サービス価格の上昇ペースが加速する可能性
大幅な賃上げを受けて、サービス価格の上昇ペースがどこまで加速するかも注目点のひとつだ。財と比べてサービスの価格は人件費によって決まる部分が大きい。実際、サービス価格と賃金の連動性は非常に高く、1990年代前半までは賃金とサービス価格が安定的に上昇していたが、1990年代後半以降は、賃金とサービス価格の低迷が長期にわたって継続している*5(図7)。
欧米の消費者物価上昇率が日本を大きく上回っているのは、原材料価格高騰に伴う財価格の上昇に加え、賃金上昇を背景としてサービス価格も大きく上昇しているためである。その意味では、日本の賃金、サービス価格の低迷は急激なインフレを抑制する役割を果たしてきた面もある。
しかし、先行きについては賃上げ率が大きく高まることで、サービス価格の上昇ペースは加速する公算が大きい。下落が続いていたサービス価格は2022年8月に上昇に転じた後、2023年2月には前年比1.3%まで伸びを高めている(図8)。現時点では、サービスの中では原材料コストの割合が高い一般外食の大幅上昇(2023年3月:前年比7.2%)がサービス価格上昇の主因となっているが、今後は賃上げに伴う人件費の増加を価格転嫁する動きが一段と広がることが予想される。これまで長期にわたって値上げが行われていなかった分、今後のサービス価格の上昇ペースは非常に速いものとなる可能性がある。
サービス価格は原材料コストの変動に左右されやすい財価格とは異なり安定的な動きをする。このため、賃上げに伴うサービス価格の上昇は安定的で継続的な物価上昇の実現可能性を高める。その一方で、サービス価格の上昇ペースが速すぎた場合、消費者物価上昇率の高止まりから実質賃金上昇率のプラス転化が遅れ、個人消費の下振れリスクが高まる。また、将来的にはサービス価格が高い伸びとなるもとで、全体のインフレ率が加速した場合には、現在の欧米と同様に金融引き締めによる国内需要の抑制が必要となることもありうる。今後のサービス価格の動向が注目される。
*5:2021年から2022年にかけてのサービス価格の下落には、携帯電話通信料の大幅値下げの影響が含まれている。
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