幼稚園の「入園難」「入園費高騰」…対策として“中国の幼児教育”で打ち出された「普恵型幼稚園」とは?【立命館大学教授が解説】

幼稚園の「入園難」「入園費高騰」…対策として“中国の幼児教育”で打ち出された「普恵型幼稚園」とは?【立命館大学教授が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の教育制度の具体的な現状を知る機会はなかなかありません。本連載では、立命館大学総合心理学部で教授を務める矢藤優子氏をはじめ、吉沅洪氏、孫怡氏といった日中の研究者による共著『現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望』(ナカニシヤ出版)から、中国の教育制度の現状と、抱えている多くの問題について一部抜粋して紹介します。

中国における「普恵型幼稚園」の発展

中国の経済が発展するにつれ、人口も急速に増加してきたため、幼稚園の「入園難」「入園費高騰」などの問題が生じ、一部の地域では深刻化していた。

 

その対策の一つとして、の普恵型(コミュニティ型)幼稚園発展が打ち出された。

 

「全国中長期教育改革発展計画(2010―2020)」ではじめて「就学前教育の普及」を打ち出してから、中国の就学前教育は「普及普恵」という新たな歩みを始めている。

 

2012年第12次5か年計画では、「普恵型就学前教育」を基本的な公共教育サービス体系の改善における重要課題の一つとして挙げ、「政府主導、社会参加、公民営並行」のシステムを構築し、都市部と農村部の両方をカバーするシステムの構築」が提案された。

 

2017年に発表された第13次5か年計画でも、基本的な公共教育制度を改善するために、「普恵型就学前教育」が重要な課題の一つとして挙げられた。

 

2018年、「就学前教育の改革深化と標準化発展に関する中国共産党中央委員会と国務院の意見」は、「党の教育政策を総合的に実施し、就学前教育の普遍的、包括的、安全かつ高品質な発展を推進すること」を提唱した。

 

普恵型就学前教育の発展と普恵型就学前教育の公共サービス体系の構築が「すべての子どもに教育を」という目標を達成するための鍵になると考えられている。

 

また、中国教育部が発表した、第14次5か年計画(2021―2025年)における就学前教育の発展行動計画では、就学前3年間の幼稚園入園率を2025年までに90%以上に上げ、公立幼稚園の比率を50%以上、私立幼稚園を含め一定の基準を満たした普恵性幼稚園(一般幼稚園)の比率を85%以上にするとしている。

 

2021年に全国の普恵型幼稚園(公立と私立を含む)が全体の83%に達した。ほぼ85%の目標をクリアしたともいえるが、依然としていくつかの問題が残っている。

 

専門家ら(2016)は中国の普恵型就学前教育資源のシステムにおいて公立園が弱点であると指摘している。現在、中国における普恵型就学前教育は全体的に質が低く、需要と供給の間にミスマッチが存在している。

 

つまり、供給側で提供される教育サービスは、安全で質の高い教育に対する人々の需要を効果的に満たすことができていない。

 

具体的に、まず、高品質の教育サービスの有効供給が不足し、ほぼ3分の1の普恵型幼稚園が基準に満たしていない。プロセスの質から見ると、普恵型幼稚園において、教師と子どものインターアクションの質が全体的に中より下のレベルにあり、そのうち、ティーチングサポートが最も弱い。

次ページ中国の私立普恵型幼稚園が抱える代表的な3つの問題
現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

矢藤 優子

ナカニシヤ出版

幼児教育の環境、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育……。 現代中国の子育て・教育の現状と課題を、発達心理学に基づく調査により多角的・実証的に捉えた、日中の研究者らによる最新の研究成果。

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