不動産投資や賃貸経営において、目先の利益や断片的な情報に振り回され、適切な投資判断やシミュレーションなどの分析ができない人が失敗するケースが多く見られます。本記事では、ベストプラン株式会社代表取締役・豊田剛士氏の著書、『徹底分析! 不動産投資・賃貸経営の成功戦略』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集し、数字等を分析しながら、不動産投資で行う資産形成を成功させるための基礎知識を解説します。

目的とプロセスを混同してはいけない

不動産投資、賃貸経営は、資産形成のための投資であったり、事業として行うものだと思います。業として行う場合でも、売上を上げるというのは、資産を形成するためのプロセスです。ここで質問です。

 

①資産形成の〝資産〟とは何ですか?

②資産の〝単位〟は何ですか?

 

この問いに答えられる方は、不動産投資を既に始めている方、不動産を販売したり仲介している方でも少ないのではないでしょうか。

 

不動産投資、賃貸経営をすること自体は目的ではなく、資産を形成するという目標のための手段です。その資産の定義がしっかりとできていないケースが多いのです。例えばマラソンの場合、目標であるゴール地点だけでなくゴールまでの距離、ルート、ペース配分、自分の実力などが分からないのに、いきなりプロのレースに出るようなものです。マラソンのゴール=資産の定義(目標)をしっかりと確認し、資産を殖やすにはどうすれば良いのか、その手段として不動産はなぜ有効なのかということを理解しましょう。

 

そのためには、財務諸表を知る必要があります。財務諸表と聞くと難しく感じる方がいるかもしれません。ここで紹介する内容は税理士や会計士、経理担当者になるためではなく、あくまで経営者や投資家として必要な財務諸表の読み方、考え方です。専門家になる必要はありませんが、ルールを知らずにプロの世界に飛び込むようなことにならないよう基本を押さえていきましょう。

 

資産形成を体系的に考えるために必要な財務諸表は、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフローです。個人も法人も基本的に考え方は一緒ですが、分析をするのに法人の指標のほうが応用が利くので、主に個人ではなく法人の考え方で解説していきます(キャッシュフローに関しては法人のキャッシュフロー計算書ではなく、不動産投資に必要なキャッシュフローの考え方です)。所得税に関しては、個人についても記載していますので、あわせてご確認ください。

 

損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフローが分かることでできる分析があります。また、資産をポートフォリオで考えたり、複数の不動産や多種類の投資を考える時には、資産全体が見えている必要があります。損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフローを押さえて、資産を見える化し、分析できるようになりましょう。

 

時の経過に対して、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー、貸借対照表(B/S)が何を表しているのかのイメージが[図表1]になります。損益計算書(P/L)、キャッシュフローは、一期間の指標で、収入から支出を引いて資産にプラスされるのかマイナスされるのかというお金の流れです。貸借対照表(B/S)は一時点の指標で、資産の額がいくらあるのかを表しています。その瞬間に財布にいくらあるのかを見るようなものです。

 

[図表1]
[図表1]

 

不動産投資を行っていてよく「キャッシュフローを得ることが不動産投資を行う目的」という方がいますが、このように図で見ていただくと、キャッシュフローはあくまで資産の一時点から一時点までの間の殖える(または減る)プロセスであることが分かります。キャッシュフローは目的ではなく、目的達成のためのプロセスであるということを理解しないと、木を見て森を見ずという状況になる場合もあるので注意しましょう。

損益計算書(P/L)の目的は「法人税の算出」と考える

損益計算書(P/L:profit and loss statement)は、一期間の収入から費用を引いて、利益(または損失)を算出し、所得税を計算するものです。法人の場合は決算書とよばれる財務諸表の中の一つで、個人の場合は確定申告がそれにあたります。

 

所得税の計算方法は後の項でご紹介しますが、ここでは経営者として、投資家として、知るべき分析を分かりやすくするために損益計算書(P/L)をご紹介します。損益計算書(P/L)と確定申告は計算過程の項目は違いますが、根本的な考え方は同じと考えてください。

 

不動産業の場合、家賃収入を得ることに対して、その都度商品を仕入れたり、製品を製造したりしている訳ではないので売上原価はありません。そのため、家賃収入=売上であり、売上総利益です。「不動産を購入したり、建物を建築して、家賃収入を得るのだから不動産の購入が仕入では」と思う方もいるかもしれませんが、不動産は貸借対照表(B/S)に計上しますので原価にはあたりません。

 

次に、販売費及び一般管理費です。不動産の賃貸経営の場合、不動産会社に支払う管理料、固定資産税、火災保険、現状回復に伴う修繕費、減価償却、水道光熱費、広告宣伝費、など運営するうえでのランニングコストが該当します。

 

営業外収益は、敷金や保証金などの預り金を金融機関に預けて得る受取利息などです。営業外費用は、不動産を購入したり、建物を建築した際の借入の利息などがあたります。

 

特別利益と特別損失ですが、特別利益が出るケースはあまりなく、特別損失は保有している不動産が、買った金額から減価償却の累計した額を引いた額から大きく価値が下がった場合に特別損失として計上する場合があります。

 

損益計算書(P/L)は一定期間の収入から費用を引いて利益を出すものですが、作る目的としては法人税(個人の確定申告の場合は所得税)を算出することが目的と考えると良いでしょう。以下の[図表2]のようにビジュアルで捉えていただくと直感的に捉えやすくなります。

 

[図表2]
[図表2]

 

一番左の箱が売上の数字を形にしたものだと思ってください。一番大きな売上の箱の中から、売上原価の箱を引くと、売上総利益の箱になり、売上総利益の箱から販売費及び一般管理費の箱を引くと営業利益の箱になるというイメージです。

 

点線の箱に書いてある項目が現実にお金の出入りのあるもので、当期純利益までの売上以外の実線の箱は、実際に発生したお金の差し引きをした計算結果です。

 

このように視覚的に捉えると「どこの結果を改善したいので、その場合に改善できる箱はこれとこれしかない」というような具体的な項目が見えてきます。

徹底分析!不動産投資・賃貸経営の成功戦略

徹底分析!不動産投資・賃貸経営の成功戦略

豊田 剛士

合同フォレスト

不動産の基礎、購入から売却、ポートフォリオの考え方までこれ1冊で!不動産投資、賃貸経営を体系的に行うために必要な知識。

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