「地域の実情」に応じた医療・介護体制はどこまで可能か…審議会報告の文言から見える政府の意図と自治体の現実

「地域の実情」に応じた医療・介護体制はどこまで可能か…審議会報告の文言から見える政府の意図と自治体の現実
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年度は医療・介護分野で多くの制度改正が予定されていますが、その文脈で多く語られているのが、「地域の実情」という言葉。ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が「地域の実情」という言葉を使っている近年の政府文書などを取り上げるとともに、その意味を再考していきます。

3――なぜ「地域の実情」に沿う必要があるのか?

では、なぜ「地域の実情」に沿う必要があるのでしょうか。その理由として、人口減少や高齢化の進行スピード、人員・資源の違いなどで地域差が大きく、国一律の対応が困難になっている点を指摘できます。

 

少し極端な例ですが、下記写真のようなコミュニティを見て、「一律の対応が可能」と思う人は恐らく皆無でしょう。実際の問題で言うと、自治体の人口や規模、年齢構成が違うし、都市部と地方では、医療・介護の事業所や専門職の数も異なります。

 

 

 

さらに今後、大都市部では高齢者人口の増加が予想される一方、地方では高齢者人口さえ減っている地域も散見されます。このため、「地域の実情」に沿った体制整備が必要であり、暮らしに身近な自治体の主体的な役割が求められます。

 

こうした筆者の見解については、様々な反論が有り得ます。たとえば、「国の責任の放棄であり、自治体に丸投げすれば、地域差が広がる」「地方分権なんて今頃、流行らない」といった指摘です。

 

しかし、写真のような違いに直面した時、こうした意見は説得力を持たなくなると思います。さらに、医療・介護など旧厚生省の政策は伝統的に国直轄ではなく、自治体に執行を委ねてきた経緯があり、厚生労働省の出先機関である厚生局に担わせるのは非現実的です*10

 

傾聴に値する指摘として、「今後の人口減少を踏まえると、自治体としての機能が成り立たなくなるのでは」という意見が考えられそうです。確かに今後の人口減少を考えると、自治体単独での運営が困難になるケースも想定されるため、事務の広域化などは欠かせません。筆者自身としても「将来的に全国一律の三層構造(国―都道府県―市町村)の仕組みは難しくなる」と思っています。

 

ただ、どんなに機構を改革しても、医療・介護など住民の暮らしに身近な業務は誰かが担う必要があります。結局、「地域の実情」に応じた体制整備が求められる点に変わりはありません。

 

さらに、いくら行政機構を広域化しても、自治体内部の違いや実情を意識する必要があります。たとえば、「平成の大合併」で周辺市町村を編入した市町村では、役所の規模は大きくなった一方、コミュニティの差異に直面しているケースは少なくありません。合併していない市町村でも、昔ながらの宿場町や農村、高度成長期に整備された団地、ファミリー向けの団地などが併存するような場合、丁・番地単位に解析度を上げつつ、コミュニティの状況を把握する必要があります。

 

たとえば、弊社が立地している東京都千代田区で見ても、官庁やオフィス、マンション、商店が並んでいると思われるかもしれませんが、大通りを少し入ると民家は少なくないですし、弊社の周辺では、お祭りの時に番地単位の町会が活躍しています。こうした違いを踏まえつつ、「地域の実情」に沿った対応を講じられるのは自治体(医療は都道府県、介護は市町村)しかあり得ません。

 

*10:旧厚生省の行政が伝統的に分権的である点については、2020年7月20日拙稿「医療提供体制に対する「国の関与」が困難な2つの要因を考える」を参照。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月31日に公開したレポートを転載したものです。

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