今回は、仮想通貨税制の「現状制度の限界と問題点」を探ります。※本連載では、仮想通貨と国際税務の両方に精通する税理士・柳澤賢仁氏が、仮想通貨の実態や税務上の課題等について分かりやすく解説します。

国税庁も課題として認識する「仮想通貨税制」だが…

早いもので、この連載もいよいよ第4回目になりました。多くの方から「読みましたよ!」と言っていただき、嬉しい限りです。

 

さて、この連載では下記のとおり、仮想通貨の基礎知識や税法上の取扱いを考えてきています。執筆途中に国税庁からアナウンスが出たり(詳しくは前回の記事をご確認ください)と、今年はまさに「仮想通貨元年」という言葉がふさわしいように思います。

 

第1回 仮想通貨の基礎知識と所得税法上の取り扱い

第2回 相続税・法人税・消費税法上の取り扱い

第3回 ICOの税務(発行体側の課税関係)

第4回 現状の税制の限界と問題点

第5回 理想的な仮想通貨税制

 

今日は第4回目、「現状の税制の限界と問題点」について検討していきます。中でも、トレーダーの方からよく言われる「移動平均法とかムリだし非現実的だと思うんですけど!」等々、現状の税制の限界と問題点について、それがなぜ「非現実的」なのかを考えていきたいと思います。

 

■国税庁も「課題」として認識している?

 

今年の仮想通貨全体の時価総額は、1月1日時点の約2兆円から、ピーク時には約70兆円まで大きく成長しています。

 

参考:Cryptocurrency Market Capitalizations

https://coinmarketcap.com/charts/

 

もちろん、仮想通貨トレードのマーケットは日本だけのものではありませんが、日本人のシェアもかなり高いと考えられているマーケットなので、その売買の結果として、相当大きな課税所得が発生している可能性があります。

 

そのため国税庁としても、制度を整えるのはもちろん、先述したアナウンスなどを通じて、申告漏れを防ぐべく、確定申告の啓蒙活動にあたっているように思います。

 

そんななか、最近ふたつの変化がありました。ひとつは、税務大学校(税務署の方々が研修をする国家機関)から論文が発表されたことです。

 

『仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-』安河内誠(税務大学校研究部教育官)著https://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/88/05/index.htm

 

タイトルにもあるように、国税庁としても仮想通貨の税制は「課題」として認識しているのではないか考えられます。この論文の要約を読むと、トレーダーの方に影響のある部分として、下記の指摘があります。

 

(3)仮想通貨に係る課税の考察

イ 所得税・法人税

(イ) 仮想通貨の移転

保有していた仮想通貨を提供する場合に、その時点での円換算額とその仮想通貨を取得した時点での円換算額とが異なることにより差額が発生する。

 

法定通貨で売買される場合には、仮想通貨を提供したときの円換算額とその仮想通貨を取得したときの円換算額との差額が、仮想通貨を提供した者の所得となる。複数回にわたって取得した仮想通貨を提供した場合の簿価は、外貨の例に倣い、仮想通貨の同じ種類ごとに、総平均法に準ずる方法によって計算することになると考えられる。

 

あくまでも論文ですから私見と思われますが、「総平均法に準ずる方法」で簿価の計算をするのではないかとのこと。詳しくは下記の資料も参考にしてください。株式等の事例ですが、「総平均法に準ずる方法」という意味では考え方は同じです。

 

国税庁:同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1466.htm

 

ちなみに、以前触れたアナウンスでは下記のように説明されています。

 

4 仮想通貨の取得価額

同一の仮想通貨を2回以上にわたって取得した場合の当該仮想通貨の取得価額の算定方法としては、移動平均法を用いるのが相当です(ただし、継続して適用することを要件に、総平均法を用いても差し支えありません。)。

 

出典:仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf

仮想通貨の取得費を「移動平均法」で計算するのは困難

■移動平均法は現実的か?

