(※写真はイメージです/PIXTA)

両親より先に旅立ってしまった兄。しかし、兄の妻と子どもたちは、兄亡きあとも両親と同居してくれました。実家を離れている妹は、そんな兄嫁に感謝していたのですが、父親の介護施設入所がきっかけで、大きな不安を抱えることになります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

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母は逝去、父は施設へ…実家は「兄嫁がひとり暮らし」

今回の相談者は、60代の専業主婦の安藤さんです。実家の父親が介護施設に入ることになり、近い将来の相続について心配があるとのことでした。

 

安藤さんの母親は数年前に亡くなっているのですが、じつは実家の両親と同居していた兄は、母親よりさらに前に亡くなっています。そのため、安藤さんの父親の相続人は、安藤さんと、安藤さんの兄の子ども2人の3人です。

 

安藤さんの兄が亡くなったあとも、専業主婦の兄嫁と子どもたちは同居を続けました。その後、兄の子どもたちは仕事や結婚を機に家を離れ、現在では、父親も体調を崩して入院し、そのまま介護施設に入所してしまったため、実家は兄嫁がひとりで生活しています。

「お義姉さん、万一のときのために持っててくれる?」

安藤さんは結婚して実家を離れ、車で2時間ほどかかる隣県に住んでいます。安藤さんも夫の両親と同居しており、自分の両親が元気なときから実家に帰る機会が少なかったため、兄の家族が同居してくれることを、とてもありがたいと思っていました。

 

兄は両親より早く亡くなりましたが、実家で育った甥が実家を継ぐという暗黙の了解もあり、安藤さん自身も異論はありませんでした。

 

安藤さんの父親の入院が決まったとき、父親は安藤さんを呼び出し、通帳を預かってほしいといいました。これまで父親は、自分の通帳類は自分で管理していたのです。

 

安藤さんはとりあえず受け取ったものの、自宅は実家から車で2時間、入所先の施設は3時間近くかかる場所にあります。また、安藤さんと同居する義理の両親はこのところ持病の状態が悪く、父親にもしものことがあったとき、すぐに駆けつけられるとは限らないと不安を覚えました。

 

あれこれと考えた結果、メインバンクの通帳とキャッシュカードを一時的に兄嫁へ託すことにしたのです。

通帳を預けた途端、兄嫁は湯水のごとく…

父親が入所してから2ヵ月後、施設で父親の様子を見たあと、久しぶりに実家へ立ち寄りました。ところが、いつもの道を曲がったとたん見覚えのない建物が出現し、夢かと思うほど驚いてしまいました。しかし、目を凝らしてよくよく見れば、紛れもなく安藤さんの実家です。外壁と屋根が真新しくなり、これまでとまったく違う色彩に塗られていたのでした。

 

おそるおそるインターフォンを鳴らすと、にこやかに登場した兄嫁は、安藤さんの顔を見て一瞬驚いた表情を見せました。しかし、いつも通り扉を開け、中に招き入れました。

 

安藤さんは家の外観を見てとても驚いたと前置きし、支払いについて単刀直入に聞くと、父親の通帳からすでに支払ったと、兄嫁はまったく悪びれた様子もなく答えました。

 

怒りを覚えた安藤さんですが、その場で揉めてしまってはダメだと、とっさに考えたといいます。言葉をいくつも飲み込んで、とりあえずその場をあとにしました。

 

「兄嫁は、いつ父が帰ってきてもいいようにきれいにしておいたと言い訳していましたが、父がもう家に戻れないことは、兄嫁もわかっているはずです。このままお金をじゃんじゃん使われたら、父が存命中にお金がなくなってしまいます…」

 

父親の財産は、相続評価1000万円の自宅不動産と預金2000万円です。相続の際、甥には自宅不動産を相続させ、介護施設の費用を払った残りを少し分けてもらえばラッキーだと思っていたのですが、現状ではとてもそんな甘い見通しは持てません。

 まず通帳を取り戻し、父親に遺言書作成の依頼を 

話を聞いた筆者は、通帳を兄嫁に預けたのは、父親の意思ではないことから、「いったん父親に通帳類を確認させる」などと理由を伝え、すぐに兄嫁から戻してもらうようアドバイスしました。

 

いちばん心配なのは、父親の施設の費用以外のことに使われて、お金が尽きてしまうことです。幸い、安藤さんの父親は認知症の兆候はないとのことから、すぐにでも遺言書を書いてもらうよう、あわせてお勧めしました。

 

父親の希望通り、安藤さんが通帳類を手元に置き、父親に関する費用以外の用途で減らないように管理しながら、残りは安藤さんも相続できるように遺言書に明記してもらえれば、不安は解消できるといえます。

 

【対策と注意点】

 

父親の通帳類を兄嫁から戻してもらう。

父親に遺言書を作成してもらう。

遺言書に相続の内容を指定してもらう。

 

預金通帳やキャッシュカードなどを預かった人が勝手にお金を引き出すことがないよう、情報共有するなどの方策が求められます。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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