(写真はイメージです/PIXTA)

人口が減少の一途を辿るなか、クリニックの数はどんどん増加しています。患者の奪い合い、スタッフ不足、診療報酬点数の引き下げなど、クリニック経営を取り巻く環境は厳しくなるばかりです。多くの院長が、収益をどのように改善していくか、解決策を模索していることでしょう。ここでは医療機関のコンサルティングを行う筆者が、日々の診療で実践できる経営改善策を紹介します。

税理士の「売上15%アップ計画」が失敗したワケ

クリニックの経営を改善するために、取り組むべきことを具体化するうえで欠かせないのが「数値化」です。同じ事象であっても、解釈の仕方は人によって異なるからです。実例を挙げてみましょう。

 

5期連続の増収増益を果たしているBクリニックの理事長は、クリニックの規模を拡大するため、顧問税理士から提案された「売上15%増」の計画を受け入れました。それを実現するために、採用した検査技師を活用し、エコーの稼働率を高めていくという方針を立てました。

 

検査技師にその方針を共有し、これまで以上に積極的にエコーのオーダーを出すようになったのですが、こなしきれないほどのオーダーに検査技師が悲鳴を上げてしまったのです。

 

この問題が起こった原因は、「売上15%増」という数値目標を達成するための具体的な方策があいまいだったことにあります。ドクターである理事長も顧問税理士も、その目標について「なんとなく」「感覚的に」頑張ろうと考えているに過ぎず、どうすれば「売上15%増」を達成できるのかといった行動計画までは落とし込めていなかったのです。

 

この場合の正解はなんだったのでしょうか? エコーの稼働率を上げたいのであれば、理事長は毎月の件数目標、そして一日の件数目標を設定し、検査技師と目標を共有しておく必要があります。

 

さらに来院患者の属性を考慮し、心エコー、腹部エコー、下肢エコーのオーダーの割合を想定しておくことで初めて数値管理が可能になるのです。「数値目標」を設定すればぶれることもありませんし、患者都合によるキャンセル等、不測の事態が生じた場合もスムーズに軌道修正できるでしょう。

 

数値化は「目標を達成する方法」が見つかるプロセス

人間は易きに流れる生き物ですから、ダラダラしてしまったり、結果の測定もあいまいになってしまったりします。重要なのは、一日単位なり一ヵ月単位なり、「期限」や「区切り」を設けることです。そして目標数値と実績数値を比べて評価を行い、クリアできなかったときには問題点(課題)を洗い出し、行動を修正していく―という作業を繰り返します。これをPDCAサイクルと言います。

 

PDCAサイクルにおける課題の発見と成果の測定にスピード感を持たせるためにも、「数値管理」が必要です。

 

数値化の最大のメリットは、「目標達成のための具体的な行動計画」を明確にできることにあります。言葉で表した概念的な目標では“精神論的”な経営になってしまいます。

 

課題(問題)を数値化することで、本質的な部分にメスを入れることができますし、解決のプロセスや結果の測定も容易にできるようになります。遠いゴールに向かってがむしゃらに走ろうとするのではなく、そこに至るまでに飛び越えなくてはならないハードルをたくさん用意することが、目標を実現しやすくするのです。

 

経営状況が着実に改善していく「普段の意識」

その際、心に留めておいていただきたいのが、日々の結果に一喜一憂しないことです。目標が具体的になった分、それに縛られたり、数字に支配されたりしがちですが、つまずいた石ころの前にもゴールへの道は続いています。今は達成できなくてもいいのです。明日、1ヵ月後、あるいは1年後に達成できればいいのです。結果が出ないからといってすぐに方針を変えず、ぶれずにやり続けているうちに結果がついてくる場合もあるのです。

 

その意味で、スポーツ選手から学べることがあります。「オリンピックに出る」という夢に向かって漫然とトレーニングしていたらオリンピックに出られたという選手はいないでしょう。「毎日腕立て伏せを100回、腹筋を100回、背筋を100回、ランニング10km」といったトレーニングメニューを作成し、それを着実にこなしていたからオリンピック出場という夢をつかめたはずです。

 

学生時代に水泳をしていた私は、オリンピック選手が練習しているスイミングスクールでアルバイトをしていたことがあります。「オリンピック選手はどうやって育てるんですか?」と尋ねた私に、選手のコーチはこう答えました。

 

「彼ら彼女らは、一つひとつの練習の意味がちゃんと分かっている。筋力トレーニングをするにしても、どこの筋肉を鍛えていて、泳ぐうえでどう役立つのかをイメージして練習している。一方で、凡人はなにも考えず、ただ根性論でやっているだけなんだよ」

 

この考え方はドクターにも当てはまります。一人ひとりの患者さんや一つひとつの診療行為がクリニックの収益や経営にどうつながっているのかを、普段から意識しているかどうかで結果は大きく変わります。

 

結果を客観的に測定することでTrial&Error(検証→再考)ができるようにしましょう。繰り返しになりますが、大切なことは、目標を数値化すること、それによって目標達成のためになにをすべきかを明確にすることです。

 

院長にとってのコンサルタントは、スポーツ選手にとってのコーチと似ているところがあります。コーチが選手に対して、パフォーマンスが向上する練習法やコンディションが安定する食生活を提案するように、クリニックにおいても、レセプトデータを分析したうえで、注力すべき項目を投げかけるのがコンサルタントだと私は考えています。

 

具体的な目標は、一度決めたら逃げられなくなるという厳しい側面もありますが、参考にしてみてください。
 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

人口は減少の一途をたどり、クリニックも激しい生存競争にさらされる時代。売上の伸び悩み、他院との差別化がうまくできていないなど、経営に頭を抱えるドクターが増えています。 そんな方々を助けるカギとなるのが、診療報…

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