(※写真はイメージです/PIXTA)

30年以上没交渉だった兄が、孤独死――。警察の連絡を受た弟は、状況に追われるまま葬儀や財産整理を「持ち出し」で行うが、亡き兄には、本来このすべてを引き受けるべき娘がいた。だが、ようやく連絡を取った姪の言動は驚くべきものだった。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとに、日本の孤独死の厳しい実情を解説する。

あなたにオススメのセミナー

    【関連記事】平均給与「433万円」より厳しい…「日本人の現状」

    「申し上げにくいが、死後かなり経過した状況で…」

    都内に住むAさんが神奈川県警のある警察署から電話を受けたのは、今から1年ほど前のことだ。

     

    「お兄様がご自宅で亡くなったようです。申し上げにくいのですが、死後かなり経過している状況です。ご遺体の引き取りをお願いしたい」

     

    Aさんの心の中では悲しみや驚きの感情よりも先に、「参ったな」との思いがよぎった。

     

    兄とは疎遠で、Aさんが大学進学を機に上京して以来、もう30年以上は会っていない。いや、もっと長い間だろうか。

     

    兄は若い頃から飲食関係の仕事を繰り返し、夜の仕事を転々としていたようだ。人当たりは良く、口先だけは調子はいいが、何をやっても長続きしない。

     

    知人や両親からお金を借りて自分で店を出したこともあったらしいが、そのたびに繫盛しても潰したりを繰り返し、と風の噂で聞いていた。

     

    既に亡くなった両親も見放して、とうの昔に縁を切っていた。

     

    だが兄には、子どもがいたはずだ。離婚していたが、確か女の子でもう20代後半くらいにはなっているはずだ。そのことを連絡をくれた警察官に問い合わせると、

     

    「個別のご親族の状況について詳細は言えませんが…。連絡の取れる親族で、ご遺体の引き取りをしてくれているご親族に連絡をするしか我々もできない」との回答だった。

     

    いくら疎遠だった兄でも、死んで亡骸となってしまったいま、このままにしておくわけにはいかない。仕方なくAさんは警察署に足を運び、変わり果てた兄と対面した。

    検死費用、遺体搬送費用、葬儀費用…出費は50万円以上

    その後は怒涛のような忙しさだった。

     

    不審死扱いになるので検死の費用、遺体の搬送費用、これらを神奈川県では遺族が負担するとのことだった。腑に落ちないが、「そういう制度なので」と言われたので払うしかない。また警察から何社か紹介を受けた葬儀会社に、火葬や簡単な葬儀をしてもらう。

     

    これだけでなんだかんだ合算すると50万円以上になってしまった。旅費なども合わせると、さらなる額の負担となり思わぬ出費となった。

     

    2週間程後、無事火葬が終わり、兄は遺骨となった。

     

    警察から遺留品として兄の銀行通帳も渡された。中を見てみると、直近で500万円程の金銭がある。また結婚した当時に買った兄の自宅の、古いマンションの名義も兄のようだ。

     

    「この預金から葬儀代を貰っていいのですか?」と警察などに問い合わせても、「それは銀行に問い合わせてください」としか言わない。

     

    兄の遺骨についても困ってしまう。両親の気持ちを考えると実家の墓には入れたくない。
    両親は実家に兄が訪れることも許していなかったし、晩年は絶対同じ墓には埋葬しないでくれ、と言い残されていた。

     

    お骨はどうすれば、と警察官に聞いてみても、「それはご親族のことなので皆様が決めてください」としか回答がない。ごもっともだが、こっちも善意で火葬しただけなのに困ってしまう。

    「きょうだいには戸籍を取る権利はありません」

    Aさんはさらに、兄が通帳を持っていた銀行にも問い合わせをしてみる。

     

    「まずは亡くなった方の出生までの戸籍をすべて取得して下さい」

     

    とのことなので、今度は市役所への問い合わせだ。

     

    市役所で戸籍を取ろうとすると、当初は門前払いされた。

     

    「きょうだいには戸籍を取る権利はありません。私たちは、市から業務委託を受けている派遣会社の者なのでマニュアル以外のことは対応致しかねます」

     

    との回答を繰り返すばかりで、戸籍を出してくれなかった。

     

    その後、市の職員に対応を代わってもらい、兄の娘に対して、兄の死亡や相続が発生していることを伝えないとならないこと、葬儀代を立替えていることなどの必要性の事情を説明し、正当な事由があることなどを書面で申し立てて、ようやく亡き兄の戸籍を取ることができた

     

    ※筆者注:戸籍法第十条の二により、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するため」や「正当な理由がある場合」があり、請求者がこれらを明らかにした場合は、本人や直系の尊属・卑属以外でも戸籍の取得が可能な場合がある。

     

    それを持って銀行にAさんが行くと、「子どもがいるのでこの方のみが相続人です。きょうだいの方に相続権は一切ありません」と、にべもない対応だ。

     

    兄の戸籍からの手がかりで、また戸籍の取得だ。いちいち理由を説明しなくてはならないので、とんでもなく手間がかかる。

     

    しかしながら数ヵ月の後、やっとのことで兄の娘の住所を知ることができた。

     

    次ページ姪からかかってきた、思いもよらぬ電話

    人気記事ランキング

    • デイリー
    • 週間
    • 月間

    メルマガ会員登録者の
    ご案内

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    メルマガ登録
    会員向けセミナーの一覧