家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは「課税の公平性」という観点から、節税方法の注意点について見ていきます。※本記事は、セブンセンスグループの井本壮一郎税理士、元国税調査官の松嶋洋税理士の書き下ろしによるものです。

合法手段を否定し追加徴税した、国税の「後出し」権限

近年最も驚かされた相続税の税務調査のひとつに、賃貸不動産を使った相続税の王道中の王道の節税が国税から否認された事例があります。

 

相続税の節税として、低く評価される賃貸不動産を借金で購入することが挙げられます。例えば、1億円借金してその1億円で投資用マンションを購入した場合、相続税の計算で控除できる借金は1億円ですが、相続財産として課税される投資用マンションは、8000万円程度で評価されます。このスキームはどの節税本にも書いてある王道中の王道です。

 

このような、だれもがやっている節税を国税がけしからんとし、その国税の指導を東京地裁が合法としたのがこの事例で、日本経済新聞などでも特集され、大きなニュースとなりました。

 

この節税は王道中の王道ですから本来は合法ですが、このような合法的なものでも、安易な節税につながるものであれば、課税できるという権限が国税にはあります。この権限が、総則6項と言われるものです。

 

相続税の対象になる相続財産の評価は、国税が独自に決めた財産評価基本通達というルールによって評価されることになっています。この総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。

 

要約すると、安直な節税をして評価を下げるなど、「著しく不適当」な事情があれば、自分たちが決めたルールを無視して、独自に評価して問題ないというものです。となると、ルールを後日変えることができる訳ですから、いわば後出しじゃんけんなのです。

 

こんな後出しじゃんけんにより、追加で税金を納めさせられるのはたまったものではありません。しかし、困ったことに、この国税の権限について、裁判所も問題ないと判断するのがほとんどです。

 

となれば、「著しく不適当」とは何を意味するか問題になりますが、従来言われていたのは、余命宣告をされているような方が、直前に投資用マンションを購入するようなケースです。普通に考えて、余命宣告を受けるような方が、回収に時間がかかる不動産投資はしないはずで、となると相続税を少なくするためだけに、合理性のない取引を行っていると判断できるからです。

 

とりわけ、相続の直前に賃貸不動産を買って、相続の直後に売却するようなケースについては、相続税のメリットだけを狙っていると見ることができますので、「著しく不適当」と判断されることが極めて多いため注意が必要です。

 

本来ならば、購入時期は「著しく不適当」に該当しない

話を戻しますが、この税務調査の事例は、相続開始の直前ではなく、相続が開始する2、3年前に賃貸不動産を購入したものなのです。相続までにこのくらいのタイムラグがあれば、安易な相続税の節税と見るのは無理があります。

 

中には、相続直前に買っていなくても、相続が開始してすぐ(この事例では9ヵ月後)に売却したのがよくない、と指摘される専門家がいます。相続税の納税のために、早いタイミングで売らざるを得ないことはありますから、売却のタイミングは本来大きな問題ではありません。このため、従来の傾向や本来の取扱いからすれば、「著しく不適当」とまでは言えないと考えられます。

原因は「課税の公平性に問題あり」と思わせる証拠

ところで、この事例で、東京地裁は国税を勝たせていますが、その理由として大きくふたつの事情があると考えられています。

 

1. 賃貸不動産の購入だけでなく、小規模宅地の特例などその他の節税スキームを駆使した結果、相続人の納税額がゼロであったこと


2. 銀行の融資の稟議書に、節税目的で賃貸不動産を購入する目的があることが明記されていたこと

 

裁判所の判決は、裁判官の心証で決まることが多いですが、上記のような事情があると、行き過ぎた節税をしており、課税の公平から問題があるから国税が正しい、と判断する可能性が大きいと言えます。加えて、国税としても、このような露骨な証拠があると課税しやすいです。合法だから、だれもがやっているから、という理屈だけでは、国税に通用しないでしょう。

 

以上を踏まえた場合、上記1のような露骨すぎる節税は差し控えた方がいいということになりそうです。税法で決まっている以上の税額を納める必要はないのですが、総則6項のような横暴な制度がありますので、慎重な対応が必要になるでしょう。

 

加えて、上記の2に関連してですが、国税対策を考えるうえで、銀行などの金融機関との折衝は要注意です。国税には納税者の取引先を調査する反面調査の権限が認められていますが、金融機関も当然対象になるからです。金融機関は後日のトラブルなどに備えて、しっかりと記録を残す組織ですので、国税が事実確認をするのに、最も適した機関です。実際のところ、金融機関を調査されて自分に不利な証拠をつかまれた、という調査事例も多いですから、金融機関に提出する書類や、金融機関との打ち合わせの内容などにも注意する必要があります。

 

いずれにしても、最終的には税務署との折衝で課税が決まるので、税務調査で国税としっかりと交渉することが重要になります。税務調査と聞くと怖い思いをされる方も多いと思いますが、税務調査を乗り切るためのテクニックはいろいろありますので、こちらも勉強しておくべきでしょう。
 

 

セブンセンスグループ

 

井本 壮一郎

セブンセンス税理士法人

代表パートナー・税理士

 

松嶋 洋

元国税調査官・税理士

 

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