(写真はイメージです/PIXTA)

近年、ハラスメントの法的整備が進むなか、パワハラに関する裁判事案が増えています。パワハラに関する裁判では、直接の加害者のみならず、会社が責任を問われる事例も少なくありません。そこで、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が4つの具体的な裁判事例とともに、パワハラの定義と社内で発生した際の対処法を解説します。

会社の責任が問われた「パワハラ裁判」の事例4選

パワハラに関する裁判で、会社としての責任が認められた事例には、次のものが存在します。

1.職員に対して会社が「教育訓練」として規則の書き写しなどを命じた事例

勤務中にバックル部分に労働組合のマークが入ったベルトをしていた職員Xが、就業規則違反を理由に取り外すようにとの上司の指導に従わなかったことを理由として、教育訓練と称して、およそ1日半にわたり、就業規則の書き写しや、書き写した就業規則の読み上げなどを命じられた事例です
※ 厚生労働省:【第44回】 「労働者に対して会社が課した就業規則の書き写し等の教育訓練が、裁量権を逸脱、濫用した違法なものであるとして、損害賠償請求が認められた事案」 ― JR東日本(本荘保線区)事件

 

これにより、職員Xは精神的・肉体的苦痛を与えられたとして、上司と勤務先企業に対して慰謝料と弁護士費用の支払いを請求しました。

 

この事例では、

 

管理職が部下に対し、どのような教育訓練を命じるかは、その裁量に委ねられており、就業規則周知のための教育訓練を命じること自体は、直ちに違法となるものではないが、その目的、必要性や、訓練の態様などから、見せしめをかねた懲罰目的といわざるを得ず、Xの人格権を侵害するもの

 

として、上司の不法行為責任と勤務先企業の使用者責任を認め、連帯して20万円の慰謝料と5万円の弁護士費用の支払いが命じられています。

 

2.明渡しに応じなかったことを理由に権力を用いて繰返し退去を迫った事例

Xが賃借し住居として使用していた物件について、物件の賃貸人Aから、契約期間満了を理由に明渡しを求められたものの、Xはこれに応じませんでした。

 

すると、Aは知人であったXの勤務先の専務へこのことを相談し、これによりXの上司YがXに対して左遷など人事上の不利益取扱いもほのめかしながら、この建物の明渡しを繰り返し迫ったものです
※ 厚生労働省:【第42回】 「部下の私的な生活範囲に対する会社上司の関与が不法行為にあたると判断された事案」 ― ダイエー事件

 

結局、Xは上司Yの言動が不法行為にあたるとして、上司Y、勤務先企業および関与した数名に対して損害賠償を求めました。

 

この事例では、

 

上司が部下に対し、私生活上の問題について、一定の助言、忠告をすること自体は、一定の節度をもってなされる限り、違法とまではいえないが、その節度を越え、優越的地位に基づき、執拗に説得、強要することは、部下の私的問題に関する自己決定の自由を侵害するものである

 

として、上司Yの不法行為責任と勤務先企業の使用者責任を認め、連帯して30万円の損害賠償義務があるとされています。

 

3.社員による殴打で怪我、その後休業中に会社側が被害者を解雇した事例

被害女性Xは、同じ課に所属していた社員Yから殴打されたことで、顔面挫創・頸椎捻挫の傷害を負わされ、その後、症状が悪化し、頸部・腰部痛や手のしびれなどが生じたと主張していました。さらに、この事件を契機とした2年半の休業中に解雇がなされた事例です
※ 厚生労働省:【第40回】 「同僚間の暴行について使用者に損害賠償責任を認めると共に、同暴行に起因する欠勤中の解雇を無効とした例」 ― アジア航測事件

 

そこで、被害女性Xは、社員Yおよび勤務先企業に対して慰謝料や治療費などの損害賠償を求めるとともに、勤務先企業に対して解雇が無効であるとして、地位の確認と賃金の支払いを求めました。

 

この事例では、Yおよび勤務先企業に対して慰謝料60万円および治療費の一部の支払いが命じられるとともに、勤務先企業の使用者責任が認められたほか、解雇が無効であると判断されています。

 

4.噂の流布や異動などの行為が「不法」だと認められた事例

Xが上司Hの指示の下で根拠不明の出金などの調査を行ったことを契機に、他の従業員数名がXに反発して非協力的態度をとるようになり、Xと上司Hが男女関係にあるとする噂が流布された他、多忙を極める業務にXを異動させ1人で従事させたうえ、その後はほとんど仕事が与えられない部署へ異動させるなどの嫌がらせを受けた事例です
※ 厚生労働省:【第38回】 「一連の行為が、労働者を孤立させ退職させるための"嫌がらせ"と判断され、代表取締役個人及び会社の責任が認められた事案」 ― 国際信販事件

 

これら一連の「いじめ」に対し、Xは専務と社長、勤務先企業に対して慰謝料と休業損害の支払いを求めました。

 

この事例では、社長と専務個人に対しての不法行為責任が認められ、社長と専務個人のほか、会社が連帯して精神的苦痛に対する慰謝料150万円とXが欠勤を余儀なくされたことに対する休業損害を支払うべき旨が命じられています。

 

次ページ社内でパワハラが起きたら「弁護士へ相談」

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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