本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

12月のトピック

10月景気ウォッチャー調査・現状判断DIは54.5、「Go To」効果も大きく14年1月以来の水準に。先行きは新型コロナの影響が懸念材料。今年の漢字は「禍」などコロナ関連か? 『鬼滅の刃』のヒットやJRA売得金・年初からの累計前年比+3.4%増加までの持ち直しは、消費関連の足元の明るいデータ。

実質GDP前期比年率、7~9月期は大幅悪化した4~6月期から3/4戻しだが、水準は半分強戻し

20年7~9月期実質GDP成長率・第1次速報値は、前期比年率+21.4%と、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で前期比年率▲28.8%と大幅なマイナスになった4~6月期の反動もあり、大幅な伸び率になった。現行統計(2011年基準)で遡れる80年4~6月期以降で最大の伸び率である。伸び率は大幅でも水準で見ると半分程度しか戻していないという意見も散見される。実質GDP前期比年率の伸び率と併せて、「半分戻し」の議論をするので、平仄を合わせ実質GDP季節調整値で確認しよう。

 

実質GDP前期比年率7~9月期は、大幅悪化した4~6月期から伸び率で74.3%と3/4戻した。これは7~9月期の前期比の基準になる水準が大きく低下したためかなりの低水準になったことで伸び率が高めに出た面がある。水準の実質GDPを季節調整値でみると1~3月期526.6兆円、4~6月期483.6兆円、7~9月期507.6兆円だ(図表1)。差額をとると、前期差は4~6月期▲43.0兆円、7~9月期+24.0兆円である。7~9月期の戻し分24.0兆円は4~6月期の下落分43.0兆円の55.8%。55.8%を大雑把に見ると「半分戻し」に過ぎないということになろう。

 

鉱工業生産指数は大幅悪化した4~6月期から持ち直し、10~12月期も2四半期連続前期比上昇に

鉱工業生産指数・10月分速報値・前月比は+3.8%と5ヵ月連続の上昇になった。新型コロナウイルス感染症の影響で停滞した生産活動が5月分を底に回復し、5ヵ月連続で上昇してきたことがわかる。輸出向けの生産増もみられた。季節調整値の水準は95.0とまだ低水準ながら、20年3月の95.8以来の水準になった。前年同月比は▲3.2%で13ヵ月連続の低下となったが、マイナス幅は8月分までの2ケタから縮小し、9月分・10月分と2ヵ月連続1ケタになった。

 

10月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+4.6%と5ヵ月連続の上昇になった。鉱工業在庫指数は、前月比▲1.6%と7ヵ月連続の低下に、鉱工業在庫率指数は、前月比▲3.0%で、5ヵ月連続の低下になった。在庫調整が大きく進んだことがわかる。なお、鉱工業在庫率指数の前年同月比は▲0.5%と23ヵ月ぶりの低下となった。

 

鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると11月分は前月比+2.7%の上昇、12月分は前月比▲2.4%の下降の見込みである。12月に一服する可能性もあるが、11月は上昇が続く計画である。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、11月分の前月比は先行き試算値最頻値で+1.4%の上昇になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲0.2%~+3.0%の上昇になっている。

 

先行きの鉱工業生産指数、11月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.4%)、12月分を製造工業予測指数前月比(▲2.4%)で延長すると、10~12月期の前期比は+6.3%の上昇になる。また11月分・12月分を製造工業予測指数前月比(+2.7%、▲2.4%)で延長すると、10~12月期の前期比は+7.9%の上昇になる(図表2)。10~12月期は後半に減速懸念があるものの、期全体で見ると2四半期連続の前期比上昇になり、かなりの持ち直しが期待される状況だ。

 

景気動向指数による景気の基調判断は11月分で「上方への局面変化」になりそうな状況に

景気動向指数・一致CIを使った景気の基調判断は8月分で「悪化」から「下げ止まり」に上方修正された。

 

「下げ止まり」から、事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数ヵ月にあった可能性が高いことを示す「上方への局面変化」に上方修正されるには、一致CI前月差が上昇、かつ一致CIの7ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がプラスに変化し、プラス幅(1ヵ月、2ヵ月または3ヵ月の累積)が1標準偏差分以上振幅目安の+0.76以上になることが必要だ。10月分では7ヵ月後方移動平均の前月差はまだマイナスになりそうだ。このため景気の基調判断は10月分では「下げ止まり」で据え置きになると予測される。

 

