「エクストリーム大家」にしか経験できない「感動体験」
この入居者との付き合いも気がつけば3年を超えていた。2年はいるという約束だったので、もうお別れの時期が近づいているのだろうなと思っていた。大家としては退去に向けて、リフォームや清掃する箇所を把握しておきたかった。だが、その後も退去する気配はなかった。
「大家さん、この家、気に入った! もっとおるで」
そう言いながら、もう4年が経とうとしていた。4年も住めば、そのままさらに長く住んでくれると思うだろう。だが、この男性が入居時に自ら語ったところによると養護学校の高等部を卒業後、ずっと生活保護を受けて全国を転々としてきたという。ふと気が向けば、よそに引っ越す可能性のほうが高そうだ。
別れは唐突にやってきた。
ある日の深夜、筆者は雑誌の入稿作業に追われていた。携帯電話にメールが届いた。男性からである。
〈大家さん、世話になった。恩に着るわ。また会おな。荷物は全部やるから、すまんけど処分しといて〉
筆者は、返信を打った。
〈ありがとう。元気で。また遊びに来てや!〉
退去後すぐに清掃やリフォームを済ませ、次の入居者も入った。それから半年くらいが過ぎた頃、筆者の携帯が鳴る。あの男性からである。
「大家さん、元気か? ワシ、あれから札幌行ったんや。今、旅行や。土産もあるし、飲みに行こうや!」
学校の先生がかつての教え子から連絡をもらったときの気持ちとはこんなものなのだろう。エクストリーム大家をやっていてよかったと思う瞬間だ。
神戸市兵庫区――ディープな場所にあるスナックに案内された。相変わらず奢ってくれる。嬉しいがちょっと複雑な心境だ。
奢ってもらったことを聞いた妻は筆者にこう言う。
「生活保護受給者に奢ってもらう大家!」
こうした入居者との触れ合いは、エクストリーム大家でしか体験できない。
春川 賢太郎
ライター・フリージャーナリスト
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