相続税法が大幅に改正され、富裕層の払う税金とされていた相続税が、一般家庭にまで影響を及ぼす税金へと変わりました。そこで本記事では、相続税を少しでも軽減する策としての「生前贈与」の方法を、税理士法人中央会計の辛島政勇氏が解説します。

「暦年課税」「相続時精算課税」制度を使って税金対策

(1)贈与税とは

 

贈与税とは、生存する個人の財産を無償で譲渡されたときに発生する税金です。贈与と一口にいっても、税金のかからない非課税財産もあります。また、贈与税を計算するうえで暦年課税方式と相続時精算課税方式の2種類から選ぶことができます。

 

事前に贈与税と相続税の仕組みを理解することで、無駄な税金の支払いを減らすことが可能です。

 

<代表的な非課税財産> 

●法人からの贈与により取得した財産(給与所得 or 一時所得として所得税が課税されます)

●扶養義務者間での生活費及び教育費等のために取得した財産で、通常必要と認められるもの

●宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の者が取得した財産で、その公益を目的とする事業に使われることが確実なもの

●公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し取得した金品その他の財産上の利益で、公職選挙法の規定による報告がなされたもの

●社会通念上相当と認められる香典等

●特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権(条件があります)

 

※詳しくは国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」をご覧ください

 

(2)暦年課税

 

2-1 概要

 

1月1日~12月31日までの1年間にもらった財産の合計額より贈与税を計算する方式です。基礎控除額(110万円)を差し引いた金額に税率を乗じた金額が贈与税となります。

 

<計算方法>

(贈与財産(時価)-110万円)×税率-控除額=贈与税

 

ただし、相続開始3年以内の贈与を受けた財産があるときには、被相続人から贈与を受けた分のみ相続財産とみなされ、相続税の計算対象になりますのでご注意ください。

 

複数人から贈与があった場合でも、控除額は変わりません。例を用いて説明します。

※詳しい税率は国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」をご覧ください

 

●1人から100万円の贈与があった場合(一般税率)

(100万円-110万円)×10%=0円

 

●1人から500万円贈与があった場合(一般税率)

(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円

 

●5人から100万円ずつ贈与があった場合(一般税率)

(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円

 

2-2 配偶者控除の特例

 

配偶者から居住用の不動産の贈与を受けた場合、特例として配偶者控除を受けることができ、基礎控除のほかに最高2,000万円までが控除されます。

 

ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦、かつ、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、贈与により取得した(または贈与を受けた金銭で取得した)居住用の不動産に、贈与を受けた人が実際に住んでおり、これからも住み続ける見込みがある場合に限りますので、注意してください。

 

●配偶者より2,000万円の土地贈与があった場合

(2,000万円-110万円-1,890万円)×10%-0万円=0円

 

●配偶者より2,500万円の土地贈与があった場合

(2,500万円-110万円-2,000万円)×20%-25万円=53万円

 

2-3 相続税の対策

 

暦年課税の場合、長い時間をかけることにより相続財産を減らすことができるため、相続税の軽減につながります。とはいっても、一度に多額の財産を贈与してしまうと、今度は贈与税がかかってきますので、それを考慮しつつ贈与していかなくてはなりません。

 

たとえば、

 

●相続財産が5,000万円

●相続人が2人

 

このような場合、平成27年1月1日以降の改正後では基礎控除が4,200万円《3,000万円+(600万円×2人)》となり、差し引いた800万円が相続税の対象となります。

 

この800万円以上を事前に贈与すれば、相続財産を基礎控除で控除しきれるため、相続税がかかりません。しかし、上記でも述べたように、相続開始3年以内に贈与を受けた財産は相続財産として加算されるので、注意が必要です。

 

もう1つ、孫への贈与という手もあります。相続人でない孫の場合、相続開始3年以内の贈与の縛りがなくなります。

 

贈与財産は、相続財産から切り離すことができるため、相続税がかかりそうな場合は早めに贈与していくことをオススメします。ただし、贈与者と受贈者とお互いの認識がないと贈与契約は成立しませんので、幼い子供等へ贈与する場合は、両親等が認識させて管理するようにしてください。

 

また、贈与税は税率が高いため、多大な贈与をしてしまうと逆に損することもあります。こちらも注意してください。

 

(3)相続時精算課税

 

3-1 概要

 

贈与を受けたときに、一律の税率で贈与税を納付し、贈与者が亡くなったときに相続税で精算するものです。つまり、相続時に相続財産のなかに贈与財産を含め相続税を計算し、そこから支払った贈与税を減額するというやり方です。

 

贈与財産は、2,500万円までは、特別控除額で控除しきれるので贈与税はかかりません。2,500万円を超える場合は、一律20%で贈与税を支払います。

 

この制度はだれでも使えるわけではなく、贈与者=60歳以上(贈与した年の1月1日において)の親または祖父母で、受贈者=20歳以上の子または孫である推定相続人の要件に該当する人が使うことができます。また、この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与は暦年課税に変更することができませんのでご注意ください。

 

<計算方法>

(贈与者Aからの前年までの贈与額+今年の贈与者Aからの贈与額-2,500万円)×20%=贈与税

 

●贈与者Aから1,000万円の贈与があった場合(1年目)

(1,000万円《1年目》-2,500万円《控除額》)×20%=0円

 

●贈与者Aから2,000万円の贈与があった場合(2年目)

(1,000万円《1年目》+2,000万円《2年目》-2,500万円《控除額》)×20%=100万円

 

●贈与者Aから1,000万円の贈与があった場合(3年目)

