(※写真はイメージです/PIXTA)

世界を見渡してみても、日本人の現金保有率(貯蓄率)の高さは顕著です。一方海外では、子どものころから金融の仕組みを学ぶ環境があり、貯蓄よりも運用に重点を置く傾向があります。ではなぜ日本は海外の先進国と比べ、金融教育が大きく遅れているのでしょうか? 専門家の中谷昌文氏が、著書『なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか?』(ビジネス社)で解説します。

根強く残る高度経済成長期の成功体験

なぜ日本人は必死にお金を稼ぎ、その多くを使わないまま預貯金に回しているのでしょうか。しかも、金利は低水準で推移しており、インフレによってお金の価値が下がっているにもかかわらず。

 

問題の根っこは、個人にあるのではありません。その裏には、日本の長年の政策や教育体制が関係していると思われます。つまり、社会全体でお金の教育が十分にできていないことが、最大の課題なのです。

 

諸説ありますが、もともと日本人の貯金志向がはじまったのは、戦中・戦後からだといわれています。戦中は「欲しがりません勝つまでは」をスローガンにすべての日本人が倹約に励みましたし、その精神は社会の隅々にまで浸透していました。

 

また戦後には、戦勝国である欧米先進国に負けないような、強い国・強い経済を手に入れるべく、やはり国民一丸となって経済の復興に取り組んできました。その成果が高度経済成長に結実し、日本は経済大国の仲間入りを果たしたわけです。

 

当時の役人が考えていたのは、戦争を生き抜いた約7,000万人が保有する資産を、いかに近代産業の復興に振り向けられるかということでした。もちろん国にはお金がありませんでしたが、国民の財を結集すれば、その道筋が見えてきます。

 

そこでとったのが、預貯金を推奨する政策です。わかりやすくいえば、みんなでお金を銀行や郵便局に預けて、そのお金を製鉄、自動車、造船、製紙などの企業に融資として回すことで、日本経済を成長させていく方針です。

 

その背景には、貯金を美徳とするプロパガンダなども行われていたと想像できますが、戦中に養われた愛国精神がそのまま受け継がれていて、国民の多くはすんなりと、そうした思想を受け入れていったのではないでしょうか。

 

このような政策が功を奏し、日本は敗戦からわずか数十年で世界第2位の経済大国にのし上がります。まさに復興と経済活性を同時に成し遂げたわけですが、そうした成功体験が、その後も根強く残ることとなります。

 

しかも、高度経済成長期の後期には金利が8%前後を実現するなど、預金する側にも大きなメリットがありました。その後、金利が徐々に下がっていったことはご存知の通りですが、かつては国にも国民にも、預金はメリットが大きかったのです。

時代が変わっても預貯金の習慣を守る日本人

こうした時代を経てきたために、日本人の多くは状況がガラリと変わった現在に至っても、預貯金を自ら積極的に行っているのです。確かに手堅くお金を管理するのは素晴らしいことなのですが、それが結果として、家計の金融資産が増える機会を失わせているのも事実です。

 

そして何より、社会全体として金融リテラシーを十分に高められていないことは、大きな懸念点といえます。学校でも家庭でもお金のことや資産運用について学ばず、貯金することだけが推奨されている。それでは、いつまで経っても個人の資産は増えません。

 

社会人になっても、収支管理を会社に任せっきりになっているため、税金の仕組みすら理解していない人が多いような状況が生まれています。無関心のまま過ごした結果、老後に大きな問題として噴出し、やがて困ることになるのです。

 

お金や資産運用に関する教育体制が十分に整備されないまま、私たちの多くは成人し、その思想が子や孫にも伝わっています。事実、学校で計算は教わるものの、お金の扱い方は教わりませんし、学校、家庭、友人関係など、どこを見回しても金融リテラシーが高まる環境がほとんどありません。

 

社会人になってから急いでお金のことを学ぼうとする人もいますが、仕事をしながらなので、なかなか身が入りません。とくに、知識ではなく"実践"という部分に関して実現できないままになっている人も多いのではないでしょうか。

 

こうした状況を変えるには、政治を変えていかなければなりません。とくに政治分野では、国民にお金の教育をすることに対して無関心な方が多いです。やはり、国が主導して管理できればそれでいいという発想があるのかもしれません。

 

もちろん、国にとっては最大の役割である「徴税」を確実なものにしたいとの思惑があるものと思われます。国民が自ら何の工夫もせず、黙って税金を納めてくれていれば、それが望ましいと考えるのも自然です。

 

このように、悲しいかな現在の日本は、お金について学ぶ環境もなければ国としてもその状態を良しとしているところがあるという、右を向いても左を向いても金融リテラシーを学ぶ機会を得にくい状況なのです。

 

他方、海外では、金融リテラシーを高めるための教育が、早い段階から実施されています。また家庭内でもお金の話をし、子どもの頃から少額で投資を実践する人も少なくありません。

 

そのため、大人になる頃にはお金に関して一定の知識・経験を有しており、その彼らが投票を行うことで、政治にもお金や資産運用の考え方が反映されていると考えられます。そういった教育と実践を土台とした違いは非常に大きいのです。

 

教育を受けるだけでなく、実践することも大切です。ときには小さな失敗を経て、お金の大切さを実感しながら、資産運用のあり方を肌で感じていくことができれば、金融リテラシーは自然に養われていきます。

 

これは日本において、とくに今、切実に求められていることなのではないでしょうか。

次ページ徐々にはじまる金融教育

本連載は、中谷昌文氏の著書『なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか? 』(ビジネス社)から一部を抜粋し、再構成したものです。

なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか?

なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか?

中谷 昌文

ビジネス社

世界の富裕層はどのように財産をつくり、子孫に伝えているのか。教師を経験した後、渡米して様々な経験を積んだ著者は、NIKEシューズと出合い、その魅力を日本に伝えた。そうした経験でつくった人脈と資産によって、海外の富裕…

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