前回は、投資対象としての国内不動産について考察しました。今回は、新興国の不動産投資における「落とし穴」を見ていきます。

現地の不動産購入に必要となる「現地通貨」

近年人気の新興国における不動産投資はどうでしょうか? タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、カンボジアなどの東南アジア諸国は今後、右肩上がりの経済成長が望める地域として、不動産投資も活発です。これらの国々は日本と異なり、人口も右肩上がりで増加していく可能性が高いでしょう。そのため、不動産価格も上昇していくと予想されているわけです。

 

しかし、新興国の不動産投資には数多くの落とし穴があります。1つには通貨の変動リスクです。

 

 

現地の不動産を購入する際には、現地通貨が必要になります。タイならバーツ、マレーシアならリンギット、フィリピンはペソ、ベトナムはドン、インドネシアはルピアといった具合です。よほどの海外旅行好きや出張の多い方でもない限り、これらすべての現地通貨を手にしたことも、見たことさえもないでしょう。マイナー通貨であるそのような現地通貨は、為替市場で取引される量も限られるため、流動性が低く、当然、為替の変動リスクは高まります。

 

その最たる例が、1997年に起きたアジア通貨危機です。当時のタイはドルとバーツをほぼ固定する「ドルペッグ制」を採用していました。当局が、変動相場制ではなく、為替相場をコントロールすることを選択したために、バーツが実勢レートよりも高く推移するという〝歪み〞が生じました。その〝歪み〞が、通貨危機の原因となったのです。しかも、この危機は人為的に引き起こされたものでした。かの有名な投資家ジョージ・ソロス氏らヘッジファンド勢が一斉にバーツを売り浴びせた結果、東南アジア諸国の通貨の大暴落が起きたのです。

 

このように、新興国の通貨は人為的に変動させることも可能なほど脆弱なものであると認識しておくことが重要です。当然、現地通貨が暴落すれば円換算での価値も急落し、大きな損失を被ることになりかねません。

不動産売却時に、大きな金額の円転ができないケースも

また、まとまったキャッシュを用意するために現地不動産を売却する際にも、マイナー通貨ならではのリスクが生じます。一度に大きな金額の円転ができないケースも少なくないからです。円転の際に、多額の手数料を請求されるケースもあります。経済成長に伴って現地通貨が値上がりする可能性も十分ありますが、取引量の少ない通貨の円転には、総じて高いコストが発生するものなのです。

 

[図表1]通貨別の外国為替世界シェア(2016年)

※比率の総計は200%
(出典)Bank for International Settlements 2016年報告書
※比率の総計は200%
(出典)Bank for International Settlements 2016年報告書

 

 

そもそも、新興国では外国人は自由に不動産を売買できません。例えば、新興国の不動産投資で人気のフィリピン、タイ、マレーシアなどでは非居住者による投資に制限が設けられています。多くの場合、土地の所有権が認められず、投資先はほぼコンドミニアムに限られています。マレーシアを例にあげれば、非居住者が購入できる物件の最低価格は100万リンギットと定められています。直近のレートで換算すれば約2500万円。日本の地方の新築物件が買えるぐらいの金額が必要になってくるわけです。

 

これは当然、現地の一般層が買えるような物件でも、借りられるような物件でもありません。自ずと借り主は現地に駐在する外国人になります。実際、テナントとして「海外からの駐在員」を想定したコンドミニアムも新興国では数多く販売されていますが、ここにもリスクが潜んでいます。タイの首都バンコクでは、2015年に大規模な爆弾テロが発生しました。フィリピンでも、たびたび過激派勢力によるテロ事件が起きています。このようなテロ事件が起きるたびに、現地駐在員は帰国して事態が鎮静化するのを待つことになります。つまり、新興国の不動産投資には、想像もつかない空室リスクがついて回るのです。

 

さらに出口戦略を考えたとき、売り先は外国人投資家に限られてしまうという懸念もあります。高成長が続くようならばキャピタルゲインも狙えるでしょうが、前述したようにアメリカの利上げが新興国投資を冷え込ませかねない状況で、どれだけの人が期待どおりのリターンを得られるというのでしょうか? 少なくとも、不慣れな投資家が簡単に勝てるような市場ではありません。

本連載は、2017年8月31日刊行の書籍『戦略的アメリカ不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

戦略的アメリカ不動産投資

戦略的アメリカ不動産投資

井上 由美子

幻冬舎メディアコンサルティング

日本人の多くが将来の不安を打ち消すために、せっせと預貯金に励んでいます。今の日本は、将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。国の健全な経済の…

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