今回は、自分で自分に信託をする「自己信託」の設定方法について見ていきます。※本連載は、税理士・菅野真美氏の著書、『老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで「信託」の基本と使い方がわかる本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、「信託」のメリットと使い方をご紹介します。

公正証書とする方法と、自分で作成する方法がある

信託のしくみについて基本的なルールを決めた法律が信託法です。この法律は実は大正時代に作られていましたが、使い勝手をよくしたいというニーズがあることから平成19年に大幅リニューアルされ、改正後の信託法においては、自分で自分に信託するという「自己信託」も認められることになりました。

 

たとえば、山田太郎が所有し、耕している畑のブドウの木を、自分を受託者、長男の一郎を受益者として信託設定する場合で考えてみます。信託設定後もあいかわらず太郎がブドウの木を持ち、畑を耕しブドウの生育の世話をします。しかし、収穫したブドウは一郎のものとなります。とくに信託で制限されていないならば、一郎は収穫したブドウを自分で食べることも販売することもできますし、ワインを醸造することもできます。

 

ブドウの木の代わりに山田太郎の預金や株式にも、もちろん自分を受託者として信託をすることができます。このような信託のことを自己信託といいます。

 

自己信託は、公証人役場に出かけ、公正証書として作る方法と、手書きやパソコンを使って書面を作る方法があります。両者の方法で異なるのは効力が発生する時点です。

 

公正証書で作った場合は、作成時点で効力が発生することになります。公正証書以外の書面等で作成した場合は、受益者となる人(一郎)に対して「あなたは毎年、太郎が収穫したブドウを受け取る権利のある信託の受益者になりました」というような内容が記載された確定日付のある証書で通知をした時点で、効力が生ずることになります(信託法4③)。

 

自己信託では、設定当初は自分(委託者)が受益者も兼ねる場合もあります。つまり、委託者=受託者=受益者となっている状態です。このような状態であっても受益者が後に決まれば問題はないのですが、いつまでも三者が同一人物の場合、なぜ、信託をしているのかその意味が見いだせません。そこで、受益権の全部を受託者が個人的に保有している期間が1年間続いたような場合は、信託は終了することになります(信託法163二)。

 

なお、自己信託の場合も証書に盛り込まれる内容は遺言や契約書と同様となります。

自己信託証書の記載例

ここでは最低限、必要と思われる項目に絞ったシンプルな自己信託証書の例を記載します。なお、実際には多様な事象を想定して対応することから、より多くの項目が盛り込まれます。

 

<例>

非上場の山田産業株式会社のオーナー社長、山田太郎の希望

●株価が低いうちに、長男で常務取締役の一郎に自社株をある程度贈与したい。

●ただし、一郎はまだ経営判断に不安な面もあり、株主総会の議決権は、一郎が社長になるまで自分で行使したいと考えている。

そこで、このような希望が実現できる方法として、受益者を一郎、信託期間は一郎が社長になるまでという信託を自分で設定することを考えました。

 

[図表1]株は後継者に渡すが、議決権はキープするための信託スキーム

 

[図表2]自己信託設定公正証書の記載例

 
老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

菅野 真美

日本実業出版社

信託のメリットと使い方がよくわかります。成年後見、遺言、贈与の使い勝手の悪い部分を解決して、あなたの“想い”を叶えましょう。 <目次1> 第1章 老後の生活や資産承継のツールと課題を学ぼう(「老い」を自覚…

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