幼稚園の「入園難」「入園費高騰」…対策として“中国の幼児教育”で打ち出された「普恵型幼稚園」とは?【立命館大学教授が解説】

幼稚園の「入園難」「入園費高騰」…対策として“中国の幼児教育”で打ち出された「普恵型幼稚園」とは?【立命館大学教授が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の教育制度の具体的な現状を知る機会はなかなかありません。本連載では、立命館大学総合心理学部で教授を務める矢藤優子氏をはじめ、吉沅洪氏、孫怡氏といった日中の研究者による共著『現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望』(ナカニシヤ出版)から、中国の教育制度の現状と、抱えている多くの問題について一部抜粋して紹介します。

中国の私立普恵型幼稚園が抱える代表的な3つの問題

(※写真はイメージです/PIXTA)
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公立だけでなく、私立の普恵型幼稚園の発展にも多くの問題がある。中国就学前教育研究会の調査結果によると、主に以下の3つである。

 

第一に、認定の基準が科学的ではない。料金が政府の定めた水準より低いかどうかだけを判断の基準とし、園の質が注目されていない。

 

第二に、普恵型私立幼稚園に割り当てられた資金の使用について有効な監督が行われていない。補助金を受け取りながら、費用を徴収している幼稚園がある。

 

第三に、普恵型私立幼稚園の認定に関する政策では、「入口」だけに焦点を当て、「出口」、すなわち「退出」について明記されていない。

 

その結果、園児数が少ないときに、私立幼稚園が積極的に認定申請を行うが、入園者数が安定すると途端にすぐに普恵型をやめるという現象も起きている。

 

こうした問題が存在するため、各地の普恵型私立幼稚園の多くは、国からの補助金を受けているものの、本当の意味での「インクルーシブ」を果たしていないのが実情である。

 

これに対して、普恵型私立幼稚園を非営利にするよう指導すべきであると指摘されている。

 

また、政府は、特に児童一人当たりの配分金や教員給与の社会保障費補助などの制度的措置を通じて支援を強化し、資金補償、学校運営に対するインセンティブ、基金奨励、土地配分、税免除などを通じて、普恵型私立幼稚園の非営利型幼稚園への転換を指導すべきである。

 

さらに、定員不足が深刻な地域は新・改築・増築した幼稚園をすべて非営利型幼稚園として運営すべきである。

 

研究者によれば、普恵型就学前教育公共サービス体系を構築するに最も現実的な方法は、政府、市場、家庭の関係を明確にし、それぞれの発展レベルと能力に応じて、政府の責任と支援を明確に定義し、政府の「ボトムアップ」の役割を十分に発揮して、貧困地域、遠隔農村、不利な家庭、低所得家庭に補助金を提供し、政府、社会、家庭が共同に分担できるようにすることである。

 

研究者らは、普恵型就学前教育の不十分かつ不均衡な発展が依然として大きな問題であると考えている。

 

地域、都市と農村、学校、異なる集団の間で普恵型就学前教育資源の配置が不十分で不均衡である問題を解決するには、まず普恵型資源の供給を拡大するしかない。

 

 

矢藤 優子

立命館大学総合心理学部 教授

 

姜露(きょう・ろ)

東京大学大学院博士後期課程修了。博士(敎育学)。上海師範大学学前教育学院准教授

 

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

現代中国の子育てと教育:発達心理学から見た課題と未来展望

矢藤 優子

ナカニシヤ出版

幼児教育の環境、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育……。 現代中国の子育て・教育の現状と課題を、発達心理学に基づく調査により多角的・実証的に捉えた、日中の研究者らによる最新の研究成果。

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