※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。本記事は、2019年5月14日、21日に掲載された古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。

当座貸越枠の継続に、「決算書一式」を渡す必要はない

そろそろ決算が確定します、という会社が多い時期に入ってきます。「銀行にはどう対応すればよいでしょうか?」と気にされる経営者も多いです。

 

借入金がない会社でも、大きく二つに分かれます。まずひとつは、借入金はないけれど、当座貸越の枠があります、という会社です。

 

当座貸越は、1億とか2億とか、金額の枠を設定して、いつでも使えるようにしておくものです。枠設定した金額のなかで、借りた金額が短期借入金として処理されます。当座貸越枠を使うのは基本、それを必要とするときだけです。何らかの手付金など、急な資金需要が発生したときです。

 

この場合、借入金がなくても、当座貸越枠を継続するため、銀行は決算書内容の確認を必要とします。なので、こちらから声をかけずとも、銀行側から、「そろそろ決算書はできましたでしょうか?」と言ってきます。

 

それを待てば結構です。こちらから連絡して、銀行へ出向くまでせずとも構いません。但し、これはあくまでも、当座貸越枠を使っていなければ、の話しです。使っていれば、借入金があるときの対応をとる必要があります。

 

銀行員が会社へ来たら、渡すのは、「貸借対照表」「損益計算書」と、付随する「販売費及び一般管理費内訳」と、あれば「製造原価報告書」までで結構です。

 

おそらく銀行員は、「決算書一式全部いただけますでしょうか? 各勘定科目の明細も全部、いただけますでしょうか?」と言ってきます。そこまで渡す必要はありません。「当座貸越の枠設定の確認のためだけなら、どうしてそこまで必要なんですか?」と言い返せばよいです。

 

銀行は、当座貸越枠を継続してもよいかどうか、格付(スコアリング)の確認をするだけです。それなら、各勘定科目の明細など、必要ないのです。

 

ここで丸々一式を渡す経営者が、まだまだ多いです。「そうするものだと思ってました!」「銀行に言われたら、必要なのだと思ってました!」となるのです。

 

全部渡すから、その明細から資金需要や経営者の性質を読み、よからぬ提案をしかけてくるのです。前期に比べて、有価証券が増えているなら、買う気があるとみて、提案してきます。あるいは、同族判定の株主に、経営者の父や母が載っており、そこそこの株数を持っているなら、事業承継の提案にやってきます。決算書の明細を渡すということは、提案のネタをさらけだすのと同じなのです。

 

当座貸越枠もなく、全くの無借金、あるいは、現時点では全く取引のない銀行への対応、となると、また別の対応になります。

「スコアリングだけなら、できるでしょ」

ここまでは借入金はないけれども、当座貸越枠があります、という会社の銀行への対応を述べました。次はもうひとつ、無借金の状態で、新たな銀行に新規に当座を開設し、当座貸越枠を作る、あるいは新規借入をする、という会社の場合です。

 

無借金ですから、基本、財務状況は良いはずです。銀行にすれば、是が非でも取引きに繋げたい会社です。その場合、「損益計算書」と「貸借対照表」だけでOKです。「販売費及び一般管理費内訳」や「製造原価報告書」も、渡さなくてよいです。スコアリング(格付)だけなら、それでできるからです。

 

「スコアリングだけなら、あの配点表からすれば、貸借対照表と損益計算書だけでできるでしょ」と言えばよいのです。その発言で、「並みの経営者とは違う」ということをまともな銀行員なら察知するはずです。

 

5年分を要求されたら、「損益計算書」と「貸借対照表」のみ、必要な分をお渡しすればよいのです。但し、現状の決算状況が芳しくなければ、その内情を把握すべく、しつこく要求してくることがあると思います。その場合のみ、もったいぶって渡せばよいのです。芳しくない、というのは、営業利益段階で収支トントン程度から、それ以下の場合です。

 

それでも恐らく、初めての銀行であれば、「損益計算書」「貸借対照表」のみならず、その他の資料も要求してくると思われます。その場合は、「損益計算書」と「貸借対照表」を、最初にチラ見せすればよいのです。渡さずに、まずは見せるだけにするのです。

 

自己資本比率が30%以上あり、損益計算書の営業利益も10%近く以上あるようなら、決算書を読める銀行員は、よだれがでる状態になるはずです。顔に出さないものの「鉱脈を掘り当てた!」と内心、うかれるはずです。ここまで利益率がなくとも、数%以上の営業利益率を維持しているのなら、まずは見せるだけでいいです。とにかく、スコアリング(格付)に、販管費内訳表や製造原価報告書は、必要ないのですから。

 

損益計算書と貸借対照表をチラ見せして、「こういう状況です。だからこれだけで十分じゃないですか、とおたずねしているんです」と言えばよいのです。

 

で、「もちろん、実際に当座貸越枠を使ったり、新規借り入れをお願いすることになれば、その際は、販管費内訳も製造原価報告書も提出して説明します」と伝えればよいのです。

 

今は借り手が有利の時代です。特に決算書の内容が悪くなければ、銀行は絶対にくらいついてきます。その有利な立場をうまく使って、有利な条件を獲得してほしいのです。

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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