2018年12月、アップルは10億ドルを投じて、テキサス州オースティンに第2本社を建設することを発表しました。カリフォルニア州クパチーノには本社が、オースティンにはすでに支社があります。なぜ、アップルはオースティンでの第2本社建設を決めたのでしょうか。本記事では、建設プロジェクトの歩みや、第2本社の建設地にオースティンが選ばれた理由を解説します。

2017年4月クパチーノ本社「アップル・パーク」誕生

◆アップル・クパチーノ本社の新社屋が誕生

 

アップルは、クパチーノ本社の収容可能人数が約2,800人であるにもかかわらず、実際には1万2000人もの従業員を抱えていました。そこで、従業員たちが1つの建物で働けるよう、2011年に新社屋の建設を決めたのです。

 

そこから6年の時を経て、2017年4月に「アップル・パーク」が誕生しました。東京ドーム15個分に匹敵する175エーカー(約70万㎡)の広大な土地に、斬新なデザインの建物が完成しました。ドーナッツ型をした外観は、発表当初に「スペースシップ」と呼ばれていたとおり、まさに宇宙船です。4階建ての建物全体の外周を、曲面の窓ガラスが覆っている点は、故スティーブ・ジョブズ氏がこだわったポイントでした。

 

そして、クパチーノ本社機能の移転が完了したのち、ほどなくして第2本社プロジェクトが動き出したのです。

 

◆第2本社プロジェクトについて

 

2018年1月、今後5年の間に第2本社を建て、ほかの地域もあわせ、2万人を雇用していくことを発表しました。そして同年12月、建設地としてオースティンが選ばれ、10億ドル(約1100億円)もの予算をかけた大事業であることが判明しました。

 

第2本社では、まず5000人の従業員が勤務することが決まっており、将来的には1万5000人にまで増員されます。また、シアトル、サンディエゴ、カルバーシティでそれぞれ1000人以上、ピッツバーグ、ニューヨーク、ボルダー、ボストン、ポートランドでそれぞれ数百人以上を雇用する予定です。

 

建設予定地とされているのが、すでにオースティンに位置する支社から、1.6キロメートルほどしか離れていない場所です。敷地面積は133エーカー(約54万㎡)と「アップル・パーク」には及ばないものの、大規模な施設になることは間違いありません。また、アップルのほかの施設と同様に、職場の電力は100%再生可能なエネルギーで運用されます。本社機能としては、エンジニアリング、研究開発、オペレーション、ファイナンス、セールス、カスタマーサポートなどが入る予定です。

 

◆オースティンとは?

 

さて、第2本社の建設地として選ばれたオースティンですが、どのような場所かご存じでしょうか。

 

オースティンは、テキサス州中央部に位置する州都です。面積は約669km²、人口は約96万人(2017年末時点)、都市圏でいうと200万人を超える大都市です。

 

経済成長が著しく、世界的に注目されているオースティンですが、特にIT産業での発展が目覚ましく、サムスン電子、デル、インテルなどの大企業が拠点を置いています。

 

音楽カルチャーが染み付いた都市としても有名です。ダウンタウンの中心にあるシックス・ストリートでは、ジャズやブルースなどの音楽が響き渡り、歩いているだけで楽しい気分になります。毎年3月に、世界最大規模の音楽フェスティバルである「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」が開催されるのも、このシックス・ストリートです。音楽祭と映画祭が同時に行われ、街全体がフェスティバル会場となります。

 

そのほか、ダウンタウンの近くには、1.5km²もの広大な敷地を持つジルカー公園があります。多くの観光客で賑わう大人気スポットです。様々なアクティビティが楽しむことができ、公園内に天然温泉のプールも有しています。

 

そして、もう1つ忘れてはいけないのが、フードトラックです。日本ではあまり見かけないですが、オースティンでは一般的な、食べ歩きを愛する地元民の心強い味方です。コーヒー、チュロス、アイスクリームなどのスナックから、サンドイッチ、ロブスターロール、バーベキューやフライドチキンまであります。フードトラックが常在する公園まであり、世界各国の料理が堪能できます。

オースティンでの建設は「大きなコストカット」に

◆オースティンが選ばれた理由とは?

 

アップルの拠点拡大には、政治的な背景も含まれています。アメリカと中国の対立状態が続く今も、iPhoneの製造は中国で行われています。トランプ政権下にあるアメリカの企業として、今後の莫大な投資と雇用拡大でアピールするのが狙いでしょう。

 

そんななか、オースティンが第2本社建設地として選ばれたのには、理由があります。

 

まずは、人口の増加です。2010年の約81万人から、2017年には約96万人まで増加し、その増加率は18.5%を記録しました。ニューヨークの増加率は5.2%で、ロサンゼルスも5.2%に留まったにもかかわらずです。ほかの大都市と比較すると、総人口としては劣るものの、その増加率は驚異的で、ニューヨークやロサンゼルスを遥かに超えています。

 

そして、コスト面でのメリットです。IT業界の賃金、建設コスト、オフィス賃貸費用が他都市と比べ低価格なのです。テック人材の平均年間サラリーは9万5000ドルです。サンフランシスコは12万5400ドル、ニューヨークは11万2600ドルなので、かなりの差が生じます。建設コストは、アメリカ国内の30都市平均を19%も下回ります。オフィスの賃貸費用としては、1平方フィートあたり約35ドルで、この5年間で28%以上も上昇していますが、サンフランシスコは約62ドル、ニューヨークは約75ドルです。大規模なオフィスになるほど、大きなコストカットにつながります。

 

以上のような理由から、アップルは第2本社の拠点としてオースティンを選んだのです。

 

 

柳原 大輝

WIN/WIN Properties, LLC 共同代表

株式会社WIN WIN Properties Japan 代表取締役

 

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