(画像はイメージです/PIXTA)

香港在住・国際金融ストラテジストの長谷川建一氏(Wells Global Asset Management Limited, CEO)が「世界経済の今」を解説していきます。

米連邦債務上限問題の裏には、民主党と共和党との激しい対立が

米国では、ホワイトハウスと議会下院の間で、債務上限引き上げについて協議が続いている。バイデン大統領は、連邦議会には債務上限を無条件で引き上げる憲法上の義務があると主張し、財政政策上の問題や予算案について、議会共和党と議論し妥協するプロセスの確立を望んでいる。

 

一方、下院で多数を握る共和党は、先ず、歳出の大幅削減をすべきとの立場を譲らず、歳出削減を債務上限引き上げの条件としている。民主党と共和党の提案には大きな隔たりがあり、次期大統領選挙を睨んで、両党の溝は埋まっていない。

 

5月16日にも、バイデン大統領と議会共和党指導者らがホワイトハウスで協議したが、「デフォルトを回避するというコンセンサスはあった」とバイデン大統領が一定程度評価したものの、マッカーシー下院議長は、依然として大きな隔たりがあることを認め、「合意形成は厳しい」との見方を示した。

 

今回の議会の状況を改めてみてみると、民主党と共和党が次期大統領選挙に向けて準備体制に入っているということが引っかかる。

 

民主党は、バイデン大統領の現在の目玉政策であるインフレ抑制策などの財政施策を引っ込めざるを得なくなる債務削減では、譲歩する余地は小さい。大統領選挙で訴求する成果として、政策の実現は必須であると考えているだろう。

 

共和党も、出馬を表明したトランプ前大統領への支持者が増えており、対抗馬であるバイデン大統領に失点させようと、債務削減ありきの強硬な姿勢で交渉に臨んでいる。両者の妥協が成立するには、相当な曲折が予想される。

 

さらに、連邦債務が膨れ上がる傾向にあるのも事実で、特にパンデミック以降は、国家の危機的な状況の打開という名目が先に立って、「レスキュープラン」を謳う政策が矢継ぎ早に打ち出され、債務は急膨張した。

 

後日、ばらまきすぎとの批判が強まった経緯があるだけに、債務膨張に一定の歯止めをかけることは、道理なことではある。一方で、連邦政府の機能停止による国民生活への影響を考えれば、それは国民生活を人質に取るようなもので、取るべき手段ではないとの意見があることも事実であろう。

繰り返される債務上限引き上げに「茶番劇」の声も

米国連邦債務の上限引き上げを巡っては、幾度にもわたって論争が繰り返され、その都度すったもんだした挙げ句、決着を見てきたという過去がある。

 

債務上限の引き上げは、連邦議会の歴史を紐解くと、計102回も行われてきた記録が残っている。そのたびに、ワシントンを舞台に繰り広げられる政治家たちの交渉は、政治的な「茶番劇」であるとか、「政治的なショー」であるとの皮肉めいた批判もある。

 

バイデン政権下では、2021年12月15日に2.5兆ドル引き上げる法案が議会で可決し、現在の債務上限である31.4兆ドルにまで引き上げられた。ただ、前に進まない交渉や政治的な状況を考慮すると、茶番が繰り返されるとたかを括って見物するという気にもなれない深刻さも見え隠れする。

米財務省の臨時措置も上限に迫る連邦債務

そもそも、米連邦債務は今年1月19日で31.4兆ドルの上限に一度達した。その時は、財務省が6月5日までの「債務発行停止期間」を設け、一部の公的年金基金への投資を停止するなどの特別措置を発動し、時間を稼いだ。

 

しかし、イエレン米財務長官は、早ければ6月1日に債務が上限に達し、連邦債務上限が引き上げられなければ、連邦政府の機能停止や支払い不履行(デフォルト)など、困難な状況に陥る危険性があると繰り返し警告している。実際に、数日の誤差は見込めるものの、6月1日前後で、上限に達することは確実な情勢である。

 

連邦政府の予算が執行できない場合、社会福祉関連も含めて一切の支出が停止することとなり、家計消費の萎縮や受注の急減により、米国経済には大きな打撃となることが予想される。

 

また、米国債の利払いなども止まることとなれば、世界で最も安全とされ流動性も高い米国債への信頼を損なうことになるだろう。そして、それは基軸通貨としての米ドルを長期的には弱体化させる要因となる。

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