 

厳密には、「総平均法に準ずる方法」は「売却」の都度その取得原価を計算し、移動平均法は「取得」の都度その取得原価を計算する方法ですが、ほとんど同じと考えていいのではないかと思います。

 

ただこれ、1日に何種類もの仮想通貨を売買しているトレーダーの方は、「ムリじゃね?」と直感しますよね。

 

そもそも、BTC(ビットコイン)やETH(イーサリアム)建てで取引している人も多いでしょうから、いちいちそのときのBTCが日本円換算でいくらかまで計算していたら相当手間ですし、私個人的には「非現実的」だと思います(税理士という仕事柄言ってはいけないのかもしれませんが)。さらに言うと、総平均法でも難しいでしょう。

 

仮想通貨と同じく時価総額の概念がある株式市場では、すでに税制も実務の現場もかなり成熟していて、一定の場合には源泉分離課税で、しかも証券会社さんが「特定口座年間取引報告書」というものを発行してくれます。

 

つまり、確定申告を不要にするシステムが、証券会社と税制とでうまく整備されているんですね。

 

いまの時代、多くの方がオンライン証券会社を活用しているのではないかと思いますが、オンライン証券会社各社の「取得価額の算出方法」の解説を読むと、現状、やはり移動平均法で計算しています。

 

そして「特定口座年間取引報告書」は、オンライン証券会社各社さんのシステムがしっかりしており、コンピュータで移動平均法のプログラムが組まれていますから、基本的に間違いなく税額計算をしてくれるわけです。

 

ところが、仮想通貨の取引所は、現状サーバーが落ちて注文が入らないこともあるくらい未成熟です。

 

噂によると、APIで取引データを取ってこようにも、たまに元データが怪しい(データが欠けていたりする)ことがあるレベルのようで、システムに詳しい方が正しく課税所得を計算しようと努力しても、残念ながら、現在では正確な「移動平均法」での取得費の計算は難しいでしょう。

 

また株式と違い、取引所やウォレット間で容易に送金できてしまう仮想通貨は、取引所側としても、その人がその仮想通貨をいくらで取得したかを計算するのは不可能ですから、将来的に、株式の「特定口座年間取引報告書」のような仕組みを制度的に導入しようとしても、理屈で考えれば不可能だと思われます。

 

■平成30年度税制改正大綱に盛り込まれなかった仮想通貨税制

 

12月22日には、平成30年度税制改正大綱が閣議決定されました。

 

平成30年度税制改正大綱

http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2018/20171222taikou.pdf

 

平成29年度税制改正では、仮想通貨に関する消費税の非課税措置が盛り込まれていたのですが、残念ながら平成30年度税制改正大綱では、仮想通貨に関しては触れられませんでした。

 

つまりこのまま税制改正されてしまうと、現状と同じく、今後も各税法を包括的に当てはめて考えていくしかありません。そうすると、やはり、個人課税は住民税も含めると最大55%の課税になってしまいます。

 

ベラルーシでは、法整備が整わない間なのかどうかは分かりませんが、とりあえず今後5年間は、仮想通貨取引による所得を「非課税」にするようです。

 

他にも、そもそも譲渡益に課税しない国はたくさんありますから、日本の税制もそういった大胆な施策を検討してくれてもいいのかもしれませんね。そうすれば、優秀な人材が租税回避のために出国してしまう現象が少しは減るかもしれませんし、海外から優秀な人材を呼び込むことにつながるかもしれません。

 

さて、次回はついに最終回となります。最終回では、今日検討した現状の税制の限界と問題点をもとに、「理想的な仮想通貨税制」について、現実的なところでどうすればいいのかをテーマに考察します。

 

例えば、海外の取引所のみで取引していて脱税を試みる人と、そうでない真面目な人との公平性をどう担保するか、容易に課税所得を算定できる仕組みはどうしたら作れるのかなどを、考えていきたいと思います。

 

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