出版市場は近年、右肩下がりを続けています。小説は読まれず、雑誌も発行部数の減少が止まりません。唯一「売れ筋」と言えるのは、実用書やビジネス書、医療・健康書など読者にとって即メリットになるジャンルです。なかでも、企業が出版資金を出し、ブランディングの一環として書籍を作り上げていく「企業出版」には、各社が参入し、盛り上がりを見せています。果たして、この新しいビジネスモデルは、「斜陽」と揶揄される出版業界の救いの手となるのか? 企業出版のパイオニア、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏に話を聞きました。

書籍は企業にとって強力なプロモーションになる

「企業出版」は、企業のブランディングのため、プロモーションの一環として目的を持って行う出版です。

 

「企業出版は一度投資をすれば、資産として長くいろいろなことに活用できます」 幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏
「企業出版は一度投資をすれば、資産として長くいろいろなことに活用できます」
幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏

テレビや新聞、雑誌、ネットなど既存の媒体に広告を出して、マーケティングや自社のブランディングを行うのと同じではないかと思われるかもしれません。企業出版と広告は本来まったく別のものですが、結果的には広告以上の効果を発揮することになります。

 

では、書籍は他の広告媒体と何が違うのか。書籍の最大の特長は、自社に興味を持った潜在的なクライアント(読者)を数時間独占できることです。テレビCMにしろ、新聞、雑誌の広告にしろ、広告と消費者との出合いは基本的には偶然です。視聴者や読者はたまたま目に入った広告を見るという受動的な行動です。それも数秒から長くて数分程度。しかもタダの情報ですから、ありがたみがない。大半の情報は右から左に抜けていきます。

長時間、読者を独占することができる書籍

それに対して、書籍は書店などに自ら足を運んで主体的、能動的に探します。自分が必要とする情報、自分の問題意識なり解決したいことが書かれた本を見つけ出し、自分のお金で購入します。そしてそこには8万~10万字の濃密な情報が詰まっています。読了するのに早くても1時間近く、普通は数時間かかります。ここが重要なポイントです。短時間しか接点を持たない広告との決定的な違いです。誰かからもらった本は読まないかもしれませんが、自腹を切って買った本は必ず読みます。そして大事な情報は頭に残る。このように書籍は他の広告媒体と比べてまったく異なる性質があり、それが圧倒的な優位性になっているのです。

 

私たちは書店を、「好奇心旺盛な人が集まる場所ではなく、問題や悩みや課題を抱えた人が解決策を求めて訪れる場所」だと定義しています。ビジネスパーソンで営業に苦手意識を持っているとか、不動産や株などの投資を始めたいとか、美容や健康に関心があり詳しく知りたいとか、多くの人は実用的なもの、ビジネスや経営に関する書物を探し求めているのです。

 

書籍には先人の知恵が詰まっています。普通であれば習得するのに数年かかるものがわずか数時間で手に入れることができます。そんな媒体はほかにはありません。

 

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企業出版は読者の悩みや課題の解決策を提示する

私たちが企業出版でつくる書籍は、そうした読者の悩みや課題に対する解決策、ソリューションを提示します。クライアントの提供する商品やサービスがそれです。企業側はメッセージを届けたい相手、潜在顧客であるターゲットの読者層を絞り込んで、自社の商品やサービスを紹介します。自分が求めている解決策が示されているがゆえに読者はその本を買います。そして読み、「このノウハウはすごい」「すばらしいアイデアだ」「こんな情報を待っていた」と感動する。結果、著者であるクライアントに何らかのかたちでアプローチせざるを得ない状況が生まれる。これが企業出版の基本的な仕組みです。

 

書籍はウェブサイトとの相性が抜群にいいことも特長の一つです。たとえば、書籍がテレビ番組で紹介されたり、新聞や雑誌などに書評が掲載されれば、自社のHP(ホームページ)でニュースとして流せます。また、HPに本の内容を自社コンテンツとして掲載することもできます。

 

もちろん、書籍にはデメリットもあります。大きく2点です。1つは情報のアップデートができないこと。追加情報を足したり修正したりはできません(改訂版を出すという解決策はあります)。もう1つはマスマーケットにリーチできないことです。テレビCMなら何百万、何千万人が見ることでしょう。新聞や雑誌でも数万から数百万人にアプローチできます。

企業出版で一度投資すれば資産として活用できる

しかし、私たちがつくる書籍の多くは数千部~1万部単位です。私たちは大ヒットを狙っているわけではないので、10万部、20万部という部数をつくることはありません。もちろん部数の設定は極めて重要なポイントで、潜在的な読者ターゲットに広く網をかける意味で適正な部数を制作します。それは地引網漁みたいなもので、そこからクライアントにとって属性の高い数千人を捕まえようという狙いです。

 

実はこの2つ目のデメリットは、私たちがあえて狙っていることです。幻冬舎はミリオンセラー、ベストセラーをつくるノウハウやスキームを持っています。しかし、企業出版ではそのノウハウを、確実に読者ターゲットに刺さり、行動してもらうために応用しているのです。

 

冒頭で述べたように、企業出版は広い意味で販促・集客をメインとする広告市場に属しているといえますが、実際に関わることができるフィールドはもっと大きくなります。その一つが人材業界です。次回以降に詳しく述べますが、企業の人材採用においても書籍は非常に有効なツールとして活用されています。

 

このように書籍には一石二鳥どころではない多くのメリットがあります。私たちはクライアントの資産をつくっているという認識を持っています。テレビ、新聞、雑誌、ウェブ広告は資産づくりではありません。企業が求める効果に対して、広告を出せば一時的に効果がみられますが、出し続けなければ効果はなくなります。書籍はそうではなく、一度投資をすれば、資産として長くいろいろなことに活用できます。それも他の広告媒体と大きく異なる点です。「企業出版は最強の投資である」。私たちはそう考えています。

 

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