母親が亡くなった正木さん(仮名)は、父親が認知症、弟が海外在住と、諸々の手続きを1人で進めなければならない状況です。相続に関して遺産はわずかだろうと高を括っていた正木さんでしたが、母が遺した複数の通帳には想像以上の遺産が……のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに「無対策」で相続が発生した際の辛すぎる現実を紹介します。

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母親が死亡…1人で諸々の対応を背負ったMさん

正木さん(53歳、男性)は、東京から急ぎ地方にある実家に戻りました。帰省の理由は、入院している母親の容態が急変したとの連絡を病院から受けたためです。近い将来こんな日が来るだろうと心の準備はしていたつもりでしたが、気持ちは焦ります。

 

交通機関を乗り継ぎ、何とか母親の元に駆けつけることができました。とはいえ、本人が危篤になっても病室に来たのは正木さん1人だけです。正木さんには弟がいるのですが、海外で仕事をしているためすぐに戻ってくることはできません。

 

正木さんが戻ってきた日の翌朝、母親は旅立ってしまいました。短い時間でしたが、正木さんは母親と2人だけの時間を過ごすことができました。最期の貴重な一時だったと、悲しみに浸りながら思いました。

 

母親の遺体は地下の霊安室に運ばれました。正木さんも葬儀会社の車が到着するまで、そこで待機していました。迎えが来たので、病院から死亡診断書を受け取り、そのまま葬儀会社の車で会場に向かいました。

 

葬儀会場に着いても、じっとしているわけにはいきません。各所に連絡したり、葬儀の段取りを決めるなど、やることがたくさんあります。

 

葬儀には親戚が何人か参列してくれました。参列してくれた親戚に挨拶をしながら、正木さんは1人で諸々のことに対応しました。合間を縫って海外にいる弟に随時連絡を入れますが、すぐに帰国することは難しいとのことでした。

認知症、うつ病…複数の病をもつ気がかりな「父親」

正木さんには、気掛かりなことがあります。それは、葬儀に出られなかった父親のことです。

 

現在、持病の糖尿病の他に複数の病気を併発し、入院しています。認知症も進行しており、前回面会に行った際は正木さんのことを自分の兄と勘違いしながら話しかけてきました。興奮してしまうこともあるため、薬で気持ちを安定させている状態です。

 

葬儀が終わり、正木さんは気になっていた父親に面会に行きました。父親に母親のことを伝えようとしましたが、「あんた誰かね」「親戚の〇〇かね」とまったく話が通じません。それどころか、うつ病の症状も深刻で、「あんたは、お医者やったかね。俺は早く死にたいんよ」などと漏らす始末です。

 

正木さんは、〝やはり難しいか〞と父親への報告を諦め、母親の財産の整理に取り掛かることにしました。

 

父親に詳しいことを尋ねることができるといいのですが、それどころではありません。自分で一から調べていかないといけない状況です。

 

以前、実家の今後のことが気になり、財産のことを聞いておこうと思った時期もありました。弟とも話し合っておいた方がよいとも薄々は感じていました。しかし、日々の生活に追われ、実家が遠方ということもあり、とうとう何も確認できないまま今日を迎えてしまったのです。

 

とりあえず、家の中を色々と探してみました。もっとも病院代の支払いのために通帳を一冊だけは預かっていました。正木さんは、もし他にあったとしてもわずかだろうと高を括っていました。

 

ところが、タンスを探ってみると袋が出てきて、その中に通帳がなんと5冊も入っていました。どの通帳もそれなりに残高が残っているようで、定期預金などの積み立てもあります。正木さんが思っていた以上に、遺産がありそうです。

 

よく見ると、預貯金だけではなく、投資信託に関する明細書が出てきました。銀行の系列商品のようで、銀行から勧められて口座を開設していたようです。

 

予想以上にたくさん通帳があるので、正木さんは税金のことや手続きのことが心配になってきました。実家にいる間に少しでも相続手続きをしておきたいと考えた正木さんは、最寄りの銀行に足を運びました。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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