被相続人が亡くなり、相続人が「婚外子の存在」に気付くケースは少なくありません。しかし、家族が婚外子の存在を知りつつも、当事者が相続対策を立てないまま亡くなってしまい、残された相続人がお手上げ状態になるケースもあります。分割が難しい資産しかない場合、相続人は対応に苦慮することになります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

立て続けの両親の死で急浮上した「大昔の問題」

今回の相談者は、大学病院の勤務医で30代の坂野さんです。クリニックを経営する父親が亡くなったことで相続に悩み、筆者のもとを訪れました。

 

坂野さんの父方は代々続く医者の家系で、現在も中部地方に大きな総合病院を経営しています。そんな坂野家の長男として生まれた坂野さんの父親は、子ども時代から非常に優秀で、跡継ぎとして周囲からも期待されていました。しかし、大学生時代のある出来事で両親と諍いになり、実家とほとんど断絶状態になってしまったそうです。

 

坂野さんの父親は大学卒業後に上京し、まったく縁のない総合病院に就職したのち、数年後に結婚。10年近くその病院で腕を磨いたあと、妻と力を合わせてクリニックを開業しました。現在は、坂野さんの弟が跡継ぎとして勤務しています。

 

 

父親の病院は弟が継いでくれることになったため、坂野さんはかねてより希望していた研究者として大学病院に残ることができ、今後は安泰だと安心していたのですが、父親と一心同体でクリニックを切り盛りしてきた母親が、急死してしまいました。周囲のサポートのないままクリニックを立ち上げた父親にとって、献身的に尽くしてくれた母親は大きな支えであり、そんな母親を失ったことで父親はすっかりふさぎ込み、数ヵ月後、まるであとを追うように亡くなってしまったのです。

 

両親の立て続けの死は、坂野さんと弟にとっても大きなダメージでした。

 

しかし、ここで大きな問題が浮上します。じつは坂野さんの父親は、学生時代に交際していた女性との間に子どもをもうけていました。ですが、坂野さんの祖父はその女性が気に入らず、結婚を切望していた父親とその女性を強引に引き離しました。それが原因となり、祖父と父の関係は断絶してしまったのです。

 

婚外子として生まれたのは娘で、坂野さんよりもおよそひと回り年上です。坂野さんは成人後、交流のある数少ない父方の親族である祖母と叔父のそれぞれから、婚外子の存在について聞いていましたが、肝心の父親は固く口を閉ざし、一切を語りませんでした。

 

坂野さんや弟にとっても、一度も顔を合わせたことのない婚外子の姉を身内だと認識したことはありませんが、そんな姉であってもれっきとした父親の相続人であり、坂野さん兄弟と同等の権利を有しています。

 

坂野さんと弟は、父親がなにかしらの対策を取っていないか、父親の残していた書類を調べたり、契約している税理士に話を聞いたりしましたが、成果は得られませんでした。

 

「両親が苦労して立ち上げたクリニックです。このご時世、経営も決して楽ではありませんが、弟にうまく世代交代できるよう、全面的に協力するつもりでいたのです。それなのに、父がこんな問題を残したまま逝ってしまうなんて…」

 

坂野さんは肩を落としました。

 

筆者は、坂野さんと弟さん、そして坂野さん兄弟と交流のある父方の叔父に、改めて話を聞くことにしました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

父が果たせなかった「学生結婚」と、両家のいがみ合い

坂野さんの叔父がいうには、子どもをもった相手女性の実家が、学生の身分だから結婚は延期させたいと申し出た坂野さんの実家に激しくかみつき、大騒ぎになったそうなのです。その結果、祖父が激怒。ふたりの結婚は絶対に許さないという話になり、坂野さんの父親と相手の女性は引き離されることになりました。

 

「結婚させない代わり、両親は慰謝料として、相当な金額を相手の女性の実家に渡したと聞いています。兄が養育費を支払うことになれば、そこからまた接点ができるので、それを防ぎたいとの父の思惑があったようです。あと、兄には知らせていませんが、その後も何回か女性の実家からお金の無心があったようで、そのたびに父が、兄と接触しないことを条件に渡していたようです。母がこぼしていたのを覚えています」

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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