平成27年度税制改正により、提出が義務化された「財産債務調書」。本調書を提出せずに申告もれがあった場合、ペナルティを負わされることになるが、期限内に提出していれば過少申告加算税等が軽減されるメリットも。本記事では、財産債務調書の概要と活用法を解説する。

所有資産・負債を「財産債務調書」に記載

「財産債務調書」という書類をご存じでしょうか。高所得者が、自身が所有する資産と負債について、種類別にその金額と数量を記載し、税務署に提出する法定調書です。

 

以前にも「財産及び債務の明細書」という名前で同様の書類がありましたが、平成27年の税制改正で現在の「財産債務調書」に名称が改められ、提出が義務化されました。

 

義務化といっても、提出しないこと自体には罰則はありません。ただし、その後の所得税や相続税の申告において、財産等の申告もれがあった場合を除きます。調書を提出しなかった場合や、調書にその財産等を記載しなかった場合には、過少申告加算税等(ペナルティ)が5%が上乗せされることになっています。対して、提出した調書にその財産等を記載していた場合には、過少申告加算税等が5%軽減されます。

 

◆提出義務者と提出期限


「財産債務調書」の提出義務があるのは、次の①所得による基準、②財産による基準の両方を満たす場合です。


①所得による基準


確定申告書を提出する必要があり、その年分の退職所得を除く、各種所得金額の合計額が2,000万円を超える場合に該当します。特別な所得がない場合は、確定申告書の所得金額の欄の合計金額で判断することもできます。

 

注1)
●源泉分離課税の所得で申告不要を選択したものは含まれません。
●不動産の譲渡があった年には一時的に要件を満たすことがあります。
●申告分離課税については、特別控除後の所得金額を合算し、繰越控除を受けている場合には、その適用後の金額となります。

 

②財産による基準


その年の12月31日において、国内及び国外財産の合計額が3億円以上、または国外転出特例対象財産(有価証券や未決済のデリバティブなど、国外に転出する際に含み益を認識して課税する財産)の合計額が1億円以上である場合です。


財産の合計額は、その年の12月31日の時価を基準としますが、時価の把握が難しい財産については、より簡便な方法で算定することも認められています。例えば、土地や建物は固定資産税評価額を記載することもでき、取得価額が100万円未満の家庭用財産は調書への記載を要しません。


注2)
●財産の合計額は、負債を差し引かない総額で判定します。
●申告不要の口座も対象となり、非課税口座(NISA)内の有価証券やストックオプションの対象となる株式の価額、仮想通貨も対象となります。
●国外財産調書に記載した財産については、その記載した国外財産の合計額及びそのうちの国外転出特例対象財産の合計額を記載します。

 

財産債務調書の提出期限は、確定申告書の提出期限と同じ、その年の翌年の3月15日となっています。ただ、期限後に財産債務調書を提出した場合であっても、期限内に申告したものとして扱われ、上記ペナルティの5%軽減を受けられる場合がありますので、昨年に提出を忘れてしまった方も、今から提出をしてみてはいかがでしょうか。

 

財産債務調書の提出期限は、確定申告書と同じ
財産債務調書の提出期限は、確定申告書と同じ

「財産債務調書」を提出するメリットは?

◆財産債務調書提出の利点と積極的な活用方法

 

財産債務調書制度の趣旨は「所得税・相続税申告の適正性を確保すること(国税庁)」とされていますが、自身の財産や債務を税務署や国に対して報告するというのには、抵抗を感じる方も多いことでしょう。

 

しかし、現時点では法律により義務化された制度となっていますので、財産債務調書の利点を考え、より積極的に活用できる方法を考えたいと思います。

 

財産債務調書に記載した財産・債務については、その後の所得税や相続税の申告書に記載もれが生じても、過少申告加算税等(ペナルティ)が5%軽減されることは前述したとおりです。

 

所得税や相続税の申告において、満期保険金や保険契約に関する権利の申告がもれてしまい、後日修正申告をして税金を追加納付したという事例が散見されます。故意に財産を隠す意図がなくても、臨時的な所得や亡くなった方の財産(権利)について、申告書への記載を忘れてしまうのは考えられることです。

 

このような場合、これらの契約について、財産債務調書に「保険に関する権利の価額」「定期金に関する権利の価額」として解約返戻金の額等を記載していれば、申告もれに対するペナルティが5%軽減されるわけです。そもそも、調書をきちんと作成していれば、申告もれ自体が起こらないかもしれません。

 

また、財産債務調書の提出を通じて、自身が所有する財産の種類や評価額について把握することができ、それが相続対策を行うための基礎資料の一つとなることも、利点であると考えます。

 

相続対策は、遺産分割の方法や納税資金対策、節税対策など多岐にわたり、一朝一夕にできるものではありません。毎年決まった時期に、所有財産について棚卸することで、総括的に、かつタイミングを逃さずに相続対策ができる可能性が高まり、親族と相続について話をするきっかけにもなりそうです。

 

来年の確定申告において、自身が「財産債務調書」の提出義務者になるかどうかを確認しましょう。また既に義務がある場合は、調書をより活用できる内容にするために、時間に余裕のある今のうちから少しずつ準備をしてみてはいかがでしょうか。

 

 

古沢 暢子
税理士法人田尻会計 税理士

 

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