米国には様々な種類の信託があり、相続対策や資産形成など目的や用途によって設定するトラストは異なります。本記事では、米国富裕層が活用する生命保険信託「ILIT」について解説します。

高利回りな「インデックス型ユニバーサル保険」を活用

本連載第7回で述べたように、米国には様々なトラスト(信託)があります(関連記事『米富裕層が「信託(トラスト)」を活用して節税する理由』参照)。今回は、資産形成や節税目的で利用される特別なトラスト、Irrevocable Life Insurance Trust(通称「ILIT」)という米国の生命保険信託について紹介します。

 

ILITはその名の通りイレボカブル・トラストであり、一旦設定をすると、内容変更や撤回ができないトラストです。生命保険契約のために用いられる特別なトラストで、生命保険のポリシー(保険証券)がトラストの財産となります。

 


 
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米国では、運用利回りが高く、保険料に対して死亡保険金が高額な「インデックス型ユニバーサル保険」を利用した資産形成スキームが多用されています。さらに、ILITをノングランター・トラスト(本連載第7回で解説)と設定し、保険契約をすることで、米国遺産税の回避が可能になるため、資産形成と節税において、最大限のメリットを得ることが可能になります。

 

◆Irrevocable Life Insurance Trust(ILIT)の構成

 

[図表]Irrevocable Life Insurance Trust (ILIT)の構成

 

① セットラー(Settlor/委託者)とトラスティ(Trustee/管財人)がトラスト合意書(Trust Agreement)を交わし、Irrevocable Life Insurance Trust(ILIT)を設立

 

⇒セットラーの死後にトラスト財産を承継する人を、トラスト合意書に指定しておきます。原則として、あとから承継人を変えることはできません。

 

② セットラーがお金をILITに譲渡

 

⇒米国の判例法Crummey v. Commissioner, 397 F.2d 82(9th Cir. 1968)により、ILITへの譲渡は、トラスト財産の承継人へ贈与があったとみなされます。そのため、基礎控除額を上回る贈与に対しては、原則として贈与税が課税されます。

 

⇒ILITへ譲渡したお金は保険料として利用されます。一括で保険料を譲渡せずに、毎年の保険料に合わせて譲渡することにより、贈与税を調整することができます。

 

③ ILIT(のトラスティ)がセットラーを被保険人とした生命保険契約を締結し、保険料を支払う

 

⇒セットラー(被保険人)の死後に支払われる保険金の受取人は、ILITになります。

 

④ トラスティがトラスト合意書の指示に従い、ILITが受け取った保険金を運営

 

⇒多くの場合、トラスト財産(保険金)はあらかじめ指定した承継人に配当されます。

ILITを利用した生命保険契約により得られる節税効果

【事例】資産総額10億ドルを有する父が、死亡保障額5億ドルの生命保険に加入し、子供を保険金の受取人に指定した。

 

【解説】

 

●個人で保険契約をした場合

 

日本において、生命保険金は「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になります。一方米国では、生命保険金は課税対象外となるため、本事例では、子供が5億ドルを完全に非課税で受け取ることになります。しかし、父が個人名義で生命保険契約をした場合には、保険金の5億ドルも父が所有していた財産とみなされ、米国遺産税の課税対象になります。つまり、死亡時に15億ドル(所有資産10億ドル+死亡保険金5億ドル)の遺産があったとみなされ、遺産税の基礎控除額を上回る分に対して課税されます。

 

●ILITで保険契約

 

一方、ILITで生命保険の契約をした場合、父の死亡時に遺産税の課税対象となるのは所有資産の10億ドルのみです。ILITを通して生命保険契約を行うことにより、保険金を米国遺産税の課税対象から外すことが可能になります。

 

ちなみに、米国にも遺産税の基礎控除があり、毎年インフレーションに応じて変動しますが、2019年は1人11.4億ドル(約12億5000万円)と莫大です。つまり、基礎控除額を下回る10億ドルの資産は非課税となり、子供はさらに保険金の5億ドルを非課税で受け取ります。ILITの活用により、米国遺産税を完全に回避することができるようになります。

 

ILITと、米国の高利回りな「インデックス型ユニバーサル保険」を一緒に活用することで、資産を大幅に増やしつつ節税を図ることができ、最大限のメリットを得ることが可能になります。

 

ILITは、米国非居住者が米国生命保険の加入を希望する際にも有効利用が望めます。また、日本居住者に適用した場合、利用方法によっては大きな節税効果も期待できます。

 

 

佐野 郁子

弁護士法人 佐野&アソシエーツ 弁護士

 


 
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