納税者の“うっかり”を見逃さない税務署…「年収の壁」を超す配偶者控除で「4,800万円の脱税」がバレたワケ【元マルサの税理士が解説】

納税者の“うっかり”を見逃さない税務署…「年収の壁」を超す配偶者控除で「4,800万円の脱税」がバレたワケ【元マルサの税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

映画『マルサの女』で有名になった国税局査察部(通称マルサ)。特定の税務署に設置される「特別調査部門(トクチョウ班)」はその登竜門ですが、トクチョウ班は案内板にも職員録にも記載されない“シークレット部隊”だと、元マルサで税理士兼住職の上田二郎氏はいいます。上田氏が「トクチョウ班」統括官時代に担当した「脱税の具体例」を解説します。

年齢の記載がない「給与賃金の内訳」

トクチョウ班の筆者が感じた“小さな違和感”

個人事業主の確定申告書に添付する青色決算書には、1年間の事業収入や必要経費の内訳が記載されている。

 

そのなかにある「給与賃金の内訳」には従業員の氏名、年齢、給与総額、源泉徴収税額などが記載されるのだが、ターゲットである司法書士(開業5年目)の決算書には、年齢を記載していないA子(支給額600万円)とB子(支給額360万円)がいた。

 

ふたりの名字は同じ。他の3名には年齢が記載してあり、26歳~31歳の比較的若い従業員構成になっている。

 

マイナンバー導入前の当時、A子とB子の素性を解明するには、税務調査に入って給与台帳を確認するしかなかった。不審に思いながらも調査に入る端緒としては弱く、毎年3,000万円もの所得を申告しているターゲットに対し、おいそれと踏み込むことができないでいた。

 

そんな時、怪しんでいたA子に市区町村から扶養是正の通知が届いたことを知った。

※ 扶養是正とは……前年以前3年間の年末調整において控除した扶養控除や配偶者控除、配偶者特別控除に誤りが見つかった場合、適正に計算をやり直して納付する措置のこと。これらを見つけだすのは市区町村だが、数が多くて処理が追いつかないためマイナンバーを導入した。

 

山口統括官「トクチョウ班で管理している司法書士の調査はいつですか?」

 

筆者「踏み込む勇気がなくて、去年からずっと監視中です」

 

山口統括官「従業員A子さんの扶養是正通知が届いています。夫が控除対象配偶者にしてますが、雇い主の司法書士には関係ありませんので、こちらで処理しますね」

 

筆者「扶養是正ですか。ところでA子さんは何歳ですか?」

 

山口統括官「今年で80歳です」

 

A子の夫(83歳)は不動産賃貸業で確定申告をしているが、年収600万円のA子を控除対象配偶者にしていた。A子の給与は他の若い従業員の約2倍。なにかがおかしい……そして、住民税を調査すると、B子(50歳)はA子の娘と判明した。

常勤しているはずの従業員の机がない!

扶養是正の処理をストップするよう依頼し、すぐさま現場確認に行くと、外から内部が見渡せた。

 

事務所内には席が4つあって、司法書士(男)と比較的若い3名の従業員がいるが、80歳や50歳の女性は見当たらない。そもそも2人の席が存在しない。

 

しかし、外部からでは死角になる部分もあって、無予告で踏み込んだときにA子やB子の勤務実態があれば大問題になりかねない。

 

はじめて事務所を確認した日は12月14日。この日の状況が反映する確定申告書が提出されるのは来年3月15日。現時点でうかつに調査に入れば、「昨年までは勤務していた」と主張してくるだろう。ここは、じっくり待って証拠を集めて着手することに決め、トクチョウ部門のメンバーに張り込みを命じた。

 

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