(※写真はイメージです/PIXTA)

商品やサービスを一般消費者に向けて提供する「B to C(Business to Consumer)」企業と異なり、法人に向けて事業を行う「B to B(Business to Business)」企業は、マスコミへの営業が有利ではありません。日本経済新聞の記者から「B to B」企業広報に転身した日高広太郎氏の著書『BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)で効果的な戦略を解説します。

メディア別のネタづくり(業界紙、専門紙編)

世の中には多くの業界紙、専門紙が存在します。全国紙に比べれば発行部数は多くありませんが、多くは専門的な情報を掲載しているため、関連業界の企業経営者や社員が読んでいます。読者は多くないものの、全国紙よりも真剣に新聞に目を通しているケースが多く、業界関係者の認知度を上げるのにはうってつけのメディアだと言えます。

 

では、業界紙に掲載してもらうにはどのようなネタづくりが必要なのでしょうか? 第一歩は、記事を掲載してもらいたい業界紙を入手することです。記者に挨拶に行った時に新聞を1~2部もらってくるのも一つの手ですし、挨拶だけするのが難しい場合は、新聞を購入したいと代表電話の受付の方に話し、送ってもらえば良いでしょう。

 

実際に新聞を読めば、どんなストレートニュースが掲載されているかがわかると思います。もちろん、漫然と紙面に目を通すのではなく、入手した業界紙のニュースに自社が当てはまるネタがあるかどうかを確認しながら読みましょう。

 

業界紙や専門誌の場合は、業界の細かいニュースが掲載されている一方で、対象としている業界に関連する記事ネタ以外は取り上げるのが難しいことも特徴です。どんなに面白いネタでも、他業界の記事ネタは難しいのです。

 

ただし、全業界に通じる記事ネタもあります。例えばある企業が、全業界を対象とする、あるサービスの手数料を引き下げるとします。この場合はすべての業界紙や専門誌に記事を掲載してもらえる可能性があります。しかし、全業界を対象とするサービスのネタだったとしても、業界紙の記者に記事ネタを提供するのに、その業界にどう関係するのかを説明しないようでは掲載はおぼつきません。抽象的にお伝えしてもわかりづらいと思いますので、ここでは具体例を挙げて説明していきます。

業界の現状や課題を把握した上で記事ネタを提供しよう

事例Ⅰは「Aというコンサルティング会社が来月から、コンサルサービスの手数料を従来の水準から10%値下げする。サービスは全業界を対象とする。値段を下げることで、顧客がサービスを受けるためのハードルを引き下げ、利用者増を目指す」という記事ネタです。

 

例えば、この会社の広報担当者が物流関連の業界紙に記事を掲載してもらいたいと思った場合、このまま掲載をお願いしても、あまり興味を示してもらえない可能性があります。すべての業界が対象ということは、その業界紙・専門紙が対象としている業界だけではないということでもありますので、記者が「必ずしも掲載する必要がない」と判断することが考えられるからです。

 

私が広報担当であれば、例えばこのネタを以下のような形で、物流業界向けにカスタマイズして提供するようにします。

 

「コンサルティング大手のA社は来月から、物流会社など向けのコンサルサービスの手数料を10%値下げする。物流業界では、インターネット通販の普及などを背景に小口配送が増加。詳細な配送ルートプランの立案など業務の効率化を必要しており、物流関係のコンサルサービスへの需要が急増している。A社はサービスの価格を引き下げることにより、二の足を踏んでいた中小の物流会社が自社のサービスを積極活用できるようにし、物流業界の顧客開拓を進める」

 

いかがでしょうか。全業界向けの記事ネタを物流業界向けの記事ネタに変身させられたのではないでしょうか。広報担当者が「業界紙に記事ネタを掲載してもらいたい」と考えた場合、新聞の内容を分析した上で、その業界の現状や課題を把握する必要があると私は思います。

 

広報担当者が、他の業界の業界紙の記者と同じ記事ネタを記者に一斉メールで送りつけて、「記事を掲載してほしい」と言うだけなら確かに仕事は楽ですよね。しかし、それで記者を惹きつけられると思っているのだとしたら、それは少し考えが甘いでしょう。記者が「自分の業界との関係が薄い」と思ってしまえば、記事が掲載されないのは当然です。記者から「この企業の広報担当者は自分の業界のことがわかっていない」とみなされれば、信頼関係を築くことも難しくなります。

 

もう一つ記事ネタの例を挙げておきましょう。事例Ⅱは「ITサービスのB社が企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を強化する。サービスの対象は全業界。全社横断組織であるDX推進本部を新設し、マーケティング、提案・実行支援を実施する」という記事ネタです。こちらも事例Ⅰと同じですね。例えば広報担当者が建設関連の業界紙にこのネタで記事を掲載してもらいたいと思った場合、このまま掲載をお願いしても、やはり興味を示してもらえない可能性があります。

 

私がこの企業の広報担当者なら、事例Ⅰの時と同様、このままのネタを建設関連の業界紙の記者に提供することはしないでしょう。例えば、以下のようにしてみてはいかがでしょうか?

