2020年に開催迫るオリンピックや万博への期待から、東京・大阪の地価高騰が続いている。それに伴い上昇する物件価格の高騰に、賃料相場は対応しきれず、大都市圏の不動産投資利回りはジワジワと低下傾向にある。そんななか、一人勝ちの状況となっているのが京都である。本記事では、京都不動産の建築規制について見ていく。

京都物件の資産価値を保つ「厳しい規制」

京都の建築物には、美しい街並みを保全するために非常に厳しい建築規制が設けられています。

 

京都市の観光地ブランド戦略に最も重要といわれているのが、2007年から実施されている「新景観政策」です。

 

京都市は、観光都市としてのブランド戦略の一環として、この歴史ある京都市の優れた景観を「守り、育て、50年後・100年後の未来へと引き継いでいく」という理念のもとに、建物の高さやデザイン、屋外広告物などを厳しく規制しています。これは「努力目標」ではなく、「町並みと不調和であれば建築済みでも撤去もある」という、徹底した「規制」です。

 

眺望規制

 

これまで紹介してきた条例に加え、さらに特殊な規制として京都には「眺望規制」というものが存在します。京都の夏の風物詩といえば「大文字(だいもんじ)(五山送り火)」です。最も有名な東山如意ケ嶽の「大」のほかに、金閣寺付近の大北山の「大」、松ケ崎西山と東山の「妙法」、西賀茂船山の「船形」及び上嵯峨仙翁寺山の「鳥居形」があり、炎で描かれた文字や船、鳥居が夏の夜空に浮かび上がります。

 

五山送り火の起源については平安時代や江戸時代など諸説ありますが、京都で暮らす人たちにとって、なくてはならない景色の一つです。京都ではこの大文字をはじめとする数々の史跡や神社仏閣の景観を守るために「眺望景観保全地域」というものが定められており、高さや意匠、色彩などに厳しい規制が設けられています。

 

例えば高さであれば、ただ漠然と「大文字の景観を邪魔しない高さ」というわけではなく、京都市内に7カ所ある「視点場」という観測ポイントからは絶対に大文字が見えなくてはいけない、という厳しい規制になっているのです。

 

そのため、視点場付近の風景(近景デザイン、少し離れると遠景デザインという)を妨げるような高さのものは建てられません。大文字以外にも視点場は31カ所あり、保護対象が神社仏閣の場合は周囲の建築物に対し、本殿や境内樹木を越えることを禁じたり、勾配屋根を義務化したりと、特別な規制を定めています。

 

例えば、先ほど説明した中心部の「田の字地区」では、本来31mまでであれば建設できるはずですが、この視点場による規制のために二層しか建てられない、あるいは少しでも抵触する部分があれば設計を変更する必要が出てきます。

 

京都は山に囲まれた盆地なので、北に行くほど標高が高く、南に行くほど標高が低い地形になっています。従って、北に行けば行くほど高い建物は建てられないということになります。

 

[図表1]眺望景観保全の高さ規制ラインのイメージ

 

デザイン制限

 

さらにデザインについても細かい制限があります。例えば、「川床」と呼ばれる桟敷が並ぶ鴨川近辺は美観形成地区に面しているため、洋風デザインの建物は認められません。

 

以前に私が関わったマンション開発では、「岸辺型」に該当したため、軒を60㎝以上出すよう求められました。通常、都市部のマンションなどでは、感覚的には軒を出さないよう指導されそうですが、京都の場合は逆に日本的な景観を守るために1、2階には60㎝以上の軒が必要なのです。

 

また、外壁色も「歴史的町並みと調和する色彩」として具体的な色の指定があり、彩度(色の鮮やかさを段階的に分けて度数表示したもの)についても「2」を超えるものや、Y系(黄色系)の彩度が4を越えるものは認められない、などの基準があります。

 

このようなデザインや色以外でも、屋根は10対3の傾斜をつけた勾配屋根とされ、傾斜のない平面状の陸屋根は認められません。高さ規制を受けながら勾配屋根をつけるということは、傾斜がついた分の空間は無駄になってしまいます。

 

さらに住宅では、瓦は日本瓦・銅板を基本とし、外壁にも素材・色彩の規定があります。図表3の鴨川通の物件は、「岸辺型」のデザイン制限を工夫しながらクリアした形になっています。
 

[図表2]京都のデザイン規制

 

 

[図表3]京都市の規制の例

 

◆屋外広告物条例

 

なお、このようなデザイン規制は住宅だけではありません。京都市では1956年から屋外広告物条例を制定し、商店の看板などに一定の規制を設けています。

 

