新型コロナウイルス感染拡大により、2020年4月期のM&A(合併・買収)件数は4年ぶりの低水準となりました。経済活動が停滞するなか、M&A市場が再び活況になる可能性はあるのでしょうか。株式会社ストライク執行役員広報部長の日高広太郎氏が解説します。

新型コロナ感染拡大…M&A市場への影響は?

新型コロナウイルス感染拡大の影響が、M&A市場にも広がってきた。

 

3月までは前年同月比で増加していたM&A件数だが、4月は大幅な減少に転じた。M&A件数(適時開示ベース)は50件と、前年同月の実績を17件下回り、4月としては2016年以来、4年ぶりの低水準にとどまった。前月比では36件減った。

 

第一生命経済研究所の試算では、政府の緊急事態宣言が実質GDP(国内総生産)に与える損失は45兆円にのぼるという。景気後退や資金不足への危機感から企業は現預金など手元に持つ資金を増やしており、短期的にはM&A市場への悪影響は避けられそうもない。

 

4月は1件当たりの買収額も小さく、取引金額100億円以上は1件のみ。10億円以上も4件にとどまった。金額が開示された件数が少なかったこともあり、4月の買収額全体は423億円と、前年同月比で9割減少した。

買収額上位の企業は、中長期的視点でM&Aを実施する

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、「経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)」を、当社(M&AOnline)が集計した。

 

買収額上位の企業に共通するのは、コロナ禍の中でも中長期的な視点でM&Aを実施していることだ。金額首位の東海カーボンは、フランスの炭素黒鉛製品メーカーCarbone Savoie(CS)を約197億円で買収し、同社の持ち株会社の全株式を7月上旬に取得する。

 

CSの主力はアルミ精錬関連の事業。東海カーボンは買収の理由について「アルミニウム市場は長期的に安定した成長が見込まれている」ことをあげ、CSの事業の需要も堅調に推移するとしている。

 

買収額2位はアステラス製薬。ミトコンドリア関連疾病などの創薬ベンチャー、英ナンナ・セラピューティクスを4月19日付で買収した。

 

アステラス製薬 本社
アステラス製薬 本社

 

買収金額は開発の進捗に応じた追加支払い分を含めて最大90億円規模だった。

 

アステラス製薬は「Nanna社の技術はミトコンドリア関連だけでなく、加齢や免疫代謝などの分野での創薬研究への展開も期待できる」(安川健司社長)としている。

 

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動きが目立ったのはリユース(中古品)関連のM&A

業種別で動きが目立ったのがリユース(中古品)関連で、M&Aは4件だった。

 

TRUCK-ONEは東南アジアに中古トラックを販売するSUNAUTO(北九州市)の子会社化、マーケットエンタープライズは旺方トレーディング(鳥取市)から中古農機具の買取・輸出事業の取得を決めた。

 

和装品リサイクルショップを運営する東京山喜(東京都江戸川区、民事再生法を適用申請)の再生スポンサーとして名乗りをあげたのはヤマノホールディングス。東京山喜の事業取得について検討に入ると発表した。

 

Buy Sell Technologiesはバンク(東京都渋谷区)から財布、バッグなど中古品の即時買取アプリ「CASH」事業を取得した。

 

ドラッグストア業界では首位を争うウエルシアホールディングがクスリのマルエ(前橋市、58店舗)、ツルハホールディングスがJR九州ドラッグイレブン(福岡市、228店舗)の子会社化を発表した。

「ピグー補助金」で経済損失は拡大するのか

コロナ禍を受けて、政府は過去最大の緊急経済対策を実施する方針だ。

 

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「今回は『ピグー補助金』が使われた歴史上、極めて珍しいケース」と話す。

 

英経済学者のピグーは、環境問題などの経済的ショックで社会的に必要とされる費用を税金(ピグー税)や補助金(ピグー補助金)で埋め合わせて問題を解決するよう説いた。

 

熊野氏は新型コロナウイルスの感染拡大を環境変化によるショックととらえ、政府による緊急経済対策での補助金を「ピグー補助金」に当たると指摘する。ピグー補助金は、需要が減った社会の中で、企業がちょうど良い水準まで生産量を減らせるようにするのが目的だ。

 

生産性
「ピグー補助金」は、ちょうど良い水準まで生産量を減らすのが目的

 

補助金や協力金を無償で渡すことにより、企業が自らの生産を減らしても何とか経営を成り立たせることができる一方で、経済活動は停滞する。このためGDPなどの経済損失はいったん大きくなってしまう。

 

もっとも足元で生産が落ち込めば、コロナ禍が収束した際の反動増が大きくなり、経済活動が急速に活発になる可能性もある。

 

4月は低迷したM&A件数だが、熊野氏は「内部流動性を高め、買収価格がさらに安くなる時を待っている企業も多く、M&A市場は中期的には再び活況になるだろう」と予測している。

 

【4月の主な案件】

 

・東海カーボン、炭素黒鉛製品メーカーの仏CarboneSavoieを子会社化(197億円)

・アステラス製薬、創薬ベンチャーの英ナンナ・セラピューティクスを子会社化(90億円)

・野村総合研究所、証券取引管理などバックオフィス業務の豪AUSIEXを子会社化(60.2億円)

・タケエイ、バイオマス発電事業の市原グリーン電力(千葉県市原市)を子会社化(53億円)

・SHIFT、パソコンのリユース事業などを手がけるエヌエスシー(大阪市)を子会社化(9.億円)

 

 

日高 広太郎

株式会社ストライク 執行役員 広報部長

 

 

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