(3,000万円《前年までの総額》+1,000万円《3年目》-2,500万円《控除額》)×20%=300万円

 

3-2 相続税の対策

 

相続時精算課税という制度は、贈与財産が相続税の課税対象となってしまうため、一見税金対策にはならないように思えますが、使い方次第では有用な制度です。

 

たとえば、

 

●時価の上がる財債の贈与(相続時には贈与時の時価をもって計算されるため)

●収益性のある物件を贈与(早めに贈与することで、贈与者の収益を受贈者へ移転させ、被相続人の相続財産が増えることを防ぐ)

 

などのケースでは、効果的です。相続税はかからないけど多額の財産を一度に贈与する場合も、2,500万円までなら贈与税はかかりません。ただし、相続時精算課税を選択してしまうと暦年課税には変更できませんので注意してください。

住宅取得/教育等の資金贈与ではどちらの制度も使える

(4)どちらの制度でも使える特例

 

4-1 住宅取得等資金の特例

 

父母・祖父母など(以下、直系尊属)から、住宅取得等のための金銭の贈与を受けた場合、適用対象となる受贈者の、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であれば特例を受けることができます。非課税限度額は、家屋の種類や、契約締結日、消費税率によって異なります。

※詳しくは国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」をご覧ください

 

[図表1]住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の非課税限度額出所:国税庁ホームページより編集部作成
[図表2][図表1]以外の場合の非課税限度額出所:国税庁ホームページより編集部作成

 

<暦年課税の場合>

●省エネ等住宅で3,500万円の贈与があった場合(契約の締結日が2020年4月1日~2021年3月31日の間かつ消費税等の税率が10%でない場合)

(3,500万円-110万円-1,000万円)×50%-225万円=970万円

 

●省エネ等以外の住宅で3,500万円の贈与があった場合(契約の締結日が2020年4月1日~2021年3月31日の間かつ消費税等の税率が10%でない場合)

(3,500万円-110万円-500万円)×50%-225万円=1,220万円

 

<相続時精算課税の場合>

●省エネ等住宅で3,500万円の贈与があった場合(契約の締結日が2020年4月1日~2021年3月31日の間かつ消費税等の税率が10%でない場合)

(3,500万円-1,000万円-2,500万円)×20%=0円

 

●省エネ等以外の住宅で3,500万円の贈与があった場合(契約の締結日が2020年4月1日~2021年3月31日の間かつ消費税等の税率が10%でない場合)

(3,500万円-500万円-2,500万円)×20%=100万円

 

4-2 教育資金の一括贈与の特例

 

今のところ平成31年(2019年)3月31日までですが、受贈者が30歳未満で、直系尊属から教育資金に充てるための費用1,500万円までを贈与された場合、贈与税が非課税となります。

 

ただし、

 

●その直系尊属と信託会社との間の教育資金管理契約に基づき信託の受益権を取得した場合

●その直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭を教育資金管理契約に基づき銀行等の営業所等において預金若しくは貯金として預入をした場合

●教育資金管理契約に基づきその直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で証券会社の営業所等において有価証券を購入した場合

 

に限ります。受贈者が30歳以上になるか、教育資金管理契約に係る信託財産が0円になり、契約が終了した場合、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されます。

 

学校等以外に支払う金銭については500万円までが非課税ですが、教育(学習塾、そろばん等)、スポーツ(野球、水泳等)などの指導に対する費用や必要物品の購入費用など教育に必要と認められるものとなります。

※詳しくは国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」をご覧ください

 

<暦年課税の場合>

【信託財産が0円になった場合】

●その年の贈与が100万円で、教育資金以外に使用した収支が0円の場合

(100万円+0円-110万円)×10%-0万円=0円

 

●その年の贈与が100万円で、教育資金以外に使用した収支が300万円の場合

(100万円+300万円-110万円)×15%-10万円=33.5万円

 

【30歳になり、信託財産が100万円残っている場合】

●その年の贈与が100万円で、教育資金以外に使用した収支が0円の場合

(100万円+0円+100万円-110万円)×10%-0万円=9万円

 

●その年の贈与が100万円で、教育資金以外に使用した収支が300万円の場合

(100万円+300万円+100万円-110万円)×15%-10万円=48.5万円

 

<相続時精算課税の場合>

【信託財産が0円になった場合】

●贈与総額が2,500万円で、教育資金以外に使用した収支が0円の場合

(2,500万円+0円-2,500万円)×20%=0円

 

●贈与総額が2,500万円で、教育資金以外に使用した収支が100万円の場合

(2,500万円+100万円-2,500万円)×20%=20万円

 

【30歳になり、信託財産が100万円残っている場合】

●贈与総額が2,500万円で、教育資金以外に使用した収支が0円の場合

(2,500万円+0円+100万円-2,500万円)×20%=20万円

 

●贈与総額が2,500万円で、教育資金以外に使用した収支が100万円の場合

(2,500万円+100万円+100万円-2,500万円)×20%=40万円

 

◆まとめ◆

生前贈与は、将来の相続税を軽減するための対策の1つとして使えます。贈与税、相続税にもいろいろなパターンがあり、上記で記載してる内容は一例にしか過ぎません。

 

暦年課税、相続時精算課税、特例を上手に使うことにより、贈与税、相続税を節税することができますので、今後の状況を考え、自分にあった税金対策を考えてください。

 

 

辛島 政勇

中央会計株式会社/税理士法人中央会計 税理士

 

本記事は、『中央会計株式会社』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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