(※写真はイメージです/PIXTA)

1980年代までは、認知症と診断されれば、家か病院に閉じ込められていました。現在の認知症の方を診ると、80年代や90年代に比べ、認知症の症状の進行は遅くなっているといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

息苦しさを感じる自立支援という考え方

■老いても自立して生活していく――自立支援という考え方

 

長く自立して在宅生活を送りたいというのは、私たちの願いです。

 

そうはいっても、高齢になってくると、誰もがある程度障害を持って生きることになります。目は見えづらい、耳は遠くなる。足元はおぼつかない、天井の電球交換をしようにも手が伸びない、ペットボトルの蓋を開ける力もない……「そんなふうにはなりたくない、ならないぞ」と思っている人でも年には勝てないのです。

 

90歳になれば誰もが障害を持っています。80歳ぐらいから「70代のときにはできていたのに、できなくなった」と思う人は多いでしょう。

 

老いても自立して生活していくとは、できないところを支援してもらいながら生活していくということです。意思決定は本人が行い、できないところを頼みながら自分らしく生活していきましょう。それがもともとの介護保険制度の考え方でした。

 

こんな話も聞きました。特別養護老人ホームに要介護4で入所したのですが、良質なケアを受け、運動し、人と交流していたら元気になってきたのです。やがて、自分で歩行器を使って歩くようになりました。その結果、介護認定の更新では、要介護2となりました。

 

要介護度が下がると、施設の収入は減ります。このように、いまの制度には、施設の自立支援の取り組みが評価される仕組みが不足しています。

 

でも実は、矛盾しているようですが、私は自立支援という考え方に息苦しさを感じるときもあります。

 

介護が自立支援に比重を置くこと自体は間違いではないと思いますが、老いは不可逆的なもので、もとに戻ることはありません。骨折してリハビリして歩けるようになっても若さは取り戻せません。行きつ戻りつしながら下っていくからです。

 

国の介護保険制度の理念に、つぎのようなことが書かれています。

 

「国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする」

 

書かれていることは、当たり前のことです。私たちも要介護状態になりたくありません。要介護状態になっても、あまり迷惑をかけないで自分で生活していきたい、と誰でも思っているはずです。

 

次ページ高齢者を閉じ込めてはいけない理由

本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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