但し、10月分は生産関連などの数字が強かったので、一致CIの前月差もしっかりした上昇が見込まれる。過去の数字が不変な場合10月分の一致CIが+2.8以上の上昇になることを前提にすると、11月分が0.1ポイントでも上昇さえすれば、7ヵ月後方移動平均前月差が+0.77以上になり、「上方への局面変化」に上方修正されることになりそうだ。

「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIは54.5と、18年1月以来の景気判断の分岐点50超

10月の景気ウォッチャー調査では、現状判断DIが54.5と景気判断の分岐点である50を上回った。「良くなった」という回答が多かったことを意味する。現状判断DIの景気判断の分岐点である50超は18年1月の50.1以来で、54.5というレベルは14年1月の55.7以来のものだ。明るい数字が出たと言える。緊急事態宣言が発動されていた4月調査で現状判断DIが7.9と統計開始以来の最低を記録していた状況と比べれば様変わりだ(図表3)。

 

 

景気ウォッチャー調査では4月調査の飲食関連の現状判断DIで▲3.1と初のマイナスという前代未聞の事態が生じた。しかし、10月調査では60.4へと大きく持ち直した。サービス関連は58.2だ。持ち直しの主因は「Go To キャンペーン」だと思われる。国土交通省によると、7月の「Go Toトラベル」事業開始から10月末までの宿泊者は速報値で延べ3,976万人。東京発着旅行が追加された10月の宿泊者数は延べ1,458万人で、9月の1,012万人の1.4倍になった。しかし、新型コロナウイルスの感染が広がってきた札幌市や大阪市をはじめ新型コロナウイルスの感染拡大が続く地域では、「Go Toトラベル」への警戒感が広がっている。

 

一方、10月分の自殺者数が2,158人、前年同月比+40.2%。4ヵ月連続の増加になった。今年は年間で11年ぶりに前年比増加に転じそうだ。もちろん新型コロナウイルス感染症防止の対策は大切だが、コロナのために仕事・生活が立ちいかなくなり経済的理由で自殺に追い込まれる人を減らす対応もしっかり行われなければならないだろう。新型コロナウイルスの感染対策をしっかりとりながら、経済を回していくことが肝要な局面だろう。

新型コロナウイルス関連・現状判断DIが10月分では初の50超に。先行き判断は50割れ

景気ウォッチャー調査で「Go To トラベルキャンペーン」の現状判断DIをつくると、9月は66.2(回答者71人)だったが、10月は70.3(回答者132人)へと上昇した。「Go Toキャンペーン」全体だと9月は67.1(回答者82人)、10月は68.0(回答者260人)となっている。但し、「Go Toキャンペーン」の10月の先行き判断DIは57.6(回答者236人)と50超だが、感染拡大の兆しが感じられたのか、「Go Toキャンペーン」先行き判断DIは地域別では北海道のみが45.6(回答者17人)と50割れだ(図表4)。今後の動向は要注視であろう。

 

 

新型コロナウイルス関連・現状判断DIは4月8.7(回答者846人)と1ケタだったが、10月には52.2(回答者370人)と50超になった。新型コロナウイルスの景況感に与える影響が10月25日~31日ではかなり落ち着いていたことがわかる。一方、新型コロナウイルス関連・先行き判断DIは、10月は47.5(回答者656人)と現状判断に比べ回答者が多く、こちらは「悪くなる」が多い50割れになっている。

その時々の景気局面や経済状況を映す「今年の漢字」。20年は五輪延期で「金」はなく、コロナ「禍」か、それとも。

年末というと「今年の漢字」が注目される。過去の漢字を眺めていくと「今年の漢字」がそのときどきの景気局面や経済状況を映しているのがわかる。「今年の漢字」は95年から日本漢字能力検定協会がその年をイメージする漢字1字を全国から公募し、毎年12月12日の漢字の日(いい字一字の語呂合わせ)に京都・清水寺で発表されるが今年は12日が土曜日のため14日(月)に発表される(図表5)。

 

 

18年の「今年の漢字」は「災」だった。北海道胆振東部地震、平成30年7月豪雨、台風21号、24号の直撃など、自然災害が多発したからだ。19年は新元号令和にちなんで「令」が選ばれた。過去を遡ると1997年は「倒」。山一証券破綻など金融不況の年だった。98年は「毒」、毒入りカレー事件があったが、不良債権の毒が経済を痛めた。04年「災」は新潟中越地震、台風史上最多の10個上陸など「災害」の印象の強い1年だった。リーマンショックが起こった08年は「変」だった。2000年、12年、16年は「金」で、五輪の「金」メダルが注目されたようだ。00年以降04年と08年のようにショッキングな出来事がないと、夏季五輪の年は「金」になっている。年初、20年は「金」が期待されたが、来年に延期になり「金」の可能性はなくなった。

