O夫妻の「悲劇の原因」
なぜ、O夫妻の家計はリタイア後わずか5年ほどでうまく回らなくなってしまったのでしょうか。
その原因をO夫妻は、「退職金や貯蓄も十分あるように感じ、これから年金も受給できるという油断から、老後の生活を楽しんでしまっていた」と分析しています。
[図表]に示したように、リタイア後の5年間は、夫の収入は現役時代に比べ乏しく、妻にいたってはまったくありませんでした。使えるお金は、退職金とこれまでの貯えのみです。したがって、夫婦の分析は当たっています。
しかしそれよりも、夫婦の気づいていない根本的な原因がありました。それは、「家計の財布を1つにしていなかったこと」です。
「財布を1つにする」の意味とは?
O夫妻は結婚当初から、収入は給与振込用口座などで自己管理していました。家計支出は、それとは別に家計用の銀行口座を作り、お互い決めた額を定期的にその口座に入金して管理していました。
住宅購入時の頭金や子どもの教育費なども互いに金額と期間を決めて積立貯蓄をし、夏休みの家族旅行の費用などはお互いの貯蓄から出し合ったそうです。「住宅ローンを完済できたのもこの方法のおかげだ」と2人は自信を持っていました。
家計の管理は、O夫妻のようにお互いの収入を干渉することなく必要額を出しあう夫婦もいれば、夫婦の収入を1つにまとめて管理する夫婦もいます。
筆者のいう「財布を1つにする」とは、後者の家計のことです。「夫婦がお互いの収入を知っている」ということがポイントになります。
今後のO夫妻に不可欠な「収入の把握」
筆者は、財布を1つにしてもしなくても、家計がうまく回るならどちらの方法をとってもいいと考えています。
ただし、O夫妻のように、毎月の家計支出が38万円であるにもかかわらず、夫婦の年金受給額が、夫66歳(妻62歳)から月28万円、夫69歳(妻65歳)からは月32万円であれば、生活は当然成り立ちません。
今後の生活を成り立たせるには、家計支出を減らすことが必須です。そのためには、お互いが収入を把握し、「財布を1つにする」生活をする必要があるでしょう。
O夫妻はこの先、お互いの親や自身に介護が必要になった場合の資金※4や子どもの住宅購入費、孫への資金援助が必要になるかもしれません。
※4 「(公財)生命保険文化センター生命保険に関する全国実態調査2021(令和3)年度」によると、介護が必要になった場合、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的にかかる費用の合計は平均74万円、毎月かかる費用は平均8.3万円となっている。介護を行った場所別で月々かかる平均介護費用をみると、在宅:4.8万円、施設:12.2万円。また、介護を行った期間は平均b61.1ヵ月(5年1ヵ月)となっている。
O夫妻は2人とも「もっとたくさん年金をもらえるだろう」と思っていたようですが、実際の受給額も決して少ない金額ではありません。
今後はこの5年間を教訓に、誕生月に日本年金機構から郵送される「ねんきん定期便」で受給額を都度確認しつつ、またお互いの貯蓄を計画的に取り崩すことも念頭に置きながら、今回をきっかけに改めて“老後の新婚生活”を始めてみてもいいのではないでしょうか。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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