(※写真はイメージです/PIXTA)

登山をするために山に入る時、「登山届」を提出します。万が一の遭難があったときに迅速な救助活動をするために利用されます。ここ数年、自治体によって条例となって登山届の提出が義務化されている地域が出始めました。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で登山を楽しむ発想の転換を解説します。

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登山条例を定めた富山県では3年にわたる激論

■規制大国日本で登山を楽しむ、発想の転換

 

スポーツの中で、根強い人気を誇るのが登山です。何年かに一度、登山ブームが起きることもあります。平成26年(2014)には、国民の祝日に「山の日」が加わりました。

 

総務省の行っている社会生活基本調査によれば、登山やハイキングをする人は、およそ972万7000人となっています(総務省統計局「平成28年社会生活基本調査結果」)。新型コロナウイルス感染症が席巻した最近は、レジャーでもインドア傾向が強いように思えますが、実際にはアウトドア関連企業の業績も堅調です。

 

一方、標高1200メートル級で手軽に山歩きが楽しめる首都圏近郊の山では、遭難事故も増えていることが報道されています。日本は国土の75%が山地ということもあって、全国各地で山歩きを楽しめるのですが、そうした山を擁する各地方自治体には遭難を防ぐための条例が制定されています。日本で初めて制定されたのは、富山県です。富山県東部には、北アルプスの立山連峰があり、その北部にはロッククライミングで人気の剱つるぎ岳だけが位置しています。

 

戦後、登山が人気スポーツになり、登山人口が増える中で山の観光地化が進みます。すると、技術的に難しい山や危険のあるルートにも多くの人々が訪れるようになり、遭難事故が社会問題となりました。そこで条例を定めて、危険区域の指定や登山ルートの規制が行われたのです。

 

登山条例は、危険なルートや危険な時期に山に入る際、届出の提出を義務付けるものです。無届けで山に入れば、罰金を科すようになっています。

 

登山には、わざわざ雪の時期に登るとか、岩場を登るとか、敢えてリスクをとるというベンチャースピリットに共通する魅力があります。そこで、山登りをするにあたって適正な登山計画を事前に提出し、登山計画にもとづいた装備や食料を整えて登山をしなければならないというルールが必要なのです。

 

本格的に登山をしている人たちは自分たちで準備しますが、経験の少ない人については山岳指導員から指導を受け、計画書を作ることを義務付けました。平成に入ってからは、より一般的な登山客を対象に条例を制定する自治体も増えていきます。そして、多くの登山者の方々も同計画提出に賛同しています。

 

初めて条例を定めた富山県では、3年にわたる激論が交わされています。元々は、登山届は届出制で提出してもしなくても、どちらでもよかったのです。このため、届出をする人はごく少なかったのです。それを義務化して、違反をしたら罰金を取るという形にするのですから、登山はスポーツなのに条例で制限するのかという疑問が出されたり、条例に本当に遭難を防止する効果があるのかが問題にされたりしたのです。

 

特に問題になったのは、遭難が起きる原因との関係です。遭難防止といっても、遭難事故が起こるのは足を滑らせたり、急な天候悪化に見舞われたり、事前計画をいくら作っていても計画とはあまり関係のないことが重要な要因となっていることも多いからです。計画以前に、登山中の注意事項の研修をしたり、しっかりした登山技術を身に着けてもらったりする方法を充実させる方が重要なのではないかということです。

 

さらに重要なのは、遭難した際の救助です。遭難救助は、最初に公的機関が動きます。これは現地の所轄の警察や消防が担っています。それでも救助が難しい場合は、民間の山岳救助隊員が警察などと連携して救助にあたります。公的機関は税金で運用されていますが、民間は別途費用がかかります。実際に活動する山岳救助隊員はボランティアの人たちです。

 

次ページ登山における「自助・共助・公助」

※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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