(※写真はイメージです/PIXTA)

65歳は多くの人にとって、第二の人生を踏み出す年です。働くことを生きがいにしてきたための弊害が、定年になると表面化されてきます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

年をとれば地位や肩書は必要ない

■日本の高年齢者雇用の現状

 

厚生労働省の集計によれば、2021年6月1日時点で従業員21名以上の会社約23万社のうち、65歳まで継続的に働ける制度のある会社は99.7%でした。では66歳以上まで働ける制度のある企業はと見れば38.3%です。

 

ここに65歳の壁があります。

 

先延ばしになる年金の受給開始に、定年の年齢を合わせたいという背景もあり、「定年を延長すべき」という論調もあります。定年は引き上げ傾向にありますし、そもそもの定年を廃止する企業も増えています。

 

同集計の「60歳定年企業における定年到達者の動向」のデータを見ると、定年に達した方の86.8%が継続雇用されたといいます(2020年6月1日から2021年5月31日まで)。希望しながら継続雇用されなかった方も0.2%います。つまり、希望しなかった方は13.0%しかいません。

 

老後の備えなど、収入面でのお考えも分かります。ただ、どうも日本の多くの会社員は「もっと長く会社にいさせてほしい」と思っているように、私には見えます。

 

日本は、働くことが生きがいだという文化があります。

 

ですから、日本の会社員は、飲みに行くときも、ゴルフに行くときも、会社や仕事関係の相手としか行かないという方が多い。

 

そして、こうした働くことを生きがいにしてきたための弊害が、定年になると表面化されてきます。

 

働くことを生きがいにし過ぎたばかりに、自分のアイデンティティの多くの部分を会社の肩書に頼っていたり、勤めていた当時の成功や人間関係、地位を、定年後に引きずることにもなります。

 

■会社・組織を生きがいにしてきた弊害

 

なぜ働いていた当時の肩書などに頼るのでしょう。ひとつは、突然のように始まった第二の人生は、人間関係が大きく変わってしまうことにあります。飲みに行っていた会社の仲間やゴルフに行っていた取引先からも離れて、人間関係は急に乏しくなります。周りからは相手にしてくれる人も減り、過去の栄光にすがらざるを得ません。

 

「私は部長だった」
「俺は支社長だった」
「年中、海外へ飛び回って、億の仕事ばかりしてきた」

 

などと肩書や過去の成功を振りかざしたところで、新たな人間関係の中では疎まれるだけ。確かにそれまでの仕事を軸とした人間関係ならば、一種の力関係もあったでしょうし顔色をうかがってくれたかもしれません。

 

それも定年後には「付き合いづらいなあ」と呆れられて、人が離れていってしまいます。しかもプライドが邪魔をして、自分から新しい人間関係を作ろうとなければ、老化も進みます。

 

こうした価値観では、定年後に幸せになれるとはとても思えません。

 

例えばオーナー一族の一員であったり、すごい実力者で定年後もその組織の重鎮であり続けられるような方であれば、定年もなく、その地位を保っていられるかもしれません。

 

しかし、このような方はごくわずか。多くの人は、地位や肩書は、手放していくことになります。

 

私は37歳で病院の常勤職員を辞めました。それ以来、自分の人生を「面白いか、面白くないか」という判断基準で生きてきました。ですから、地位や肩書からは早々に離れ、人と比べる必要もなくなりました。

 

特に年をとれば、地位や肩書なんて必要ありません。むしろ積極的に捨てるべきだと思います。最後に残るのは、「こうなりたい」「こう生きたい」という願い。それさえあれば、いつからでもだれでも幸せな人生を送れます。

 

「自分のデスクがなくなってしまった」
「仕事がやりがいだったのに」
「会社にいる自分が好きだった」

 

そんな思いは無くしましょう。

 

定年になって、長くいた勤め先から離れることは怖いことではありません。いま「やりたいことはない」という方でも、やる気が起こる考え方やコツは本連載で紹介していきます。

 

和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長

 

 

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※本連載は和田秀樹氏の著書『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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