日本では、どれだけ真面目に働いても給料が上がりません。その理由は単純で、企業の労働生産性が低いからです。ただし、製造業だけで比較すると、日本の生産性は低くありません。では、どこが足を引っ張っているのでしょうか。大前研一氏が著書『日本の論点 2022~23 なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。』(プレジデント社)で解説します。

間接業務のデジタル化を進めて生産性を高める

■国を挙げて改革に取り組んだドイツ

 

ドイツは、2000年代に国を挙げて生産性向上に取り組み、「欧州の病人」と呼ばれた状況から見事に立ち直った。1998年から2005年まで首相を務めたSPD(社会民主党)のゲアハルト・シュレーダー氏による「アジェンダ2010」と呼ばれる改革のおかげだ。

 

シュレーダー氏は雇用市場、賃金協定、失業保険制度、年金制度などの改革を進める一方、デジタル化などで仕事がなくなった人々の再教育に取り組んだ。どれも強い痛みを伴う改革だった。

 

仕事がなくなった人々は、大学や大学院で学び直す「リカレント」や新しいスキルを身につける「リスキリング」を受けることができた。失業しても再就職しやすくなり、「雇用の流動性が高まることで新しい産業が育つ」という好循環が生まれたのだ。ドイツで2000年代後半から失業率が大きく改善したのは、この“シュレーダー改革”の成果であると言える。後任のメルケル首相が長期政権となり、EU内でもリーダーシップを発揮することができたのは、ドイツ国内の経済問題がおおむね解決していたからだ。

 

これに対し、日本は30年もの間、働き方の大改革に着手しなかった。1980年代に頂点を迎えた状態のまま、仕事の進め方、組織構造、学校教育などは一切変化していない。再教育の場として、失業者向けの職業訓練校や職業能力開発センターはあっても、そのカリキュラムは30年前から大きく変わっていないのだ。

 

21世紀に必要な科目はゼロからイチを生み出す「コンセプトづくり」や「システム設計」だ。簡単な例を挙げると、新しいウェブサイトのコンセプトを考えて具現化するためのシステムを設計するなどのスキルを学ぶことができず、しかも教育期間が短い。このように、アナログで育ったミドル世代を、6カ月や1年程度で21世紀型に再生させるのは無理がある。

 

日本人の給料を上げるためにやるべきことは決まっている。それは間接業務のデジタル化を進めて生産性を高めることだ。仕事がなくなった人は再教育によって21世紀に必要なスキルを身につけさせる。シュレーダー改革のような強い痛みを伴う改革は、新しい産業が育つチャンスとなり、日本経済の長期低迷に歯止めをかけることができるだろう。

 

日本政府には、企業が雇用を維持するために補助金を出すことはするが、「要らない人を外に出し、公的責任で21世紀のスキルを身につけさせる」という仕掛けさえない。

 

大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学学長

 

 

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本連載は、大前研一氏の著書『日本の論点 2022~23 なぜ、ニッポンでは真面目に働いても給料が上昇しないのか。』(プレジデント社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

日本の論点 2022~23

日本の論点 2022~23

大前 研一

プレジデント社

「なぜ日本では真面目に働いても給料が上昇しないのか」――。 約2年間にわたり猛威を振るい、各国の政治経済に深刻な影響を与えた新型コロナウイルスは、ワクチン接種が進んだ結果、いまだ予断を許さないとはいえ、世界は新…

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