前回は、アメリカ不動産の購入に際し、どんな「コスト」が必要なのかを解説しました。今回は、不動産価格が上昇しているエリアの共通点を見ていきます。

人口が増えれば不動産需要も伸び、価格・家賃も上昇

信頼できる不動産業者を選んだら、予算と希望するリターン(利回り)をもとに購入する物件を選びましょう。

 

物件選びの際、必ずチェックしてほしいのは、その物件があるエリアの成長性です。第4回ではアメリカの不動産価格は年率2%の成長を続けていると述べましたが、これはあくまでアメリカ全土の成長率です。当然、不動産価格が上昇を続けているところもあれば、下げているところもあります。そして上昇しているエリアにはいくつかの共通点があるのです。

 

1 人口が増えている

2 優れた教育機関(主に大学)がある

3 交通のアクセスがよい

4 居住者の世帯収入が高い(雇用が安定している)

5 不動産価格が世帯収入の中央値の10倍以内

 

 

1つめに関しては、詳しい説明は不要でしょう。人口が増えれば、自ずと不動産に対する需要も伸びます。価格も上昇し、家賃も値上がりしていくことが予想されるのです。

 

一方で、人口が減少しているエリアでは需要が縮小し、不動産価格は下降線をたどります。このとき、不動産価格に対して、家賃の引き下げはゆっくり進むので、利回りだけは高くなるエリアも少なくありません。

 

その典型は、ミシガン州南東部のデトロイトでしょう。

 

1900年代にはフォード社を筆頭に、ゼネラルモーターズ、クライスラーなどが自動車工場を建設し、デトロイトは「モーターシティ」として目覚ましい発展を遂げました。しかし、70年代以降、トヨタ自動車をはじめとした日本車に押されるかたちで、アメリカの自動車産業は停滞することになります。加えて、グローバル化の波が押し寄せ、安価な労働力を求めて新興国に工場を移す動きが活発化した結果、デトロイトの景気は急激に冷え込んでいったのです。2009年にはゼネラルモーターズが破綻し、その後クライスラーも破綻すると、ついにはデトロイト市まで2013年に財政破綻してしまいました。失業者が街にあふれ、その土地を去る人も増えたため、デトロイトの不動産価格は下がりっぱなしとなりました。500万円も出せば、一軒家を買えてしまうような水準なのです。にもかかわらず、家賃の下げ方は緩やかです。そのため、利回りが20%を超える物件も少なくありません。

 

この利回りの高さは魅力的ですが、失業者の増加に伴い、家賃の滞納や入居者とのトラブルは日常茶飯事です。物件の管理を現地の不動産会社に任せても、不安の種は尽きません。物件の値下がりリスクを考えても、私はあまりお勧めできません。安全・安心な不動産投資を目指すのであれば、「人口が増えている」という条件は不可欠といえるでしょう。もちろん、こうしたデトロイトの状況は未来にわたって続くとは限りません。今後、何かをきっかけに大幅な人口増加局面に入り、安心・安全が担保できるような不動産の投資環境になれば、デトロイトに進出する可能性もあります。これは他のエリアでも同様です。

優れた学校の近くには「高収入の家庭」が集まる

2つめにあげた、優れた教育機関の有無も非常に重要です。第5回で述べたとおり、アメリカでは「学区」によって不動産価格が大きく変動します。高校、大学といった教育機関が集まるエリアには、自ずと学生とその家族が集まるようになるからです。当然、優秀な人材を数多く輩出する優れた大学があるエリアには、その大学に通える優秀な学生と家族が集まります。

 

アメリカは「実力社会」といわれますが、実際には、学歴が日本以上にものをいいます。過去にサンフランシスコ連銀が調査したところによると、アメリカの大卒者は高卒者に比べて8000万円も生涯年収が多かったそうです。ワシントンにあるシンクタンクが労働局の統計をもとに分析したレポートでも、大卒者の平均時給が高卒者の約2倍に達していることが明らかになっています。さらに、その格差は年々広がっているようです。

 

アメリカでは「ハーバードの学生の親はハーバード卒」などとよくいわれます。優秀な学生は、両親からして高学歴である傾向があるのです。

 

 

これらを総合すると、優秀な教育機関があるエリアには、世帯年収が高い家族が住んでいると予想できるはずです。

 

その傾向が顕著に出ているのが、カリフォルニア州でしょう。同州には全米トップクラスの大学がいくつもあります。サンフランシスコから約60キロメートル南東にあるスタンフォード大学は、ヤフーやグーグル、ヒューレットパッカードなど超有名企業の創業者を数多く輩出している、アメリカを代表する大学の1つです。ロサンゼルス郡にあるカリフォルニア工科大学もインテル、コンパックなどの有名企業の創業者を輩出している大学です。さらに、サンフランシスコにほど近いバークレーにも、ソフトバンクの孫正義社長も籍を置いていたカリフォルニア大学バークレー校があります。このサンフランシスコの家賃が非常に高いことは第15回で触れたとおりです。

 

3つめの交通のアクセスのよさは、日本の不動産市場を見る際にも重要とされるポイントでしょう。しかし、日本のように「駅近」の物件がいいといった類の話ではありません。日本の約25倍という広大な土地を持つアメリカでは、近接する空港の規模や物流拠点としての機能性のほうが重要になります。

 

例えば、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港、ワシントンD.C.のダレス国際空港、シカゴのオヘア国際空港、サンフランシスコ国際空港、ロサンゼルス国際空港、ダラス・フォートワース国際空港には日本から複数の直行便が飛んでいます。航空会社の人にお聞きしたところ、直行便はビジネスクラスの需要が高い路線でのみ運航されるようです。つまり、それだけ日本からビジネスパーソンが訪れる都市だということです。もちろん、今あげた空港はその他の国々からも数多くの直行便が飛んでいます。ビジネスの拠点となっている都市を結ぶために機能している空港なのです。

 

一方で、これらの空港はアメリカ国内の都市を結ぶ〝ハブ〞としても機能しています。交通の要所となっているため、人が集まりやすく、その土地の価値も高まりやすいのです。

 

これもよくいわれることですが、アメリカ人は〝バス感覚〞で飛行機を利用します。西海岸のロサンゼルスから東海岸のニューヨークまでの距離は約4000キロメートル。電車で横断しようものなら3日かかるので、ビジネスパーソンは通常、飛行機を利用します。アメリカ国内で大人気のサウスウエスト航空に搭乗した際、先着順で着席することに驚きました。座席指定のないバスに乗るように感じました。

 

このほかにも陸路の要所として発展してきた都市も少なくありません。詳細は後述しますが、オハイオ州からトラックを24時間走らせれば、アメリカ全土の47%まで辿り着けるとされています。そのため、アマゾンドットコムなど多くの企業が物流拠点を設置しているのです。

 

このように交通のアクセスがよい都市には、人もお金もモノも流れ込んでくると考えて間違いありません。その都市の空港の利用者がどれだけいるか? 輸送網としてその都市はどのような機能を果たしているか? そのポテンシャルの高さは、都市の成長力に直結するのです。 

本連載は、2017年8月31日刊行の書籍『戦略的アメリカ不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

戦略的アメリカ不動産投資

戦略的アメリカ不動産投資

井上 由美子

幻冬舎メディアコンサルティング

日本人の多くが将来の不安を打ち消すために、せっせと預貯金に励んでいます。今の日本は、将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。国の健全な経済の…

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