(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『スポーツビジネス・ロー・ニューズレター(2022/9/6号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2022年9月6日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

欧州におけるルートボックス規制の動向※1

多方面に広がりを見せているスポーツビジネスの中で、NFT等のブロックチェーン技術を活用したスポーツゲームの存在感は世界中で拡大しています。こうしたゲームの中には、いわゆるルートボックス(日本でいう「ガチャ」に類似するもの)機能を備えたものがありますが、近時、欧州を中心にルートボックスの規制を巡る議論が高まっています。

 

※1 スポーツビジネス・ロー・ニューズレターでは、今後、従前の形式によるニューズレターに加え、国内外のスポーツビジネスに係るトピックスや有識者へのインタビュー記事を定期的に発信する予定です。

1. ベルギー・オランダ・スペインにおけるルートボックス規制の動向

ベルギーでは、2018年に、同国賭博規制当局(Belgium Gaming Commission。以下「BGC」といいます。)がルートボックスに関する調査報告書※2を発行しました。BGCは同報告書の中で、Over Watch、FIFA18及びCounter-Strike: Global Offensiveという3つのゲームにおける有料ルートボックスが「game of chance(賭博)」に該当するとの評価を示し、同国のゲーミング及び賭博法に適合するためにルートボックスを削除しなければ、事業者は80万ユーロ以下の罰金及び5年以下の禁固刑を科される可能性がある旨述べました。

 

※2 https://gamingcommission.paddlecms.net/sites/default/files/2021-08/onderzoeksrapport-loot-boxen-Engels-publicatie.pdf

 

オランダにおいても、同じく2018年に、同国賭博規制当局(Dutch Gaming Authority。以下「DGA」といいます)が調査報告を行い、調査対象となったゲームの一部について、ルートボックスの中身が偶然により決定され、かつ、得られる景品がゲーム外で取引可能であって市場価値を有することを理由に、賭博に該当すると評価しています。加えて、DGAは、ゲームセクターに対して全てのゲームを2018年6月中旬までに修正するよう呼び掛け、同年6月20日以降、基準に従わない賭博のプロバイダに対してはDGAが強制措置を取る可能性がある旨述べました※3

 

※3 DGAは、同年6月19日にも声明を出し、翌20日以降、ゲーム会社が違法なルートボックスに対し十分な修正を行ったかをDGAが確認すること、十分な修正が行われていない場合には行政罰(83万ユーロ以下の制裁金など)を科すこと、行政罰の効果が十分でない場合には刑事訴追も行い得ることなどを述べています。

 

2019年、DGAは、Electronic Arts(以下「EA」といいます)に対し、EAが提供するFIFAシリーズのUltimate Teamモード(以下「FUTモード」といいます)のルートボックスの中身が偶然によって決定されること、ルートボックスの景品が時に高い価値を持ち、取引される場合があることなどを理由として、当該ルートボックスが違法であるとして、制裁金※4を科しました。

 

※4 制裁金は週当たり50万ユーロ・最大1000万ユーロと報道されています。

 

EAはこの行政命令を争いましたが、ハーグ地方裁判所は、ルートボックスはゲームの一部であるとともに、それ自体が独立型のゲーム(stand-alone game)であるなどと述べ、DGAの判断を支持し、ルートボックスは「game of chance(賭博)」であるとの判決を下しました。しかしながら、EAが同判決を不服として国務院(行政部)に控訴したところ、2022年3月、国務院は、原判決を覆し、FUTモードのルートボックスは「game of chance(賭博)」に該当しないと判断しました。

 

国務院は、FUTモードのルートボックスは、FUTモードという「game of skill(技術によるゲーム)」の一部であり、当該ゲームに偶発的要素を加味するだけであって、それ自体が独立型のゲーム(stand-alone game)とはいえないとしています。もっとも、この判断は、ルートボックス一般について賭博該当性を否定したものではなく、あくまでFUTモードに関する判断であった点に留意する必要があります。

 

オランダでの近時の動きとして、2022年6月、自由民主国民党(VVD)を含む6つの政党※5の議員が共同名義でルートボックスの規制を求める動議を国会に提出したことが挙げられます※6。この動議は、ルートボックスが賭博の一形態であり、子供たちがゲーム内で少額取引を行うよう操られ、これによって予期せぬ高額の請求を受ける可能性があることなどを指摘した上、ルートボックスを禁止する可能性を模索することを政府に求めています。

 

※5 動議に加わった議員の所属政党はVVDのほかCDA、CU、SP、D66及びGLであり、これらの政党の保有議席数は、下院で150席中94席、上院では75議席中44議席です。

 

※6 https://www.tweedekamer.nl/kamerstukken/moties/detail?id=2022Z13703&did=2022D28235(オランダ語)

 

こうしたベルギーやオランダでのルートボックスを取り巻く環境を受け、ゲーム事業者が、両国でのサービスを停止し、又はリリースを中止する事例も見られます※7

 

※7 例えば、2022年6月にリリース予定だったActivision Blizzard のDiablo Immortal は、オランダ及びベルギーでのリリースが中止されています。

 

このほか、スペインでは、2022年7月に消費相がルートボックスを規制する法案を発出し、2024年1月の同法施行を目指して手続が進行しています。同法が成立すれば、スペインは、ルートボックスを明示的に規制する法律を持つ欧州で最初の国となる見込みです。

次ページ2. 英国におけるルートボックス規制の動向

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○執筆者プロフィールページ 
平尾覚
稲垣弘則
廣瀬香
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