今回は、マカオのカジノに深くかかわる「ジャンケット」というビジネスを行う会社の債券投資で損失を被った事例を紹介します。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

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カジノで富裕層の世話を焼く、ジャンケットという仕事

普段は非常に高度な情報収集力を誇る企業オーナーや個人富裕層の方々も、投信・ビジネスの舞台が海外に移ったとたん、うっかりミスをしてしまうこともあるようです。

 

今回は、弊社で過去に扱った問題ある事例をベースに、海外での資産管理で起こりうる問題について解説します(取上げた事例は、元の案件を特定できないよう、弊社編集部で修正を加えたものです)。

 

いまや米国のラスベガスを抜き去り、世界一のカジノ都市となったマカオ。カジノ場には世界中の観光客が押し寄せ、常に多くの人でごった返しています。しかし、その片隅に目立たないようしつらえた扉があることに、たいていの人は気づきません。そして、その中には小ぶりながら、絢爛豪華なVIPルームがあることも・・・。扉の中に案内されるのは、ごく一部の富裕層だけなのです。

 

このようなVIPルームに富裕層の顧客を案内し、そこで使われた金額の一定割合をコミッションとして受けるのが「ジャンケット」といわれる人々です。ジャンケットは、マカオまでの航空券・ホテルの手配から、カジノをしている間の資金の手配まで行います。そして、貸した資金の取り立ても行います。

高利回りで知られるジャンケット会社の債券だが…

このように、富裕層がカジノで遊ぶ資金の手配まで行う関係上、ジャンケットは非常に多額の資金を要するビジネスであり、ジャンケット会社が債券を発行することがあります。かなり利回りがよく、年10%くらいと言われています。

 

ある日、弊社にAさんという方が訪れました。以前は実業家でしたが、事業はすでに売却し、現在は金融商品や不動産を中心にした投資で収入を得ています。

 

Aさんは普段から「海外には日本ではありえないような素晴らしい商品があるのではないか?」とアンテナを張っていましたが、古い知人から、マカオのジャンケット会社であるB社発行の債券を紹介されました。

 

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Aさんはその債券の購入を検討するため、すぐにその紹介者である知人と一緒にマカオに行き、この債券を発行しているB社を訪問しました。

 

B社がマカオの中心街に位置するビルに入っていたこと、そしてカジノ関連ビジネスを行えるライセンスの証明書をAさん自身の目で確認したことで、この会社を信用することにしました。

 

B社が提示した「月のリターンが5%」という条件は、通常であれば信じがたい好条件なのですが、「これほど高いリターンなのは、ジャンケットのビジネスだから」と言われ、その言葉に納得しました。

 

この投資に乗り気になったAさんは、帰国後、投資仲間を集めてしばしば開いているパーティに、B社の幹部を招きました。このパーティにはなんと、マカオのカジノを牛耳っている一族(と称する)Cさんも、わざわざ来日して参加してくれました。

 

実はマカオでは、カジノ場を営むライセンスを持っているのは6社しかありません。そのうちの一社の一族の人間が関与しているビジネスなら、Aさんが信頼するのも無理からぬことでした。

止まった配当の振込み…訪ねたオフィスはすでに閉鎖!?

当初は順調に振込まれていた配当ですが、4回目の配当支払日、B社を紹介した知人から「今日はマカオの祝日なので支払が遅れるが、安心してくれ」という連絡が入りました。

 

「まあ、祝日なら仕方ないね。祝日前に振込んでくれればよかったんだが」などと軽口をたたいていましたが、その後、いくら待っても支払がありません。

 

さすがに不安になり、B社を紹介した知人を呼び出しましたが、「カジノ場にあるホテルの新しいレストランの開設に費用がかかっていて、配当支払が少し遅れてしまうようだ」などと、筋の通らない言い訳をするばかりです。慌ててマカオのB社オフィスにも駆け付けましたが、すでに閉鎖され、人のいる気配はありませんでした。

 

そこでAさんは、何とかならないかと弊社に相談に来ました。

 

AさんからB社関連の書類をいろいろと見せてもらいましたが、B社オフィスに掲げられていたカジノ関連ライセンスの証書の写真を見ると、驚いたことに、写真撮影の時点ですでに期限切れだっただけでなく、そもそもマカオのライセンスですらありませんでした。記載されていたのは「マルタ」の文字だったのです。

 

まったく英語ができないAさんが、内容を確認しないまま信用してしまったのは明らかでした。しかし、「マカオ」と「マルタ」の違いくらいは気づいてほしかったところです。

 

それはさておき、B社の登記を調べたところ、B社は法律上は存続していました。ということは、配当の支払を求める訴えを提起することはできるでしょう。ただ、オフィスが閉鎖されているくらいですから、財産も空っぽになっているでしょう。勝訴判決を得ても、執行して財産を取り返すことは難しそうです。

 

つまり、民事訴訟はできないわけではないが、実際には、費用をかけてまで実行する意味がなさそうだ、ということです。

詐欺事件として、刑事手続の活用を試みるも…

みなさんも高校の社会科で「三権分立」を習ったと思います。国家権力は、立法・行政・司法に分けられ、チェック・アンド・バランスによって、暴走を防いでいる・・・と。さらに司法(裁判手続)も、大きく分けて、民事訴訟と刑事訴訟があります。

 

普通、紛争解決をするときには、相手方を訴えるという民事訴訟を念頭に置くことが多いですが、近視眼的に民事訴訟にこだわることはないと思います。民事がダメなら刑事があるさ、司法がダメでも立法・行政(ロビイングによる解決等)があるさというように、広い視野で見ていく方がいいように思います。

 

今回の案件では、刑事手続を活用してみることにしました。つまり、詐欺事件として警察が捜査を開始すれば、逮捕や家宅捜索もありえる。さすがに身柄拘束や有罪判決は避けたいので、詐欺の実行犯であるB社関係者が、「金を返すから被害届を取り下げてくれないか」と泣きついてくるのを期待する作戦です。

 

警察も詐欺事件として理解してくれたのですが、しかしなんとも途上国的というか、微妙な決着でした。

 

警察への被害申告というのは、結構大変なのです。現場の警察官は、切られたとか殴られたとかいう事件では、積極的に動いてくれるのですが、詐欺や横領のような経済事犯について納得してもらうのは大変です。

 

今回も、数十ページにもわたる契約書のコピーだけでなく、契約書の要点をまとめたうえ、事実関係の要点整理をした表、B社幹部やマカオのカジノを牛耳っている一族(と称する)Cさんを招いて開催したパーティの写真などを持参し、準備万端でのぞみました。準備の甲斐あって、現場の警察官も警察上層部も、本件が計画的な詐欺事件である可能性が高いことを認めてくれました。

 

にもかかわらず、証拠が弱いなどと言って、立件しようとしません。「証拠が弱いならば、容疑者への聞き込みなど証拠集めをすべきでしょう!」と強硬に主張したところ、警察官からは驚愕すべき言葉が返ってきました。

本物の有力者の関与があり、警察も手が出せず

「マカオのカジノの有力一家の人間が本当に関与している。だから、捜査を始めてから、やっぱり白でしたというわけには行かないんだ。あなた達が証拠を持ってくるなら見るが、我々が積極的に動くことはできない」

 

新興国で「王族が関与している」「軍が関与している」等と言われる投資案件は大抵ウソで、ウソゆえに投資した金が戻ってこないのが通常です。

 

ですが今回のマカオの案件は、本当にマカオの有力一家の人間が関与していたため、警察も手出ししにくく、それゆえに金が戻ってこないという、これまでとは事情が異なる、変わった事件だったのです。

 

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