(写真はイメージです/PIXTA)

空き家の増加の課題の解消に向けて、様々な取り組みが行われています。しかし空き家に対する漠然とした負のイメージがあるなかでは、空き家の活用が進みにくく、居住の物語を作成することで空き家の評価向上を目指す必要があります。そこでニッセイ基礎研究所の島田壮一郎氏が有効な物語のあり方から、空き家についてどのような物語を作成するとよいのかを考察していきます。

4―空き家活用に向けての物語の活用

1|空き家における物語の要素

空き家にはそこに住んでいた人、生活を含んだ時間の流れが存在する。物語として活用するにあたって事実を羅列するだけでは物語として人の行動や意識に影響を与えるものにはならない。物語として必要なことは時間の経過が存在し、そこでの出来事が因果を持って行われていることが必要であるとされている。住宅での生活はまさに物語になりえるものである。行為者モデルと物語性尺度に当てはめることで空き家の物語の構成について提案を行う。

2|行為者モデルへの当てはめ

行為者モデルにおけるそれぞれの要素に当てはまるものを居住という視点から考える。まず居住に関わる登場人物を考えると、居住者、同居人、地域住民が考えられる。今回は居住者の一人を主体として物語の作成のためにそれぞれが当てはまる役割を考える。まず、居住者は主体であるとともに受け手にもなり、同居人は受け手、援助者になりえる。また地域住民も援助者になりえるであろう。すなわち、居住者は同居人および自らに「客体」を届けようとするが「反対者」が邪魔をする。同居人や隣人の助けを得て、目的を達成することが出来る。

 

では、入居者が住宅において求めるものはよりよい住生活だと考えられる。また、居住の物語での反対者として、住居に関するトラブルや同居人や隣人とのトラブルなど様々なものが考えられる。また、居住者が住宅においてよりよい生活を求めることになるきっかけはこの家への住み替えによるものであるため「送り手」は住み替えになると言える。これらの対応を【表2】にまとめる。

 

【表2】
【表2】

 

以上をまとめると、居住の物語は住宅への住み替えがあり、入居者が自らや同居人のためによりよい生活を求めるなかで、様々なトラブルがそれを阻害するが、それを、同居人や隣人などの助けによってよりよい生活を実現するという筋書きが考えられる。

3|物語性尺度を満たすために

物語性尺度を満たすことで効果的な物語広告になると考え、物語を記述する際に必要なことについて考える。

 

(1)目標達成のための登場人物の行動

→入居者がよりよい住生活を手に入れるためにどのような行動を行ったかを記述する。例えば、住環境向上のために家具や家電を購入したことや隣人との関係性構築のために地域の活動に参加することなどが考えられる。

 

(2)オープニング・ターニングポイント・エンディング

→物語の対象期間を入居時から退去時までとする。ターニングポイントとしては家族の就職や進学、結婚や出産などのライフイベントや住宅のリフォーム・リノベーションなどの住宅の大きな変化などが考えられる。

 

(3)登場人物の生活の変化

→ターニングポイントの前後で生活がどのように変化したかを記述する。居住人数の変化や住環境の変化などを記載する。

 

(4)具体的な出来事についての記述

→上記の出来事について具体的な記載をする。例えばライフイベントであれば誰のイベントなのか、住宅の変化であればどのような改修工事をしたかなどが考えられる。

 

(5)出来事の要因の説明

→なぜ、その行動を取ったか、なぜそのイベントが起こったかを記述する。

 

(6)登場人物の感情の伝達

→ある行動を取ったとき、あるイベントが起こったときに居住者がどのような感情を持ったかを記述する。

 

まとめると、入居から退去までの間で、よりよい生活のために行動を起こし、生活の変化を伴うようなライフイベントや住宅の変化があり、それらの行動や出来事の理由やきっかけ、その時の入居者の感情をより具体的に記述することが必要である。

4|よりよい物語を作成するために

行為者モデルおよび物語性尺度から空き家の訴求においてどのような物語を記述すべきかについてまとめると、対象の住宅において、入居者が入居から退去までの期間において、生活の様相が変わるようなライフイベントやトラブルに対して同居人や隣人の援助と共に、入居者がより良い生活を求め、自らや同居人がそれを享受することを目指して行動をし、なぜその行動を取ったか、その時にどのような感情を持ったかを記述する。さらにこれらの事柄をより具体的に記述することで、訴求力のある物語の作成が期待できる。

 

すべての空き家について、このような物語が記述できるとは限らない。このような物語を記述するためには、「よりよい住生活」を求める意識とそのための行動を起こすことが必要である。また、それによって「よりよい住生活」を手に入れることが必要になる。そのためには同居人や地域住民との良好な関係の構築や良好な住宅環境が必要になる。

5―まとめ

本稿では物語論および物語広告の知見を用いて、空き家の評価の向上のための物語の構成について考察を行った。空き家バンクなどのポータルサイトにおいてこのような記述をすることで空き家になっている物件の評価が上がり、流通がしやすくなると期待される。今後、どの程度効果があるか、どのような属性の人に効果があるかを実証していきたい。このような物語の記述によって実際に空き家の流通が促進されるとするならば、自らのよりよい居住経験がその物件の価値になりうる。この意識が広がることでよりよい住環境を居住者が求めることになり、住宅の質への意識の向上のための一助になることも考えられる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年4月5日に公開したレポートを転載したものです。
【参考文献】
1. 総務省統計局. 平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果. https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html (2018).
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3. e-Govポータル. 空家等対策の推進に関する特別措置法.
4. J・ブルーナー & (訳:岡本夏木・仲渡一美・吉村啓子). 意味の復権-フォークサイコロジーに向けて-. (ミネルヴァ書房, 2016).
5. A.J.グレマス & (訳:田島 宏・鳥居 正文). 構造意味論―方法の探求. (紀伊國屋書店, 1988).
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