東京市場では、保険株の下落が特に目立ちます。金利低下、新型コロナウイルスに関連した保険金支払いの増加といったところが懸念材料として挙げられているようですが、どうなのでしょうか。

米ドル円の下落は「米ドル売り」の要因が大きい

為替のマーケットで米ドル円が下落しています。テレビのニュースなどでは、「投資家のリスク回避の様相が強まり、比較的安全とされる円が買われている」といった解説がなされています。

 

これは間違いではないのですが、正確にとらえているかと言われれば、そうでもないような気がします。

 

FRBの利下げ後に米ドル円はさらに下落した
FRBの利下げ後に米ドル円はさらに下落した

 

正しく言えば、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度)が利下げを決めた→米国の金利が低下した→日米の金利差が縮小した→米ドルの魅力が薄れて売られた、となります。為替の値動きはわかりにくいもので、「米ドル円が下落した」といっても、(1)米ドルが売られた、(2)円が買われた、の2つの要因のどちらか、もしくは両方でなければなりません。

 

この点では、今回の米ドル円の下落は(1)の要因でしょう。「比較的安全とされる円が買われている」ケースも多少あるのでしょうが、新型コロナウイルスの震源地である中国に近いという「地政学リスク」を抱え、実際のところ、新型コロナの感染者数がそれなりにいて、自粛ムードで経済が減速に向かいつつある日本の円は、選好的に資金が向かうというより、むしろ敬遠されがちです。

東京市場では保険株の下落が特に目立つ

日本の株式市場をみてみましょう。すべての業種、銘柄で株価が下落していますが、下げが特にきつい業種の1つが、保険株です。損害保険大手3社(東京海上ホールディングス、SOMPOホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス)の株価は、かなりひどい状況です。

 

東京海上HDの日足チャート 【提供:楽天証券マーケットスピードⅡ】
東京海上HDの日足チャート
【提供:楽天証券マーケットスピードⅡ】

 

先の為替の話において「米国金利」に着目しましたが、この保険株も「米国金利」の動向に振らされるものの代表格です。メディアなどで、国内の生損保各社は外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加し、下落すれば運用益が減るといった解説が聞かれます。

 

2011年3月11日に東日本大震災が発生し、為替相場で円が全面高になったことがありました。多くの方は、日本でネガティブな材料が浮上したのだから、日本売りの円売りで、円安ではと思うかもしれません。しかし、実際の値動きは円高でした。

 

これは、生損保各社の保険金支払いが増える→そのために保険会社が海外資産(株、債券、不動産)を売る→外貨を売って円に変えてくる→円高が進む、といった思惑が働いたためとされます。

 

この説明が正しかったのかどうか、実際のところはわかりません。ただ、日本の生損保各社が米国で債券(国債や公社債など)を多く保有しており、その資金移動やポジションの動きによって、為替相場も変動するということは、金融関係者によく知られた話です。

新型コロナは日本の保険会社にどう影響してくるか

生損保各社に関して、足もとで多くの方が懸念していることの1つが、「新型コロナウイルスが、業績にどう影響するか」でしょう。

 

上記の金利リスクは、もちろんあると考えられます。ただ、2011年の当時と比べると、為替の値動きに対する手当て(ヘッジ)はだいぶ進んでいると考えられ、突発的な事象に対する対応力も高まっているとみられます。

 

最大の懸念は「保険金の支払いがどのぐらいになるのか」でしょうが、疫病、戦争などは対象外であるため、新型コロナを理由にした保険金支払いは限定的と見てよいと考えられます。仮に支払いがあっても、再保険というスキームがあるため、支払いが急増するというリスクは考慮しなくてよいと思われます。

 

同様に、ここにきてコンサートなどのイベント中止が相次いでいますが、こちらも、興行中止保険は疫病、感染病は対象外というものがほとんどであるため、影響は限定的となりそうです。

 

日本の生損保各社は、財務が健全です。新型コロナの騒動以降、株価のボラティリティ(変動幅)が大きく、手掛けづらいのは確かですが、実力以上に割安な株価水準になっていると言えそうです。落ち着いてきたときに、買いを考えてよいと思います。

 

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