 

12月1日に発表された今年は新語・流行語大賞は「3密」だった。ノミネートされた30語の半分が新型コロナウイルス関連(図表6)で大賞もコロナ関連から選ばれた。今年の漢字もコロナ関連から選ばれそうだ。幸い今年は台風上陸や大きな地震発生がなかったので「災」が選ばれるとすれば、コロナ関連としてだろう。「禍」が選ばれるか、小学生の応募も多いので「染」、「病」、「密」などのやさしいコロナ関連の漢字か。また、鬼滅の刃に絡めて、コロナウイルス絶滅を期待した「滅」か。どんな漢字が選ばれるかで人々のマインドがわかるので注目される。

 

大相撲11月場所の懸賞本数1,040本、秋場所1,152本より減少。前年九州場所比▲15.7%

令和2年11月場所は、今年は新型コロナウイルスの影響で福岡でなく東京で開催された。2横綱2大関が休場する異常事態で、一人大関の貴景勝が13勝2敗と健闘し年間最多勝を決め(図表7)、優勝決定戦で小結の照ノ富士を破り優勝した、懸賞は15日間で1,040本と事前申し込み約1,100本を下回った。同じ両国国技館で開催された七月場所の1,000本よりは多かったが、秋場所の懸賞本数は1,152本よりは少なかった。前年比でみると、11月場所の九州場所比は▲15.7%で、七月場所の名古屋場所比▲35.6%や秋場所の▲42.1%に比べるとマイナス幅は小さくなっている。

 

映画「『鬼滅の刃』無限列車編」が11月29日までで275億円、映画の興行収入歴代第2位に

『鬼滅の刃』を原作としたアニメの第一部の続編にあたる、映画「『鬼滅の刃』無限列車編」が10月16日に劇場公開され25日までの10日間の興行収入は107.5億円になった。公開10日間での100億円突破は、史上最速だ。11月29日までで275.1億円になり、映画の興行収入で『タイタニック』を抜き歴代第2位につけた(図表8)。年内に1位になるのではないかという見方もあるようだ。映画は全23巻ある原作の7巻と8巻に当たるので、まだまだ続編を作ることができそうだ。新型コロナウイルスの影響で第三次産業活動指数の映画館の前年同月比は5月に▲98.7%まで落ち込み、最新データの9月分でも▲44.9%の2ケタ減少だ。しかし『鬼滅の刃』で映画館は息を吹き返したようで、12月14日発表の10月分データが待たれるところである。

 

 

12月4日に発売される23巻の初版発行部数が395万部で、シリーズ累計発行部数(電子版を含む)は1憶2,000万部突破になるという。関連の子供向け玩具・ゲームの他に、食品、飲食店、コンビニ、公共交通機関、郵便会社などの様々な業界から相次いで販売されたコラボ商品の売り上げが好調で、消費の押し上げに寄与している。コラボ商品だけでなく、主人公が着ている羽織と同じ、市松模様の反物などの関連商品が売れているという話もある。

アーモンドアイ優勝のJC売得金は前年比+47.5%の大幅増、年間JRA売得金は9年連続前年比増

JRA(中央競馬会)のG1レースでは、コントレイルが史上3頭目の無敗3冠を達成した菊花賞の売得金は前年比+30.4%と大きく伸びた。コントレイルに、市場初の無敗牝馬3冠を達成したデアリングダクト、そして史上初の芝GⅠ8冠を達成したアーモンドアイが揃って参加し、アーモンドアイが優勝し9冠となったファン注目の11月29日ジャパンカップ(JC)での売上増は前年比+47.5%とさらに伸びた。

 

今年の売得金・年初からの累計金額の前年比は2月29日から10月4日まで無観客レースとなり、ネット(ごく一部が電話)でしか馬券が購入できなくなったため、5月3日の週までの累計では▲6.2%まで悪化した。しかし、そこから改善し、ジャパンカップが行われた11月29日の週までの累計前年比は+3.4%の増加となった。年間のJRA売得金は9年連続前年比増加が見えてきた(図表9)。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『『鬼滅の刃』「GoTo」が寄与…景気持ち直しだがコロナの陰も』を参照)。

 

(2020年12月2日)

 

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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