 

「ITサービスのB社は、建設業界などの企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を強化する。全社横断組織であるDX推進本部を新設し、マーケティング、提案・実行支援を実施する。建設業界では、人手不足や業務の効率化、次世代への技術継承などが課題となっている。このため、最新のICT(情報通信技術)を活用し、計画・調査・設計・施工・維持管理の情報共有や、遠隔からの重機操作や施工状況の確認などが進みつつある。B社はこうした企業へのサービスをDX推進本部で一括担当し、建設業界の業務効率化を支援する」

 

あくまで一つの例に過ぎませんが、このような形で記事ネタを提供すると、建設業界関連の業界紙の記者の方々も、当初のネタ案よりも記事を掲載しやすくなるでしょう。こうした記事ネタの提供は、必ずしも文章にする必要はありません。記者に対して、口頭で説明すれば良いのです。ただ、口頭で説明しても、業界のことを理解していないようでは記者に見透かされてしまいます。

 

もともと知名度の高い超大企業はともかく、BtoB企業や中小企業がおおざっぱに広報活動をやっていては、記事の掲載はいつまでたっても増えないということを、多くの広報担当者は肝に銘じておく必要があります。まさに、私もそれを痛切に体験した一人です。BtoBや中小企業の広報担当者は、日々忙しい業務をこなしながら、常に勉強と記事掲載のためのメディアへの営業を必要とする大変な仕事だと思います。しかし、難しいからこそ、やりがいがある仕事でもあるのではないでしょうか。

メディア別のネタづくり(全国紙編)

全国紙の場合、業界紙に比べれば、企業関連のニュースについて各紙で大きな違いはありません(日経新聞を除く)。経済ニュースについては、企業ニュースだけでなく、あらゆるジャンルの経済関連の記事が掲載されているために、なかなか紙面のスペースが取れないのが特徴です。

 

例えば日経新聞以外の全国紙の場合は、基本的に、経済関係のニュースは「経済面」に集約されています。大手全国紙のある日の紙面を実際に見てみると、経済のコーナーに「日本の経常収支」というマクロ経済ニュース、「米国の株式相場の値下がりのニュース」、「米国政府の予算編成のニュース」などという、壮大なニュースが並んでいました。

 

これでは、BtoB企業や中小企業がストレートニュースで紙面に入り込む余地はまったくなさそうに思えます。ただし、よく紙面を分析すると、それぞれの新聞で企画記事があることがわかります。例えば新製品を取り上げる企画記事の連載もありますし、各業界の変革の動きを伝える連載もあります。中小企業を取り上げる連載記事もあります。

 

ストレートニュースでは掲載が難しくても、そういった企画記事で自社が取り上げられないかを探っていけば、記事掲載の可能性が出てきます。また、こうした企画は常に新しい企画が立ち上がり、消えていきますので、できるだけ記者と情報交換し、「どんな企画があるのか」、「自社も取り上げてもらえる可能性がないか」を探っていきましょう。

 

こうした全国紙は、多くの人が読んでいるだけに、日本企業のほとんどを占める中小企業に勤務している読者も多いはずです。つまり、中小企業の動向は読者にとっても関心のあるテーマであり、常にどこかの新聞で中小企業を取り上げる企画が掲載されていると言っても過言ではありません。まずは自社の記事を掲載してもらいたい新聞を熟読して分析し、あきらめずに記者と情報交換をしていくことが大事だと思います。

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BtoB広報 最強の攻略術

BtoB広報 最強の攻略術

日高 広太郎

すばる舎

日本経済新聞社のエース記者として活躍し、東証一部上場の「BtoB企業」の広報担当役員に転身、年間のメディア掲載数を就任前の80倍以上に増やした広報のプロフェッショナルである著者。現在は独立し、広報コンサルティング会社…

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