老後資金として2000万円の自助努力が必要、とも読める内容で物議を醸している金融庁の報告書。麻生太郎金融担当相は6月11日、「正式な報告書として受け取らない」と述べており、異例の「出し直し」となる可能性もありますが、金融庁という公的機関が「長期的な資産形成の必要性」を掲げたのは事実です。そして、具体策の一つとして示されているのが「投資信託」の活用ですが、日本の場合、その利用実態にも見逃せない問題があります。この記事では、アメリカの状況とも比較しながら、投資信託の正しい利用法について改めて考えていきます。

投資信託の「満足度」が「非常に低い」日本

今回の金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、ライフステージを通じた資産形成における「長期・積立・分散投資」の有効性について述べるとともに、具体的な資産形成の手段として、税制面で一定の優遇措置がある「つみたてNISA」と「iDeco」を取り上げています。iDecoについては預貯金なども対象とするものの、基本的にはいずれも「投資信託」の利用を念頭に置いた制度です。

 

実際、投資信託は世界中で活用されている運用商品の一つです。主なメリットとしては、次のようなものがあります。

 

・運用のプロ(ファンドマネージャー)が運用

・分散投資でリスクを軽減できる

・個人では投資しにくい国や地域、資産に投資できる

・少額から投資が始められる

 

しかし実情としては、なかなか日本には投資信託の利用が定着していません。それはなぜでしょうか。

 

日本での投資信託の利用は、102兆6,319億円(2017/8末)です。家計資産全体の5.6%で、米国(20兆3,775億ドル(2017/6末))の25.4%の5分の1です。なぜ、利用が進んでいないのでしょうか? 投資信託に関するアンケート(以下、一般社団法人投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査報告書2015年」から抜粋)では、約70%の投資家が満足していないという結果になっています。

 

・「期待どおり」「期待以上」・・・ 16.9%
・「期待以下」「全く期待はずれ」「なんともいえない」・・・ 72.2%

 

そして、日本で投資信託を購入する場合、約80%の人が証券会社、銀行の店頭から購入しています。

 

●投資信託購入のきっかけは?

 1位 証券会社や銀行からの勧誘

 

●投資信託の購入先は?

・証券会社の店頭 37.7%

・銀行の店頭 41.1%

 

要は、約80%の人が証券会社、銀行の店頭から購入し、約70%の人が投資信託の成果に満足していないのが現状なのです。なぜこうなってしまうのでしょう。次のような、投資信託のセールスを受けたことはないでしょうか。

 

・テーマ型、毎月分配型ファンドを強く勧誘してくる

・人気ランキングリストを使って上位のファンドを勧誘してくる

・複数の投資信託に分散投資せず、1本の商品を勧誘してくる

・商品内容が複雑で理解できない商品を勧誘してくる

・新規設定された投資信託を積極的に勧誘してくる

・系列の運用会社の商品ばかり勧誘してくる

・コストの高いファンドラップを積極的に勧誘してくる

 

これらを見るとわかるように、日本の投資信託の販売・購入の現場では、投資家が何のために、何を期待して(どのくらいのリスク・リターンを想定して)投資信託を選ぶ(腹落ちして投資する)のか、というプロセスが決定的に欠如しています。

 

既存の金融機関からすれば、かつての本業(融資関連等)収益の目減りの穴埋めに、投資信託の販売収益は非常に大きいものがありますので、上記のプロセスよりは、販売手数料重視の営業目標で動いています。表層的なニーズヒアリングは行いますが、結果的に商品も「テーマ型」「毎月分配」など、お勧めしやすい商品が売れ筋になり、一括での購入を勧め、値下がりしたあとは、「リスク商品ですから・・・」の一言。これでは、自ら考え、選び、腹落ちするというプロセスは生まれようがありません。

 

