〈生活保護〉を受給しながら全国を転々…「NPOがなんとかしてくれるやろ」と豪語する男性を入居させた“エクストリーム大家”の回顧録

〈生活保護〉を受給しながら全国を転々…「NPOがなんとかしてくれるやろ」と豪語する男性を入居させた“エクストリーム大家”の回顧録
(※写真はイメージです/PIXTA)

元受刑囚や生活保護受給者、元ヤクザや自己破産者、DV避難者など「ワケあり」な人たちに部屋を貸す大家のことを、ライター兼フリージャーナリストの春川賢太郎氏は「エクストリーム大家」と呼びます。本稿では、春川氏の著書『エクストリーム大家』から一部を抜粋し、エクストリーム大家が、生活保護を受けながら全国を転々とする入居者と過ごした4年間を振り返ります。

ほとんど「身一つ」で各地を転々とできる理由

正直なところ筆者はこの日、用事もあり内覧は翌週に持ち越してほしかった。だが、来るという入居希望者を拒むわけにもいかない。

 

「いや、カネなら、交通費なら大丈夫。なんかの手当が入りますし、交通費、ワシ、半額やさかい……」

 

もちろん福岡から兵庫まで内覧に来るというのは自由である。とはいえ、わざわざ遠くから内覧にやってきて入居しないとなると、いささか申し訳ない気もする。

 

筆者「明日来てもらうのはありがたいねんけど、物件見て気に入らんかったら、いくら交通費半額やゆうてもね。高いお金払ってきて、なんにもならへんから悪いわ。ええん?」

 

こう筆者が念押しすると、電話越しの男性は明るく弾んだ声でこう話す。

 

「ええもなにも、ワシ、もう神戸に住むと決めてん。せやからなガラガラ(キャリーバッグ)にちょっとした着替え詰めて、そっち行くわ。大家さんに断られても、ほかの神戸の物件に入るから。心配無用や!」

 

家財道具はどうするのか、いきなり引っ越しといってもそう簡単なものではない。それを聞くと、何をか言わんやとばかりにこう返してきた。

 

「ええねん。どうせNPOからの頂きもんやし。パンツとシャツさえあったら、服やテレビや洗濯機とかタンスも全部、支援団体がなんとかしてくれるし。もう福岡は飽きたんや。神戸で新しい彼女、早よ見つけなあかんしな」

何かにつけて大家に奢ってくれる入居者

翌日、この男性はキャリーバッグと福岡土産の辛子明太子、ひよ子饅頭を持って新幹線で神戸までやってきた。

 

内覧時、ほとんどその内部を見ることなく、物件に入るなりこう声を張り上げる。

 

「大家さん、ここにするわ! 2年くらい世話になる思うけれどよろしく!」

 

この男性が語るところによると、身体障害を抱えているため活発には働けない。しかし、それを不自由だとか、ましてや不幸だと思ったことはないという。

 

「役所駆け込んで、『ワシ、働けませんねん』とちゃんと理由をゆうたら、なんとかしてくれるよ。せやからワシ、保護受けながら、あちこち全国回ってるねん!」

 

こう言うなり、次の言葉を継いだ。

 

「今日からでええか? 布団、持ってこないかんね。どっかNPOに連絡取るわ」

 

今日やってきて今日、もう入居して住むという。正直、筆者にはその想定はなかった。今やWi-Fi完備だの、冷蔵庫や収納家具完備といった賃貸物件も増えている。だが、一般的に不動産賃貸業といえば、やはり家を貸すだけと考える大家は多いだろう。筆者もそのひとりだった。

 

筆者「NPOってゆうたかて……。どこか買いに行く?」

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エクストリーム大家

エクストリーム大家

春川 賢太郎

ライチブックス

【エクストリーム大家】とは元受刑囚や生活保護受給者、元ヤクザや自己破産者、DV避難者などワケありな人たちに部屋を貸す大家のこと。 本業フリーライターの著者が亡き母から受け継いだのは築古の昭和団地&ボロ戸建てと、…

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