あおり運転や高齢運転者による交通事故など、クルマの「運転トラブル」にまつわるニューストピックが取り上げられことが多くなっている。これらを目にするたびに、日本国内のクルマ、道路事情が悪くなり、モラルも低下している印象を受けるが、実際はまったく逆である。

先進国の中でも特に厳しい飲酒運転の取り締まり

日本の交通事故件数と交通事故死亡者数は減少し続けている。

 

特に交通事故死者数は、昭和45年の16765名をピークに、平成30年には3532名まで激減している(警視庁)。長い時間をかけて交通インフラ(道路の整備等)、昨今の高度安全運転支援システム等、自動車においては各社安全設計・装備の充実、さらには飲酒運転などの悪質なドライバーの取り締まり強化等、これらは官民あげての複合的な取り組みによるたまものである。

 

今後、完全自動運転が実用化され、本格的に普及していけば、死亡を含む交通事故は、さらに減少していくものと思われる。

 

モーターリーゼーション黎明期、そして暴走族や走り屋の時代、「交通戦争」とよばれた時代を経て、運転者のモラルも確実に上がっている。例えばシートベルトの装着率は現在94%に達している。確かに、10年程度前と比較しても、最近シートベルトをしていないドライバーをほとんど見かけない。未装着であれば警告音が鳴るなど、半ば強制的に装着せざるを得ない、クルマの安全装備の成果のひとつであろう(ちなみに交通事故死の4割はシートベルト未着用である)。

 

さらにいえば交通違反取り締まりの強化も事故減少の大きな要因である。日本は飲酒運転の取り締まりは、先進国の中でも特に厳しいことで知られている。それは日本の交通事故の原因のうち飲酒関連のものは6.2%、33カ国中、3番目に低い数値となってあらわれている(WHO、世界保健機関)。

 

まさに交通安全先進国といっても過言ではない現状。事故件数は減少し、運転者のモラルは向上している中、ではなぜ「あおり運転」、「高齢運転者の事故」、この二つについて近年突出して取り上げられるのであろうか。増えている、あるいは増えている印象、どちらなのか。

 

75歳以上のドライバーの交通事故割合は増えているが…

あおり運転でいえば、一般的にはドライブレコーダー、そしてSNSの普及化により、もともとあったものが可視化されたゆえ、ともいわれているがどうなのか。

 

道路交通法には前方のクルマとは適正な距離を保つべきであるという「車間距離保持義務」というものが定めれている。車間距離を詰める危険な運転をしていると、規定違反、すなわち「あおり運転」であると認定される。

 

実際昔からあおり運転は存在し、前述の「車間距離保持義務」違反の摘発件数でいえば1985年に5867件、2001年には7794件となっている。しかし、2017年に7133件だったものが、2018年13025件と一気に増加している(警察庁)。

 

これは、2017年6月に発生した東名高速道路の死亡事故をきっかけに、警察庁が各都道府県公安委員会に「あおり運転等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処」について通達。全国的に取り締まりが強化されたことが、摘発件数増加の要因の一つであると考えられる。これだけを見て、激増しているかどうかの判断は微妙だ。

 

では一方、全体の交通事故死者数に占める高齢者の割合はどうだろう。75歳以上のドライバーが過失の“最も重い”「第一当事者」となった事故は、交通事故全体の割合の14.8%を占め、過去最高の割合になっている(ちなみに2008年は8.2%である)。

 

しかし、割合が上がっているだけで、その件数自体は400~470件前後とほぼ横ばいに推移しており、実は激増という印象ではない。ただ、75歳以上の運転者の死亡事故件数は,75歳未満の運転者と比較して,免許人口10万人当たりの件数に関しては、2倍以上多く発生しているのは事実である(警察庁2018年)。

 

これらデータにより、一見増えているように見えるが、前述の通り「老人の運転=事故を起こしやすくなっている」と捉えると見誤る。

 

さらにいえば、75歳以上のいわゆる「後期高齢者」とよばれる人口は、この10年で約1.4倍にも増加し、総人口における割合も13.8%を占めている(総務省統計局2018年)。一時期、高齢者の返納も話題になったが、後期高齢者の運転免許保有に関しても人口割合増にともない、全体の6.6%と10年で約1.9倍(警察庁2018年)とこちらも増加している。

 

冷静にデータを見ればつまり、交通事故の全体の件数自体は減っているものの、運転者の後期高齢者の割合が増えたゆえ、「事故に遭遇する確率」が微増しているということではないだろうか。

 

確かにドライバーの加齢により、操作や判断・予測、認知、それぞれに反応は遅くなり、とっさの事態に不適切な選択を取ってしまう傾向にあるのもまた事実である。例えば、ブレーキとアクセルの踏み間違いを原因とする死亡事故は75歳未満運転者と比較して高い水準ことでもそれは伺える。

 

このような事態に対して政府は「世界一安全な道路交通を実現する」という宣言し、高齢者も含めた交通事故死者数を年間2500人以下にする目標を掲げて本気で取り組んでいる。例えば、経済産業省は、高齢者向けに自動ブレーキなどの先進安全技術を備えたクルマ「安全運転サポート車(通称サポカー)」の普及啓発等を積極的に行っているという具合にだ。

 

「ドライバーがとっさに対応できない場合、自律自動ブレーキが作動する『衝突被害軽減ブレーキ』。そして高齢者の事故原因で一番多いとされるアクセルとブレーキのペダル踏み間違いに対応した『踏み間違い時加速抑制装置』等の自動ブレーキに関する技術は各メーカでしのぎが削られ、ここ数年の技術革新はスゴイことになっています。もちろん過信は禁物で、まだ完全とは言い難く、基本的には人間の判断が基本です。しかし、ちょっとした運転ミスは、もはやクルマ側の判断でフォローされるイメージです。

 

その他の安全装備に関しても、例えば今日本で一番売れているN-BOXには、ホンダが提供する安全運転支援システム『Honda SENSING』が、すべてのグレードに搭載されていますし。数年前のクルマと比較しても『事故を起こしにくくなっている』ことは確か。今後5G時代が到来し、自動運転がますます本格的になれば、『交通事故ゼロ』の未来は夢物語ではなくなる、とこの1、2年で確信的に思うようになりました」(業界誌記者)

 

日本国内で「運転して事故に遭遇するリスク」は以前と比較して、確実に減っている。しかし、痛ましい事故がある度に、確かに人は感情に左右され、物事を判断しがちになる。ニュースやワイドショーでも、必要以上にセンセーショナルに取り上げられ、それゆえに、悪質ドライバーや事故が増加している印象になっているかもしれない。人々の努力によって、交通事故数が年々減少傾向にある事実には目を向けたい。

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