本来、「おカネに働いてもらう」投資運用を行い、初心者でもプロの力を借りてニーズに合わせた運用が実現できるのが「投資信託」です。すでに購入している人の多くは「これからは資産運用も重要だ」と考え、投資信託にアクセスしたはず。ところが、上に見てきたような事情から、商品のセールスマンの言うがままに、行き当たりばったりの投資をして、満足度も上がらずに、入れ替えを繰り返すのか、撤退なのか、塩漬けなのか・・・。

 

やはり大切なのは、投資家する本人が、「投資の目的」と「期待するリスク・リターンの程度」を明確にし、納得した上で選び、投資をするというプロセスなのであり、ここが欠如したままでは、資産形成どころか、(実際、多くの人が経験し、不満を感じているように)資産を毀損することになりかねません。

投資信託が定着しているアメリカ。日本との違いは?

ここから、何問かQAを見ていきましょう。

 

Q1、日本では、この20年で家計金融資産が1.5倍に、アメリカでは?

答え:アメリカでは3.3倍です。

 

これだけを聞くと、アメリカは景気が良いな、日本は長期のデフレで苦しんで…云々と思われるかもしれません。正確には、米国では、家計金融資産が1995年から20年間で3.32倍になっているのに対して、日本は1.54倍に留まっています。では、このQAではどうでしょうか。

 

2、日本では、この20年で運用リターンによる家計金融資産が1.2倍に、アメリカでは?

答え:アメリカでは2.45倍です。

 

景気が良くてお給料が増えたとかではなく、「おカネに働いてもらったリターン」に大きな差があるのです。アメリカでは、20年で金融資産を投資だけで倍以上に増やしています。

 

[図表1]家計金融資産の日米比較

 

[図表2]日米英家計金融資産の推移

 

着目すべきは、日米の家計金融資産の、預貯金と株・投資信託が、まったく正反対の内訳になっていることです。日本では5割が現預金、米国では5割弱が株・投資信託です。先ほどの、リターンはその結果としてご納得いただけるでしょう。さらに、日本人として理解したいのが、次のQAです。

 

3、日本では、2015年の家計所得のうち勤労所得と財産所得(運用リターン)の比は、8:1です。アメリカでは?

答え:アメリカでは、3:1です。所得の25%は投資リターンです。

 

日本人は、所得は汗水たらして働いた対価であり、運用リターンのようなものは「不労所得」という言葉に表されるように、投資による収入は軽んじられる傾向がありました。しかしながら、労働に割ける時間は有限です。どんなに付加価値の高い仕事をされている人たちであっても有限です。やはり「おカネに働いてもらう」ということを、しっかり考える必要があるということです。

 

下のグラフは日米の家計所得全体の中の勤労所得と財産所得の比率を表したものです。 米国では、家計所得のうちの勤労所得と財産所得の比が概ね3:1で推移し、家計をサポートしています。一方、我が国では、足元で8:1程度と、財産所得が家計所得に貢献できていません。

 

[図表3]日米の家計所得の推移

今の日米の差は「途中経過」。将来はもっと差がつく?

日本においては、資産運用における成功体験が少なく、バブルとその後の不景気を経験し、「投資=投機」という固定観念が根強くあります。しかしながら、「おカネに働いてもらう」ことをしっかりと考えないと、このままの状態では、ますます日米の家計金融資産の差は広がっていきます。良く言われる、「複利効果」を考えれば、より広がることは必然です。

 

さらに、日本特有の問題もあります。政府、日銀によるデフレ脱却の政策が積極的に実施されています。その結果、近い将来、日本でもインフレが起こる可能性も考えれば、自身の資産保全を真剣に考える時期に差し掛かっています。下のグラフのように、インフレの時代においては、保有する資産を一定以上の利率で運用することが重要になってくるわけです。

 

[図表4]インフレ率2%を前提とした資産の実質的な価値

 

もちろん、中には「アメリカは景気も良いし、優れた運用商品がたくさんあるから、結果的にリターンが良いんでしょ」という意見もあるでしょう。そうです。だからこそ、投資信託が良い、と考えることもできるわけです。

