前回は、顧客の心を動かして購買行動を促す「導線づくり」のポイントについて考察しました。今回は、会社を設立する際に知っておきたい法知識について見ていきます。

会社法の規制緩和の内容を把握すれば、起業が円滑に

これまでの連載では、会社経営に必要な経営戦略とマーケティングについて、実際の企業の事例を取り上げながら解説してきました。

 

ところで皆さん、実際に会社をつくってみたいと思ったことはありませんか? この連載を読んでいる皆さんの中には、いつかは自分の会社を持ちたいと思っている人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、会社を設立する際におさえておきたい、法知識をいくつかご紹介します。

 

最初におさえておくべき法律は、なんといっても会社法でしょう。会社法は、平成18年5月1日に施行された、比較的新しい法律です。皆さんの中には、商法や有限会社法のほうがしっくりくる、という方もいるでしょう。

 

会社法施行後、会社の設立や運営は、以前に比べてかなり簡単になりました。たとえば会社を設立する際、これまでは最低限度の出資金(これを最低資本金といいます)が必要でしたが、現在は撤廃されています。手元にまとまった資金がなくても、会社を設立することができるのです。

 

また、株主総会の開催場所や剰余金の配当時期・回数に関する制限もなくなりました。このような規制緩和の内容をしっかり把握しておけば、スムーズに会社を設立し、運営することができるでしょう。

 

皆さんの中には、ご友人と一緒に起業される方もいるでしょう。その場合は、共同経営者の数を奇数にすることをお勧めします。どうしても偶数で共同経営せざるを得ない場合は、出資比率が半々にならないよう注意してください。

 

会社の決まりごとは、過半数で決めるのが通常です。もし2人で株式会社を設立し、双方半々(50:50)の割合で出資をした場合は、株主議決権(ここでは会社に対する影響力、とイメージして下さい)の割合も半々になるのが通常です。意見が対立してしまったら、どちらも議決権の過半数を有しませんから、株主総会の決議も有効に成立しません。
会社の決まりごとは何ひとつ決まらず、たちまち会社の運営は滞ってしまうでしょう。

 

また、増資や事業譲渡といった会社の重要な決議には通常は3分の2以上の賛成が必要なため、どちらかが67%以上とすることをお勧めします。

退職先で交わした、入社当時の契約書には要注意!

起業をする場合、全くの未知の業界よりも、これまで慣れ親しんだ業界でチャレンジするほうが安心です。

 

皆さんの中には、長年勤めた会社で得たノウハウを活かして独立開業される方もいると思います。でもちょっと待ってください。入社時に交わした誓約書は残っていますか? そこには「退職後〇年間は競業行為を禁止する」なんて文言がありませんでしたか? これまで付き合いのあった顧客先に営業をかけ、引き続き取引をすることは、退職先の顧客を奪うことになりかねません。

 

また退職前に、自分を慕う部下に対し「お前も会社辞めて、うちに来ないか?」なんて勧誘した場合は、退職先からは引抜き行為とみなされるでしょう。これらの行為が実際に「不当」と評価される場合は、競業義務違反として損害賠償を支払わされるおそれがありますので、十分注意してください。

 

会社を設立するには、その所在地を決めなければなりません。皆さんの中には、ご自宅で事務所を構える方もいるでしょう。

 

しかし、自宅が賃貸マンションだった場合は注意が必要です。まず、賃貸借契約書を確認してください。「居住目的以外での利用を禁止する」なんて文言が契約書に記載されていませんか? その場合、自宅を事務所として利用することは契約で定めた使用目的に反する行為にあたります。最悪の場合、賃貸借契約を解除され、マンション等からの退去を命じられる、なんてこともありえますから注意してください。

 

事業が軌道に乗り始めたら、従業員を雇う必要が出てくるでしょう。また、ときには従業員に残業してもらう必要も出てくるでしょう。

 

でもちょっと待ってください。従業員を働かせることが出来るのは、1日あたり8時間、1週間あたり40時間までです。それを超えて従業員に残業してもらうには、労働基準法36条に定める協定(これをサブロク協定といいます)を作成し、所定の届出をする必要があります。

 

また、従業員が10人以上いるのが通常になってきたら、就業規則(給料や退職事由等に関する会社の決まりごとです)を作成し、労働基準監督署に届出をしなければなりませんので、注意してください。

 

いかがですか。会社を設立するときはつい難しい法律のことは後回しにしてしまいがちです。しかし、押さえておくべき法律を知り、それを守るようにしなければ、事業が順調に進んでも、思わぬところで足元をすくわれることになりかねません。ぜひ参考にしてください。

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