早々に打ちのめされるワケ【同志社大学教授が解説】

かつて「日本は優秀な官僚で持っている」といわれてきたが…“エリート国家公務員時代”の終焉。若手が早々に打ちのめされるワケ【同志社大学教授が解説】
※画像はイメージです/PIXTA

かつては定年退職まで勤め上げるのが常だった公務員、とりわけ国家公務員総合職の離職が目立つ昨今。その原因の一端は「世間からのバッシング」にあるといいます。本記事では、同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授の太田肇氏による著書『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP研究所)から、公務員の実態について解説します。

国家公務員のモチベは給与水準や労働環境ではない

欲求階層説で知られる心理学者のマズローは、承認欲求をつぎの二つに分類している。

 

一つは「強さ、業績、妥当性、熟練、資格、世の中に対して示す自信、独立と自由に対する欲望」である。もう一つは「他者から受ける尊敬とか尊重と定義できるいわゆる評判とか名声、地位、他者に対する優勢、他者からの関心や注意、自分の重要度、あるいは他者からの理解に対する欲望」である※2

 

国家公務員の総合職として採用されるような人たちの多くは、子どものころから受験戦争を勝ち抜き、周囲から優等生として見られてきた。就職に際しては、その延長で進路を決める。当然、大学の先輩から現場の情報も入ってくる。そのため活躍して尊敬される職業として公務員の魅力が薄れたら、実力次第で若くても活躍して存在感を示すことができる外資系金融機関や、コンサルタント会社などに進もうとする者が増えるのは納得がいく。

 

心理学者のF・ハーズバーグは職務満足に関係する要因を二種類に分け、満足に関係する要因を「動機づけ要因」、不満足に関係する要因を「衛生要因」と名づけた。

 

この分類によると、給与や職場の労働環境は衛生要因であり、「達成」や「承認」は動機づけ要因である。したがって優れた人材を引きつけ、やる気を引き出すには、仕事を通して達成感を味わえたり、社会的に認められたりすることが大切であり、給与水準や労働環境を改善するだけでは不十分なのである。

 

※2 太田肇『個人を幸福にしない日本の組織』新潮社、2016年、第7章

「公務員バッシング」による弊害

さらに注目すべき点は、公務員に対する世間の目が厳しくなり、「公務員バッシング」が広がってきたことである。

 

不況期には安定した地位や相対的に恵まれた公務員の給与・ボーナスがマスコミによってやり玉にあげられる。一握りの公務員が起こした不祥事や問題行動の情報が、マスコミやSNSを通じて拡散される。大多数の国民・市民の現状を肯定する声、好意的な声が、一部から発せられるネガティブで大きな声にかき消されてしまう。

 

公務員のモチベーションは正義感や善意、そして承認欲求、社会的承認というデリケートで壊れやすい要素によって支えられている。それだけに、公務員バッシングの広がりが、公務員と国民・市民との関係を質的に変えるきっかけになりかねない。

 

〈奉仕に対する感謝〉〈優秀さと矜持に対する尊敬〉という信頼に基づく善意の関係が崩壊したとき、〈義務に対する権利〉〈怠慢に対する監視〉といった相互不信に基づく悪意の入り交じった関係へ移行するのである。それがいかに危険な要素をはらんでいるかを考えなければならない。

 

以前、ベテラン消防士から聞いた話が忘れられない。消防士の仕事はしばしば身の危険をともなう。ときには、あえてリスクを負わなければならないケースもある。そのようなとき、たまに頭をよぎるのはつぎのような記憶だという。

 

「公用車で弁当を買いに行っていた」「仕事中に菓子を食べていた」という類の些細なことについても市民から役所に通報が入る場合がある。すると上司から型どおりの注意を受ける。火災現場でギリギリの判断が迫られたとき、クレームを受けた経験が脳裏に浮かび、火のなかに飛び込むのを躊躇することがあるというのだ。もしかすると、その陰で人命が左右されているかもしれない。

 

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何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造

何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造

太田 肇

PHP研究所

貧しいニッポン、働かないおじさん、無気力な若者、進まない女性活躍……。 実態とは裏腹に、「失敗を恐れないチャレンジ」「イノベーション」といった威勢のいいスローガンが虚しく響く。 なぜ、ここまでに理想と現実がかけ…

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