「兄貴だって3,000万円も結婚祝いもらっていたじゃないか!」相続における「守る者と攻める者」の“不公平な真実”【弁護士が解説】

「兄貴だって3,000万円も結婚祝いもらっていたじゃないか!」相続における「守る者と攻める者」の“不公平な真実”【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「争族」と呼ばれる相続争い。巻き込まれてしまった場合、どう対応すればよいのか。また、これから相続対策をする場合にも、「争族」のリアルと転ばぬ先の戦略をぜひとも知っておきたい。本連載では、弁護士 依田渓一氏の著書『負けない相続』「物語編」の3つのエピソードの中から「地主である父の遺言書に従えば何ももらえなくなってしまう、自称バンドマンの純二」を主人公としたストーリー『遅咲きのスミレ』と、その解説を一部抜粋し、紹介する。

2週間後、冴羽・純二と海原は、再び弁護士会館で面談を行った。改めて海原から提示された金額は1億5000万円であった。

 

冴羽は、秀一が7年前に子育て資金の援助として達郎から1000万円の贈与を受けていたことを、秀一への送金が印字された達郎の預金取引履歴を示しながら指摘し、これは特別受益であるため遺留分計算において織り込まれるべきだと主張した。

 

対する海原は、純二が17年前に550万円のBMWを、8年前に450万円のアウディを達郎に買ってもらっていたこと、さらに純二が高校を卒業して以降12年間にわたって毎月50万円の仕送り(月額50万円×12か月×12年=7200万円)を達郎から受け取っていたことを証拠とともに指摘し、これらも遺留分計算において織り込まれるべきだと主張した。

兄貴だって3000万円も結婚祝いもらっていたじゃないか!

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

三宅山総合法律事務所の会議室に戻り、冴羽と今日の振り返りをしていた純二は、ふとあることを思い出した。

 

「そういえば先生、兄貴が12年前に結婚したとき、親父が結婚祝いとかいって3000万くらいあげてたんですよ。俺は当時18歳だったけど、結婚っていうのはそんなにおめでたいものかねと呆れたからよく覚えてるんです。これも先生が言ってた遺留分計算ってやつに入れられないですかね」

 

「仰ることは理解できるのですが」冴羽は答える。

 

「令和元年から施行された改正相続法によって、遺留分を侵害した側の特別受益は、遺留分計算においては原則として相続開始の10年前から相続開始の間に発生したものに限ることとされました。3000万円の結婚祝いが12年前のことだとすると、残念ながら特別受益として遺留分計算に入れることはできません」

 

「でも兄貴だって、17年も前のBMWについて言ってきてるじゃないですか」

 

「それが、遺留分を侵害された側、つまり純二さんの特別受益は、そのような期間の制限なく対象とされることになっているんです」

 

法律の世界ってのは本当に複雑だ。冴羽は、海原との面談は次回で最後にしたいと言っている。それはありがたい。最近柄にもないことをしているせいで、気づけば小難しいことを考えていたり、しまいには調べ物までするようになってしまって、すっかり調子が狂って仕方ないのだ。

最後の面談

「今回が最後の面談かと思い、お渡ししたいものを持って参りました」

 

弁護士会館での3度目の面談冒頭、冴羽はそう言うと、A4サイズのぶ厚い封筒を海原に渡した。

 

【次回予告】> それぞれの結末へ。第4回へ続く (3月9日配信予定)

 

 

依田 渓一

三宅坂総合法律事務所

パートナー弁護士

 

東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。第二東京弁護士会所属。

相続・事業承継・不動産分野を中心業務とする。

モットーは、「相談してよかった」と思っていただけるよう、期待の先を行くきめ細かな対応と情熱で、依頼者の正当な権利行使に向けて全力を尽くすこと。

負けない相続

負けない相続

依田 渓一

中央経済社

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