知らないと税務調査で指摘される…「不動産取得費」を調べるときの落とし穴【税理士が解説】

知らないと税務調査で指摘される…「不動産取得費」を調べるときの落とし穴【税理士が解説】

売買契約書を紛失してしまい「不動産の取得費」がわからない……。そんなとき、「市街地価格指数」などを用いた計算から割り出すことは可能です。しかし、一定の条件を知らずに計算してそのまま譲渡取得税を申告してしまうと、税務調査で不利に働く可能性が高まります。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、不明な取得費の調査方法ついて解説します。

個別の土地価格を証明していないのに利用されていた「市街価格指数」

概算取得費とは別の取得費算定方法の1つである、市街地価格指数とは

 

・一般財団法人日本不動産研究所が全国主要198都市で選定された宅地の調査地点について、
・日本不動産研究所の不動産鑑定士等が年2回価格調査を行い、
・これらを基に宅地の価格を指数化したもの

 

をいいます。このように、これは、個別具体的な土地の価格については証明していません。にもかかわらず、従来、一般的に利用される契機となったのが、平成12年11月16日裁決です。

 

〈取得価額の認定〉
土地・建物を一括して譲渡した場合において、それぞれの取得価額が不明なときには、

 

①先ず建物の取得費をN調査会が公表している着工建築物構造単価から算定し、
②次いで土地の取得費は、譲渡価額の総額から建物の取得費を控除し、土地の譲渡価額を算定した上で、

 

譲渡時に対する取得時の市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて算定した事例

(平12-11-16裁決)(TAINSコードJ60-2-19)

 

上記裁決によると、納税者は、土地(宅地)建物、農地を3,000万円で一括購入していますが、全て宅地の取得費と主張しています。

 

一方で、審判所は実額で算定できないので、取得時の時価相当額を推計すべきと判断しています。特に取得日が昭和59年である宅地については譲渡時に対する取得時の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて推計する方法を認容しています※2

 

 

近年の裁判では「市街地価格指数」の採用自体が否定されている

当初申告でも、市街地価格指数による取得費はその採用自体に疑義が生じるケースが近年の裁決例から読み取ることができます。以下では、過去の裁決例を検証します。なお、現実の取得日は重要な考慮要素となるため、それも付します。

 

〇平成8年12月20日裁決…取得日は昭和40年
納税者は市街地価格指数採用、審判所は概算取得費を採用しました。


〇平成10年6月16日裁決…取得日は昭和43年
納税者は相続税財産評価基準額を基に算定した代物弁済価額採用、審判所は昭和54年7月の基準地価格を基に市街地価格指数で推計しました。「納税者が取得費について主張しているのであるから、概算取得費の規定には該当しない。」と裁決しています。


〇平成15年3月19日裁決…取得日は昭和47年、昭和62年
納税者は契約書記載金額等、審判所は昭和47年取得分については、概算取得費を採用、昭和62年取得分取得については、契約書等記載金額を採用しています。


〇平成17年3月15日裁決…取得日は不明です。
納税者は譲渡価額を基に公示価格の変動率から推計しました。審判所は概算取得費を採用しました。


〇平成26年3月4日裁決…取得日は、昭和38年から昭和40年にかけての複数物件です。
納税者は譲渡価額を基に市街地価格指数の変動率から推計しました。裁判所は概算取得費を採用しました。

 

市街地価格指数による取得費採用についてかなり難色を示しているのが分かります。裁決において、

 

市街地価格指数は、個別の宅地価格の変動状況を直接的に示すものではないから、これに基づき算定した金額は、亡父が本件各土地を取得した時の市場価格を適切に反映するものとはいえず、」

 

「また、請求人が採用した同指数は、六大都市市街地価格指数であるが、本件各土地は六大都市以外の地域に所在するものであり、取得当時の地目はいずれも畑であって宅地でないことから、本件各土地の地価の推移を適切に反映したものとはいえない。」

 

とあります。裁決の最大のポイントは地目の同一性といえます。

 

〇平成29年12月13日裁決…取得日は昭和41年
納税者は地価公示価格から推計しています。審判所は売主が作成した土地台帳を基にしています。
事案によって異なりますが、審判所は現地調査を行います。その結果、上記の売主が作成した土地台帳等、証拠の確実性の高いものを入手した場合にはそれを採用します。


〇平成30年5月7日裁決…取得日は相続取得(非常に古いと推定される)
納税者は市街地価格指数及び路線価から推計し、審判所は概算取得費を採用しました。この裁決においても、
「本件土地は、請求人の父が取得した当時、宅地としての利用状況になかった。」
としており、上記の地目のみならず、利用状況についても判断要素となることが分かります。


〇平成30年7月31日裁決…取得日は相続取得(非常に古いと推定される)
納税者は市街地価格指数を採用し、審判所は概算取得費を採用しました。この裁決が従来と決定的に異なるのは「市街地価格指数による取得費算定方法を全面的に否定した」ということです。

 

「市街地価格指数は、個別の宅地価格の変動状況を直接的に示すものということはできず、」

 

「六大都市を除く市街地価格指数については、三大都市圏を除く政令指定都市及び県庁所在都市(県庁所在都市等)以外の調査対象都市は公表されていないところ、本件土地は県庁所在都市等に該当しない都市に所在しており、さらに、本件土地の所在する都市が調査対象都市かどうかを確認し得ないことからすれば、」

 

「請求人が請求人主張額の算定に用いた六大都市を除く市街地価格指数が、本件土地の市場価格の推移を反映したものであるということはできない。」

 

従来は、地目、宅地の利用状況で否認されていました。しかし、当該方法自体の利用が否認されたという事案です※3

 

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税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 1個人編

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伊藤 俊一

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