信託の受益者が持つ「受益権」とは何か?

前回は、受益者保護のため受託者に課せられる禁止事項について説明しました。今回は、受益者の利益を守るための権利について見ていきます。

受益権は受益債権とその債権を守るための権利の総体

受益権は信託法条7項によって2種の権利の総体であると定義づけられています。

 

その内容は以下の通りです。

 

「この法律において『受益権』とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下『受益債権』という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。」

 

つまり、受益権とは、積極的な利益それ自体である受益債権と、それを守るために一定の行為を求めることができる権利の総体ということができます。また、受益債権は、信託期間中に信託不動産等の信託財産から生じる収益を受け取る権利と、信託終了後の残余財産の返還あるいは給付を受ける権利の2つからなるとされています。これらをまとめたのが以下の図表です。

 

【図表 受益権の仕組み】

帳簿等の閲覧には理由を明らかにする

次に、帳簿等の閲覧請求権について見ていきましょう。

 

信託法は38条で「受益者は、受託者に対し、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。」と定め、貸借対照表のみならず、帳簿等の閲覧または謄写の請求権を認めています。報告を求める権利と異なるのは、理由を明らかにした上で請求すべきものであることと、委託者には請求権が認められていないという2点になります。

 

これらは帳簿等の閲覧請求権の濫用を防ぐ目的から定められているものですが、帳簿等を閲覧する理由を明らかにすればよいだけで、その理由を裏付ける事実を立証する必要まではないとされています。なお、理由を明らかにした上で閲覧を求められた場合でも、受託者は一定の条件の下でその請求を拒絶することができます。

受託者は委託者と受益者の合意がなければ辞任できない

さらに、受益者には信託にとって重要な事項に関する意思を決定するさまざまな権利があります。例えば、受託者が辞任を申し出たとしても、委託者と受益者の合意がなければ、受託者は辞任することができませんし、受益者は委託者との合意により、受託者を解任できます。

 

その他、受託者を解任した後に新しい受託者を選任する、信託監督人(受益者が適切に受託者の監督ができない場合に置かれる人)や受益者代理人(受益者に代わって受益者の権利に関する一切の裁判上及び裁判外の行為をすることができる人)の選任、信託の変更や併合、分割、終了に関する合意、受託者の損失てん補責任の免除など、信託にとって重要な事項については受益者の合意がなければ行えないことになっています。

 

また、受益者には、受託者が法令違反行為を行った場合に差し止めを請求する権利、受託者等の違反行為によって信託財産に損失が生じたり、変更があったりした場合に損失てん補を請求する権利、信託財産への違法な強制執行等に対する異議を申し立てる権利等も認められています。

 

【POINT】

① 受益権は債権とそれを守る権利からなっている
② 報告や帳簿等の閲覧を請求する権利などがある
③ 信託の意思を決定する権利もある

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門』から抜粋したものです。その後の法改正は反映されておりませんので、ご留意ください。

千賀 修一

虎ノ門法律経済事務所 所長弁護士

昭和41年3月、中央大学法学部法律学科卒業。昭和48年3月、早稲田大学大学院修士課程政治学研究科修了。昭和45年4月、弁護士登録(東京弁護士会)。昭和47年4月、千賀法律事務所を開設(現在の虎ノ門法律経済事務所)。平成11年に日弁連常務理事、平成12年に東京家庭裁判所調停委員、平成14年に東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会委員長など、数多くの公職を歴任。現在は、虎ノ門法律経済事務所を母体とする株式会社虎ノ門サポート信託の代表取締役も務め、個人を中心に不動産信託に特化した財産管理のサポートをしている。

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資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門

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編著 千賀 修一

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