規制の内容は、「広告の“地”の部分は白地を原則とし、周囲の景観との調和を配慮する」「特に、赤・黄色を下地に用いる場合は、これらの色と補色関係にある色の使用を避ける」といったもので、全国展開している有名チェーン店であっても、京都では看板が独自のデザインに変更されています。

 

一例を挙げれば、あの赤と黄色でお馴染みのマクドナルドの看板も、京都では赤の部分が黒やこげ茶、黄色も鮮やかさを落としたシックな色味になっている店舗が多く、なかには外壁にロゴ文字だけといった店舗や、瓦屋根、竹垣などで外観を和風にして周囲との調和を図っている店舗もあります。

新規開発が難しい京都…「長期視点」が投資成功のカギ

このように、京都には世界的に有名な観光都市として、美しい街並みを維持するために非常に厳しい規制が存在しています。それ故に、住宅地としての価値も生まれているのですが、新規のマンション開発は他都市のように簡単にはいきません。

 

私は開発業者として、京都で開発を行うことの厳しさを日々痛感し、少々恨めしく思っている部分もあります。しかし、何も制限せず自由に建築を認めてしまうと、京都は京都らしさを失い、結局はどこにでもある都市と変わらない普通の街になってしまうでしょう。

 

独自路線で京都ブランドを守っていきたい、伝統を守っていきたい。そのような強い想いを持ち、目先の利益よりも恒久の美観を選び厳密な規制をしてきたからこそ、京都は古の風情を残した憧れの都市であり続けているのです。

 

東京、大阪などの大都市圏で高さ50m、60mものビルが建てられる土地は、高価格で売買されています。多くの床面積を確保できれば、販売戸数や賃料収入が増え、収益性が高くなるからです。

 

しかし、これにはデメリットも存在します。投資の観点からいけば、戸数の多いマンションが集中すれば供給過剰となり、その地域にある一室の価値は下落していくのです。さらに、今後日本の人口減少が進めば、賃貸ニーズの少ない地域では空室が増え、家賃の値下げ競争が起こり、急激に収益性が悪化していく可能性もあります。

 

一方、京都では、厳しい建築規制があるおかげで、ほかの地域のように急激な開発が進み、100戸レベルの大規模マンションが次々と建つということはありません。それどころか景観を守るための建築規制は年々強化されているので、採算に合うような規格の集合住宅が建てられず、途中で計画がストップしてしまう業者もしばしばです。

 

従って、旺盛な需要があるにもかかわらず供給は不足しており、需給のアンバランスは年々大きくなっています。これは裏を返せば、厳しい規制のなかで供給されるマンションは、一戸一戸の希少性が高く、家賃収入も落ちにくいと言えるのです。厳しい景観条例に守られた京都は、これからもその魅力を恒久的に保ち、求心力を失わないでしょう。

 

しかし、物件の供給は依然として限られると予測されるため、マンションの資産価値は落ちず、希少性が増すと考えられます。京都不動産のオーナーには「自分のマンションは京都市に資産価値を守られていて安心だ」と考えている方が多くいるのも、こうした理由からです。

 

京都市は「50年後、100年後の京都の将来を見据えた都市景観作りを行う」と宣言しています。この規制のなかで新築マンションを供給する側としては、建てて終わりではなく、同様に50年、100年先を見据えたマンション開発を考えるようになります。

 

不動産投資は購入してから売却するまで、どれだけ高水準の家賃収入を長期にわたって維持できるかが成否を分けます。京都の不動産は厳しい規制をくぐり抜けたうえで建てられた物件なので、ある意味、行政と開発者側から事前にそのチェックを受けていると言っても過言ではありません。

 

ここまで、京都の少々特殊な地域性と建築制限について紹介してきました。学生や単身者世帯が多く賃貸物件需要の大きい京都で、なぜ、こんなにも新規物件の供給が少ないのかが理解できたのではないでしょうか。

 

しかし、「空室リスク」「賃料下落リスク」が極端に少なく、資産価値も保たれやすい、魅力的な投資先である一方、投資家の皆さんにとって、一つだけデメリットがあります。それは、物件の絶対数が少ないことで他都市よりも希少性が高いこと、つまり、いい物件を手に入れにくいという点です。

 

誰も知らない京都不動産投資の魅力 改訂版

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八尾 浩之

幻冬舎メディアコンサルティング

物件と街の魅力の相乗効果で資産価値を高める京都不動産投資の魅力を徹底解説! 大反響を呼んだ話題書が更に充実した内容で再登場観光、文化、技術の発信地として国内外から注目を集める京都。 とくに近年では、インバウン…

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