 

投資信託とは、多くの投資家から集めた資金を運用のプロ(ファンドマネージャー)がさまざまな市場に投資をし、運用成果を投資家に還元する商品です。だから、日本人であろうが、アメリカ人であろうが、本来は、同じ投資を行うことが可能になるものです。

 

つまり、投資信託を利用すれば、アメリカ人と同じ環境で資産を形成していけるわけです。要は、投資をしたか、していなかったかの差なのです。 かつて米国も、日本と同じ程度の株式・投信保有比率に留まっていましたが、401k(企業型確定拠出年金)やIRA(個人向け確定拠出年金)などの税優遇処置を含んだ政策を打ち出し、少額からの投資や投資積立、長期投資を可能にして、株式・投信保有比率を高めたという経緯があります。その結果、アメリカ人は資産を増やすことができました。 日本でも、NISAやつみたてNISA、iDeCoの普及とともに、資産運用が活発化されることが同様に期待できます。

結局、投資信託は誰から買えばよいのか?

ただ、冒頭で見たとおり、日本の投資信託の販売・購入の現場では「本来あるべきプロセス」が欠如してしまっています。ここでもう一度、アメリカと比べてみましょう。アメリカと日本の投資信託販売チャネルの比較は以下のとおりです。

 

アメリカに大量にあって、日本にはあまりないもの、それは「IFA」と呼ばれる、特定の金融機関に属さず、独立・中立的な立場から顧客に資産運用のアドバイスを行う専門家の存在です。米国では約30年前から普及し始め、証券会社の営業員と同数まで拡大しています。

 

[図表5]日米の投資信託販売チャネル利用状況

 

IFAは、それぞれ独立した資産運用のアドバイザーですから、具体的なアドバイス手法もさまざまですが、例えば、投資家が望んでいることを聞き(目的の明確化)、どのような資産に配分すべきか(アセットアロケーション)、その中でどんな投資信託がニーズに合致するか、具体的な候補を提示する(ポートフォリオ)といったパターンが主流です。

 

[図表6]アセットアロケーションとポートフォリオ

 

目的に沿った資産配分の案を作成することが、「アセットアロケーション」です。その中で、どんな投資信託が適しているかの候補提示が「ポートフォリオ」です。運用成果に最も重要な影響を与えているのは、資産配分(アセット・アロケーション)だと言われています。投資の成否を決める要因において、個別銘柄の選択や売買のタイミングなどが占める割合は2割程度に過ぎず、約8割は資産配分によって決まるという研究結果もあります。

 

長期的な資産形成を実現するには、資産の大きな目減りを防ぐことが大切、一見退屈に思える運用方針でも、それを守り抜くことが必要です。

 

例えば、投資でマイナスが33%出てしまった場合、そこから元(投資した金額)に戻すには、50%のプラスが必要(100×33%=33 100-33=67 67×50%≒33 67+33=100)ですが、マイナスが10%の場合は、11%の上昇で元の金額に戻ります。つまり、なるべく大きな下落を避けることが肝要なのです。この点で、資産配分(アセット・アロケーション)は下ブレのリスクを抑制し、資産の大きな目減りを避け、着実に資産を増やすことを目標とした運用手法です。

 

やはり、投資を考える場合は、「商品ありき」ではなく、まずは自身の運用目的、運用期間、リスクの許容度などに適したアセットアロケーションを考え、その上で適した商品(ポートフォリオ)を選択することが大切です。

 

今回の金融庁の報告書の中にも、「米国では証券会社などの金融サービス提供者から独立して、顧客に総合的にアドバイスをする者が多数いるが、日本においてこれに類似する者は存在するものの、まだまだ認知度は低く、数は少ない。今後は認知度向上に努めるとともに、そのサービスの質的な向上に努めることが望まれる」という言及があります。優れたアドバイザーをどう見つけるか、それが投資信託を正しく利用する第一歩といえそうです。

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