今回は、起業の成功確率を高める「経営戦略」の組み立て方について見ていきます。※本連載では、いつか起業したい、企業を買収して経営に携わりたい、という方々に向け、様々な事例を挙げながら企業経営の要諦を解説していきます。

優れた経営戦略の特徴は「革新性」と「合理性」

経営戦略とは、経営理念・ビジョンと実際の現場のギャップを埋めるための具体的な方法を示すものです。日々現場で的確な判断・アクションを行うためには、経営者の夢や想いといった抽象的なものが多い経営理念やビジョンに加えて、より具体的な方向性を指し示す経営戦略が必要となります。

 

「戦略」と似て非なる言葉に「戦術」があります。例えば、シェア拡大という戦略のもと、地域ごとに営業人員の構成変更を行うことが戦術です。理念→ビジョン→戦略→戦術(図表1参照)という順序を理解せず、小手先の戦術から始めると失敗のリスクが増します。

 

[図表1]理念から戦術まで

 

なぜなら、経営戦略が無ければ行き当たりばったり、出たとこ勝負となるため、事業の成功確率が高まらないからです。限られたリソースや資金、少ない労力で最大限の効果を上げるためには、より良い戦略を描くことがとても重要です。

 

優れた経営戦略の特徴として、今回ここで挙げるキーワードは、「革新性」と「合理性」です。経営戦略を立案する際には、目新しさ(=革新性)、納得感(=合理性)、そして分かりやすいストーリーにまとまっているか、を意識しましょう。

大学受験予備校として躍進した「東進」の事例

「今でしょ!」のCMが大ヒットした大学受験予備校の東進の躍進は、CMヒットの前から優れた経営戦略とともに始まっていました。

 

10年前まで、大学受験予備校と言えば、大手3強(河合塾、代々木ゼミナール、駿台予備学校)の時代でした。主要駅に大規模校舎を設け、浪人生をメインターゲットに集団指導形式で講義を行うことが当たり前となっていましたが、長引く景気低迷の中、受験浪人を避け現役合格を志向する高校生が徐々に増えていました。

 

現役合格を目指す高校生たちの大きな悩みの一つは、部活や学校行事が忙しく、浪人生のように毎回予備校の授業に出席することが難しいことでした。主要駅に大規模校舎があったとしても、すべての現役高校生が無理なく通えるわけではありません。

 

そこに着目した東進は、いち早く映像学習を導入しました。映像学習であれば、学校行事や部活等の予定に合わせて、どこに住んでいても自宅や学校近くの小規模校舎で自分の受けたい時間に一流講師の授業を受けることができます。

 

「今でしょ!」のCMは、そのキャッチーなセリフが注目を浴びましたが、一流講師が出演するこの人気CMの背景に東進の経営戦略があります。従来の集団指導形式では、時間と場所の制約から受けたい講師の授業を必ずしも受けられず、特定の講師をウリにした全国CMは流せませんでした。しかし、東進は映像学習ゆえに、CMに出演する一流講師全員の授業が選択可能です。講師を前面に売り出した全国CMを流せる点こそ、実は東進の独自性であり、他社に無い強みなのです。

 

東進の経営戦略で注目すべき点は、「他社に先んじた映像授業の活用(=革新性)」と、それによる現役高校生の「時間と場所の制約解消(=合理性)」です。東進は従来の大手予備校が得意とする事業領域(浪人生)を避け、競争が少ない成長領域(現役高校生)を選択して、「戦わずして勝つ」を目指しました。東進の経営戦略は、目新しさ(=革新性)と納得感(=合理性)のある、分かりやすいストーリーだったと言えます。

自社の置かれた現状を分析する方法とは?

革新性と合理性のある経営戦略を立案するために、「まずはアイディア出し」と考えがちですが、最初に取り組むべきは現状分析です。なぜなら、自社の置かれた状況や環境によって、アイディアの良し悪しの判断も変わってしまうからです。ある企業にとっては有効な戦略もほかの企業には悪手となることがあります。

 

現状分析は正しく漏れなく行う必要がありますが、いくつかのフレームワークと観点を知ることで、ご自身でも取り組むことができます。ここでは特に代表的な、PEST分析、3C分析、SWOT分析の3つを紹介します。

 

●PEST分析

自社でコントロールできない、政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)、技術(Technology)などの外部環境分析。
(例)少子高齢化。景気低迷による大学受験の現役合格志向増加。

 

●3C分析

内部環境である自社(company)と外部環境である競合(competitor)、市場・顧客(customer)に分けた分析。

 

[図表2]3C分析

 

●SWOT分析

内部環境である自社の強み(Strengths)・弱み(weaknesses)、外部環境である機会(opportunities)・脅威(Threats)に分けた分析

 

[図表3]SWOT分析

 

フレームワークを使って現状分析を行い、文字や図表に書き出すことで、手元にあった断片的な情報が有機的に結びつき、新たなビジネスチャンスの発見に繋がることもあります。または、自社の弱みに気づき、それを克服することで大きな経営改善が図れる可能性もあります。

 

経営戦略は必ずしも「やる」ことだけではありません。「やらない」という経営戦略もあります。例えば、自社の環境次第では、ファブレス(=工場を持たず、設計や販売に特化した企業)や業務の一部を外部委託するという判断が革新的で合理的な場面もあります。

 

繰り返しになりますが、優れた経営戦略は、目新しさやオリジナリティだけでなく、第三者が聞いても納得感があり、分かりやすいものです。現在の経営戦略が独り善がりになっていないかを常に確認し、見直しを行いながら経営を進めるとよいでしょう。

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