(※写真はイメージです/PIXTA)

オーストリアの皇太子夫妻がセルビアの青年に暗殺された「サライェヴォ事件」。これをきっかけに激昂したオーストリアはセルビアに宣戦布告し、「第一次世界大戦」が勃発します。しかし、戦車や毒ガス、潜水艦など数々の新兵器が登場したこの戦争は、同盟国側・連合国側ともにボロボロの「消耗戦」となったのです……。『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)の著者である河合塾講師の平尾雅規氏が、第一次世界大戦の「裏側」について解説します。 

戦車、毒ガス、飛行機…新兵器登場により“前代未聞の消耗戦”に

開戦して間もなく「この戦争、今までとは何か勝手が違うぞ…」と参戦国は気づき始めました。まずは新兵器。戦車・飛行機・毒ガス・潜水艦という現代の戦争でも用いられる兵器が登場し、戦禍が拡大します。

 

さらに、機関銃の普及によって戦場では四六時中、銃弾が飛び交いました。軍は陣地に塹壕を掘り、身を隠して機関銃を撃ちあいます。

※ 機関銃は第一次世界大戦で登場した新兵器ではない

 

物資をいたずらに消耗し、睨みあいが続く長期戦となり、しびれを切らせて不用意に突撃すれば、機関銃掃射の格好の餌食になるのがオチ。このように機関銃の普及で防御側が有利になったことでことごとく防御側が守り切ってしまい、死闘の末にも戦局が変わらない! という状態になりました。

 

例えば西部戦線の3つの戦いを見ると、全て防御側が攻撃側を阻止しているんですよ。でもその被害は尋常じゃなく、ある統計によればヴェルダン要塞攻防戦の死傷者は計70万、ソンムの戦いは150万人です…。

 

国民が疲弊するなか、政府の強力なナショナリズムにより「挙国一致体制」へ

おびただしい量の武器・弾薬・物資が消費され、瞬く間に補給が底を尽きました。政府は兵士と物資を戦線に供給し続けなければいけません。人手不足になった後方では女性が軍需工場などで働き人手不足を補いました

 

多くの農地が戦場になって食糧が不足したため、食糧は配給制に。戦争遂行のために、前線の兵士だけでなく後方の国民の頑張りが求められる、総力戦体制になったのです。これを支えた精神的支柱はやはりナショナリズムで、政府は大戦を祖国防衛の戦いと位置づけ、挙国一致体制を敷きます。

 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋
[図表2]第一次世界大戦中の戦場と後方の動き 出所:『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より抜粋

戦局打開のきっかけとなった「アメリカの参戦」

膠着した戦局を打開するきっかけはアメリカ合衆国の参戦でした。当初は中立であったアメリカですが、ドイツの無制限潜水艦作戦に反発して連合国側での参戦を決意します。

 

この背景にはアメリカがイギリスとフランスに多額の貸し付けをしていた事情もありました。もし英仏が負ければ、賠償金支払いなどの負担で、貸したお金が返ってこない恐れがあるからです。

 

ギブアップ相次ぎ、“グダグダの終戦”に

前代未聞の消耗戦は深刻な物資不足をもたらし、国民生活を圧迫しました。まずはロシアがギブアップし、窮乏に苦しむ国民によってロシア革命が勃発します。同盟国も次々に降伏し、最後はドイツでも厭戦気分が高まってドイツ革命へ。皇帝ヴィルヘルム2世はオランダへ亡命して、新しい共和政政府が休戦協定に調印しました。

 

この終戦は「連合国が同盟国をノックアウトした」というよりも、「0対0の試合が延々と続き、スタミナが尽きたチームがギブアップして試合放棄した」と言った方が適切でしょう。

 

勝者となった連合国もボロボロになっていたわけで、これが戦後に深い爪跡を残すことになります。

 

 

平尾 雅規

河合塾

世界史科講師

 

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※本連載は、平尾雅規氏による著書『大人の教養 面白いほどわかる世界史』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

大人の教養 面白いほどわかる世界史

大人の教養 面白いほどわかる世界史

平尾 雅規

KADOKAWA

「なぜ、戦争や紛争が絶えないのか?」「なぜ、国によって考え方・風習・生活が違うのか?」 ……答えは高校時代に習った世界史の授業のなかにあったはずなのに、大人になったいま、その答えがすっぽりと抜け落ちていません…

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