海外諸国には「魅力的な金融商品」があふれているが…
諸外国には、魅力的な商品・サービスを提供する銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所が多数存在します。筆者は香港在住のとき、香港のHSBC銀行をメインで使ってきましたが、オンラインバンキングや海外送金が容易で使いやすいばかりでなく、扱っている金融商品のラインナップも魅力的です。
銀行・証券会社以上に魅力的なのは保険で、利回りは日本の同種商品を大きく上回っているほか、ローンで保険料を払う商品(プレミアムファイナンス)など、日本には存在しないサービスもあります。
さらに、ここ10年登場してきた新たな投資である暗号資産を扱う暗号資産取引所も、世界トップの取引所は、日本の暗号資産取引所に比べて手数料が安いうえ、取扱トークンの種類が豊富であるなど魅力的です。
こうした海外の業者が、日本居住者に対してサービス提供してくれるなら、日本の消費者・投資家としても嬉しい限りですが、果たして法的に可能なのでしょうか?
そしてさらに、2022年の年末から2023年の夏にかけて暗号資産投資家に衝撃を与えた、世界最大の暗号資産取引所Binance(バイナンス)から日本居住者が除外されるという出来事がありましたが、その対応策についてもあわせて考察してみたいと思います。
銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所は「規制業種」
銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所といった業種はいわゆる「規制業種」であり、銀行の免許、証券会社の登録、保険会社の免許、暗号資産取引所の登録をして初めて、業務を行うことができることになります。
顧客から預かった大切なお金や株式を適切に管理できない銀行・証券会社では、資産が守られるか不安です。したがって、消費者保護の観点から、銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所が「規制業種」とされているのは当然でしょう。
もちろん、現地で許可・登録等されているのであれば、一定水準には達していると想定されますが、しかし、あくまでも「その国で業務を行うこと」が許可されているにすぎません。
日本で許可されていない業者は、日本国内で業務を行うことはできませんから、
× 外国の銀行・証券会社が日本居住者向けに金融商品を売りに行く
× 外国の保険会社が日本居住者に保険商品を売りに行く
× 外国の暗号資産取引所が日本居住者に対してサービスを提供しに行く
といったことはできないのです。
外国の銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所…自国内で普通にサービス提供するなら、顧客が日本居住者であってもOK?
では、外国の銀行・証券会社、保険会社、暗号資産取引所は、自国内で普通に業務をしているのであれば、顧客が日本居住者であってもサービス提供することは問題ないのでしょうか?
一見すると、いずれも問題なさそうに思えますが、実際は簡単ではありません。
まず、銀行・証券会社の場合はどうでしょうか?
例えば、香港やシンガポールの銀行・証券会社は、日本居住者であっても、実際に香港やシンガポールに来たお客さんに対しては、口座を開設してくれます。いったん口座を開設すれば、オンラインで取引をすることも簡単ですから、継続的に取引をしている人も大勢いらっしゃるでしょう。
保険会社の場合はどうでしょうか?
実は、外国の保険会社は、日本居住者がたとえ実際に外国(その保険会社の国)に来たとしても、保険商品を販売することはできないのです。
香港やシンガポールの保険会社で売っている保険商品は、日本の保険会社の商品にくらべて利回りのよい商品などが多いだけに残念なのですが、一方で、わざわざ外国に出向いて商品を購入する消費者について「消費者保護」という建前は通用しないでしょう。
日本の金融庁から警告を受けても、日本居住者にサービスを提供してきたBinance(バイナンス)
では、業界の新参者ともいえる暗号資産取引所の場合はどうでしょうか。
暗号資産取引所は、銀行・証券会社のように、自国内で通常通り業務をしている場合であれば、相手が日本居住者であっても、サービスを提供することができるのでしょうか? それとも、自国内で通常通り業務をしている場合であっても、相手が日本居住者のときは、サービスを提供することができないのでしょうか?
結論からいうと、保険会社同様、自国内で通常通り業務をしている場合であっても「相手が日本居住者のときは、サービスを提供することができない」という制度になっています。
暗号資産取引所の場合、店舗の窓口に出向いて口座開設をするというのは一般的でなく、オンラインで口座開設をするのが通常という事情も、この背景にはあるのでしょう。
制度として合理的か否かについては議論あるところだと思いますが、保険会社同様に、暗号資産取引所の場合も、外国の暗号資産取引所は、日本の領土の外でも、日本の法令に従い「日本居住者に対してサービスを提供しない」というルールに従うことが求められているのです。
しかし、日本の領土外にある外国の企業は、日本の金融庁でも簡単に手出しできないはずです。日本の規制当局は、日本の領土の中であれば業者に対して立入検査などの実力を行使できますが、外国にある業者に対してはそうした実力行使はできないからです。
そこで思い浮かべていただきたいのが、Binance(バイナンス)です。
世界シェア50%超、世界最大の暗号資産取引所ともいわれており、日本でもユーザーが非常に多く、当然のように日本居住者に対してもサービスを提供してきました。
Binanceによる日本の金融庁への配慮をあえて挙げるなら、操作画面上から日本語案内を削除していたことぐらいでしょうか。
もちろん、金融庁も策を講じていないわけではありませんが、海外の事業者に対して対抗できる策は限られており、金融庁のウェブサイト上に「無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等について」と警告を掲載するのがせいぜいだったのです。
しかし、そんなやりたい放題の状況が一変します。次回に続きます。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージングディレクター・弁護士
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